戦争——弐
「……なんだ…これ……」
天皇が、驚きを隠せないまま、口を開いた。
「アメリカが、核兵器の一種で、核分裂反応や核融合反応を利用した爆弾を日本の広島に落とした。
核兵器は、人類が開発した最も強力な兵器の一つ。その爆発は一発で、都市を壊滅させる事も可能な程の威力を持つ。」
「……」
「……」
「広島の被害は、この一発の兵器により 、
当時の広島市の人口35万人のうち9万~16万6千人が被爆から2~4カ月以内に死亡した…
原爆の熱線には、強烈な赤外線・紫外線・放射線が含まれており、約600メートル離れたところでも2,000度以上に達したと見られる。
爆心地から1キロメートル以内では、5度の重い熱傷を生じ表皮は炭化し、皮膚は剥がれて垂れ下がった。熱線による被害は、3.5キロメートルの距離にまで及んだ。」
被害の様子を映した映像が、流れるが皆目を背けたくなるような光景に皆が息を飲む。
「爆弾投下後、人々は水を求め川へと集まった。
だけど、そこにはおびただしい人が重なり合い
川に着くのは容易ではなく、求めた水は、赤く染め上がり、雨が降ったと思えば、それは、雨ではなく
原子爆弾投下後に降る、原子爆弾炸裂時の泥やほこり、すすなどを含んだ重油のような粘り気のある大粒の雨————黒い雨が降った…」
「……黒い雨……」
「体に有害な黒い雨。それは、1時間も降り続いた。
そして、その後、町にはおびただしい遺体が見つかった。
原爆投下地点には、遺体が無く、人間があっという間に、吹き消され、壁に人らしき影が残った所もあった。」
黒い塊が、無造作に道に並べられている画像
「————これは、すべて遺体です。」
小さな黒い塊。皆が口を押さえる。それ程まで、むごたらしい光景。映像を見て涙を流す人もいた。
「戦争は、それでも終わらず、アメリカ軍が
日本の長崎県長崎市原爆を投下した。」
ドォーーーーーーーン
「7万人もの被害を出した、長崎への原爆投下……。日本はついに、無条件降伏をした…」
『堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び・・・』
その後も言葉が続く……
「これは、昭和天皇の言葉です。そして、国際の場で、天皇は、
『日本国天皇はこの私であります。
戦争に関する一切の責任は私にあります。
私の命において全てが行われたかぎり
日本にはただ1人の戦犯もおりません。
絞首刑はもちろんのこと
いかなる極刑に処されても、
いつでも、応ずるだけの覚悟はあります。
しかしながら、罪なき八千万の国民が
住むに家なく、着るに衣なく、食べるに食なき姿において、まさに深憂に耐えんものがあります。
温かき、閣下のご配慮をもちまして、国民たちの衣食住の点のみご高配をたまわりますように』
そう、仰いました。
自分が悪いのだと、だから国民は助けてくれと
いかなる極刑も覚悟し、国民を庇う事が、
————貴方には、出来ますか?」
天皇を見つめ、千夜は、涙を流しながらそう言った。
「全ては日清戦争から始まったんです。勝てないと思っていた清に勝てた。日本は、黒船に驚き、異国を脅威とみなした。
恐ろしいと思っていた、相手に勝てた事により
自惚れ、世界を敵にしていったんです。
戦争は、悲しみしか生まない。」
『覚えておいてください。戦争は、悲しみしか生まないだという事を…』
あの時の言葉の意味が、今、やっとわかった。
彼女が何を言いたかったのか————
だが……
「清が、日本に攻め込んでも、戦うなというか。」
「清は、日本に攻め込んで来ない。」
「……何を根拠に……」
ニヤリ笑う千夜
「私には、切り札があるんです。一つは、連合国の血判状。もう一つは、これです。」
小さな透明の瓶を取り出した千夜
その中で、透明の液体がゆらゆらと動いているのがわかった。
「……なんだ?毒か?」
「……あの、平和にしたいのに、毒を切り札にして、どうするのですか?」
「……」
「これは、コレラを防げるワクチンです。」
「あの子の事だから、武器でも出してくるかと思ったよ……。」
「……桂……お前なぁ。」
「木戸だ。木戸っ!」
2人の言い合いにため息を吐く千夜
「まぁ、武器もあるけどね。」
「……」
「……やっぱり千夜は、読めない子だ…」
「戦争をしたく無いと言っているお前が、武器だと?」
「確かに、矛盾していますね。たげどね、武器は、守りにも使えるんですよ。」
「ものは良いようだな。で?何の武器だ?
銃か?爆弾か?」
天皇の言葉を聞いて千夜はニヤリと笑った
「戦闘機ですよ。
世界にまだ一つしか無い。この時代の人間には
作る事が不可能な武器。」
「戦闘機だと?作る事が不可能なものを
どうやって————」
天皇は、気づく。この女は未来からきたと
そう言った事に……。
「簡単ですよ。設計図さえあれば、この時代の物でも作る事が可能。
そして、世界でただ一人。それを操縦できるのは、私だけ。」
今の所だけどね。
「お前を敵にすれば、戦闘機を。」
「……日本が戦争を始めれば、私は、止めるまで。連合国と共にね。」
「お前だって日本人だろ?日本を攻撃すると言うか!」
「少し前まで、日本の中で日本人同士の殺し合いなんてやってたじゃありませんか?
意味の無い殺し合いを————。」
「今は、時代が変わって……」
「世界と殺し合いをするんでしょ?」
「……」
「全部、意味がない。殺し合いも、戦争も、なんの意味もないっ!
戦争を起こし何万、何十万もの人が死ぬと言うなら、間違った事を間違ったままにするぐらいなら、私は、
————日本を敵にしても構わないっ!」
会場が、シィンと静まり返った。
「私は、幕末に散った命に、孝明天皇、家茂公にも誓いました。
必ず、幸せな世にすると、よりよい日本にすると…
戦争にするのが平和ですか?
あなたの父上の願いを
無下になさる、おつもりですか! !」
どうか、お考え直し頂きたい。そう言って千夜は頭を下げた。
……父上の、願い……
頭を下げ続ける千夜
戦争は日本で為だと信じて疑わなかった。だけど、突きつけられた映像は、地獄絵図。
自分は、間違っていた。
なおも頭を下げ続ける千夜に、声をかけ様とした時、目の前が暗くなる。
それが、人だと気づくのに時間がかかった
そして、目に映る光るモノ……
天皇は、反射的にぎゅっと目を閉じた。
キィンっと、音がしたが、いつまでたっても痛みは来ない。
恐る恐る目を開ければ、先ほどまで頭を下げていた女が、俺を庇う様に立っていた。
そして視線を動かすと、女と男の空いたにあるナイフとクナイ……
「やっと、本性を表してくれた。
ねぇ、愛新覚羅 載?(あいしんかくら さいほう)さん。」
男の名を言った千夜。男の握ったナイフが床に落ちた。
「……」
「もう、お芝居はやめましょう。貴方が日本語を理解しているのは、わかってます。」
「……ナゼ……」
「そんな事、簡単じゃないですか?長い時間放置しても、貴方は怒らなかった。
普通、何を話してるかわからない状態なら怒鳴ってもおかしくはない。
でも貴方は、ずっと、私達の会話を、映像を見ていた。」
「……いつから……」
「初めからですよ。言葉がわからなければ
人は、恐怖を覚え、視線を彷徨わせたりするもの。でも貴方は違った。
喋る人を見て、会話の内容をちゃんと理解し、無意識に頷いていた…」
「…あいしんかんらく…?」
「誰?」
「……俺に振るんじゃねぇ!」
山崎と沖田が土方に尋ねたら怒られた。
「彼は、清、第11代皇帝光緒帝の弟だよ。」




