公開裁判と戦争
千夜達の到着しないまま、公開裁判は、始まってしまった。
戦争を止めたい。木戸と伊藤、
だが、この公開裁判で勝つための材料など
持ち合わせてはいない。
会場には、天皇の姿まであり 、公開裁判を見に来た人は、会場から溢れてしまう程の人数だった。有罪は確定だと思われた時だった。
「————。一つ聞きたいのですが、その男性の罪状は、なんでしょうか?」
そんな声が会場に響いた。
木戸と伊藤が振り返れば、そこには、頭に晒しを巻き、髪が短くなった千夜の姿。
天皇が立ち上がる。
「そいつを摘み出せ!」
「申し訳ありません。私は、ここから出る訳にはいかないんです。コレは、
————孝明天皇の御意志なのですから。」
ニヤリと笑った千夜。
孝明天皇の名が出れば、誰も手出しは出来ない。千夜を護衛するように立つ土方、沖田、山崎は、それを聞いて、小さく息を吐き出した。
「ふん!罪状?そんなの殺害に決まっているだろう。」
「ちょっと失礼。」
近くの裁判資料を一枚だけ盗む千夜。
「もう有罪と決まってるんだ!サッサと————。」
「軍事顧問は、本当に、————殺されたんでしょうか?」
「……。なにを言いだすかと思えば。話にならん!」
「軍事顧問は、外国になんていってません。
出国前に、私が、ある人物とすり替えた。
なのに、なぜ、此処には、軍事顧問と書かれているのでしょうか?
答えは簡単です。
この裁判自体が、でっち上げの裁判だから。
違いますか?」
「……そんな事は知らん!大体、軍事顧問じゃなくとも、日本人を殺したのは間違いない。」
「間違いない?私がすり替えた人物は、生きていますよ?」
千夜は、日本人を刺したという男をチラッと見る。
「……ふーん。なるほどね。」
「お前は、法定を侮辱しているのか!」
「はい。大体この裁判自体がおかしいですからね。」
はいって、言っちゃったよ。この子…… 。
ザワザワしだした会場
「法定の場を乱した罪は————」
「罪なら、いくらでも受けますよ。でも、私は、間違った事は、大っ嫌いなんですよ。」
千夜の鋭い視線に、法定の関係者は口を噤む。
「さあ、始めましょうか?————この、偽りだらけの裁判を…。」
こうなってしまえば、千夜を止めれる人物は居ない。
カタッと音がして、慶喜が千夜の近くに、歩み寄る。
「……全く、我が妹ながら、無茶をする。」
そして、手渡した資料の束。
「お褒め頂き光栄です。」
誰も、褒めてなどいない。
「軍事顧問が死んでないというなら、証拠を出せ!」
「ならば、日本人が死んだという証拠は、あるんですか?」
「……」
「……」
そんなものは無い。
ガチャっと会場のドアが開き、1人の男が入ってきた。そして、その男を見て、日本人を殺したという男の目が見開かれた。
「?!(お前は!)」
「?刺的人,以?个人没??(貴方が刺した人は、この人で間違いないですね?)」
首を縦に振る男
「彼が刺したのは、この方で間違いないそうです。彼が刺した男。この人の名は、————岡田以蔵。私の仲間です。」
コレで、この裁判は、本当に意味のないモノとなる。だが、千夜の目的は、別にあった。
「証拠が足りないなら、まだありますよ。
以蔵ともう一人、清に同行してもらった人物に
映像を撮影してもらいましたから。」
「……」
ガチャっと戸が開き、また男が入ってくる。
「————! ?古高っ! !」
清に同行してもらった人物。それは、古高俊太郎。
彼の手には千夜の携帯が握られていた。
「事前に手回しなど出来るはずがないっ!」
「……出来るんですよ。だって私は、
この先の未来まで生きたのですから。」
「何を言って……」
「疑う事なんて想定内です。別に信じようと、
信じまいとあなた方の自由ですから、なんと言われても構いません。
でもね、今日この場で、この公開裁判が行われるのは、孝明天皇の御意志です。」
「…何を言い出すかと思えば……父上は、すでに亡くなっている!」
「そうですね。確かに亡くなっています。
ですが、平和を願った彼の意志は、ちゃんと、受け継がれているんですよ。」
白い壁を指差した千夜
会場が暗くなる
そして、映写機から、孝明天皇の顔が映し出された。
「この映写機は、孝明天皇が異国の文化を取り入れ私と共に作ったモノです。
まだこの時代には、作ることが不可能な代物。
彼は、私の携帯という物から、今後起こる戦争を見て涙を流した……。
そして、コレをみんなに伝えたいと映写機をつくった。
そして今日、本当なら彼もこの席にいる筈だった…ですが、
孝明天皇は、コレを伝える前に亡くなってしまった。」
「そんな事あるハズない。父上は異国嫌いだったハズだ!」
「そうですね。
彼は、確かに異国嫌いでした。」
ほら見ろと言わん限りの天皇の顔
「……しかし、あの人……ヒロ君は、友が異国人と言われたのを酷く嫌い、異国が嫌いになった。」
「そんな幼稚じみた事……」
「幼稚じみたことでも、幼い時にそう感じてしまったら、異国に触れ合う事のないこの時代に、いい印象を上塗りするのは、不可能なんですよ。」
「……」
「彼は、私に力を貸してくれました。
14代将軍家茂、15代将軍慶喜そして孝明天皇
他にも、沢山の人が力を貸してくれた。
彼らの願いは、ただ一つ。平和の世を作る事。
より良い日本を作り上げる事。戦争なんて望んでなかった…」
「戦争をしなければ、日本は、ダメになるんだっ!」
「……どう、ダメになるんでしょうか?
清と戦争を起こせば、次はロシア。世界と戦争をする事になる。それでも貴方は、戦争をするべきと思いますか?」
「…当たり前だ。」
「では、お見せしましょう。戦争で日本がどうなってしまうのか。孝明天皇が作ってくれた映写機を使って……。」
「そんな物必要ないっ!」
天皇を見て、千夜は笑う。
「見るのが怖いのですか?」
「……そんな事は無い。」
「では、見ましょう。」
有無を言わさぬ物言いに、天皇は、椅子に深く腰を下ろすしかなかった……。
壁に映し出された画像。千夜はそれを見ながら話し出す。
「日清戦争は、朝鮮国内の甲午農民戦争をきっかけに、朝鮮に出兵した日清両国が宣戦布告にいたった。
日清戦争の原因について開戦を主導した外務大臣は、本源にさかのぼれば日清両国が朝鮮における権力競争だ
と、回想しています。
日本の戦力が240,616に対し、清は630,000……
日本の損害は、戦死 1,132人、戦傷死 285人、病死 11,894人戦傷病 3,758人
清の損害は 死傷 35,000。」
ザワッとした会場
「病死の人のが多かったんです。コレラと脚気になる人がね。当たり前ですよね。
開国をしたばかりの日本に栄養をとるだけの食料なんてないのに戦争を始めてしまったんですから…。
そして、戦地は、日本でも清でもなく、朝鮮半島で行われた。
全く関係ない朝鮮を巻き込み、戦争は、激しさを増していく。日本軍の中には、清の兵士を大量に惨殺する者も現れ女、子供も犯し、殺して行った。
そして、清も日本兵を捕まえ、市中を引きずり回し首を斬り惨殺する者さえ出てしまった。
権力、領土拡大
そんな物の為に人が虫ケラの様に殺されていった…」
おびただしい遺体が映像で流される。
日本軍約24万人に対して清軍約63万人
数字の上ではかなり日本は不利、だが、
開戦後に日本では巨額の軍事費を議会で可決。
また1873年の徴兵令以降、ドイツ式に変更された陸軍とイギリス式となった海軍など、貪欲に軍の強化に努めていた日本軍は、約8ヶ月でこの戦争に勝利。
そして、日清戦争に勝利した日本は 、下関条約を清との間に結ぶのです。
下関条約の内容は
1:朝鮮の独立を認めること。
2:遼東半島を日本に譲り渡す。
3:台湾を日本に譲り渡す。
4:澎湖諸島を日本に譲り渡す。
5:賠償金2億両を日本に支払う。
(約3億1000万円。当時の日本の国家予算のなんと2倍以上のお金です)
6:日清通商航海条約を結ぶ
(清に欧米と同条件の不平等条約を日本とも結ばせた)
こうして、日本は朝鮮半島から清の影響力を排除し、大陸進出への足がかりを築くことになる




