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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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東京への帰り道

「何してるんだろう?私。」


こんなウジウジしてるのは、嫌い。なにもする事が無く、川に石を投げ入れる。


なんにも、楽しくない。



やめよう。考えるのを————。


胸が、たまたま痛かっただけだ。そう、思おう。


忘れてしまったなら、また、新たに記憶を

思い出を作ったらいい。


そう、自分に言い聞かせる。


晒しが巻かれた頭に、自然と手がいく。酷い怪我だったって聞いた。


「生きてるだけで、充分じゃん。」


そう、思うのに、心にぽっかり穴が開いた様な感覚は、なくなってくれなかった————。


「千夜っ! !」


突然聞こえた声に、ビクッと体が反応する。

目が覚めた時彼はそばに居てくれた。


彼は仲間。


ザクザクと、彼の足音が聞こえる。近づく足音……


それ以上は、望まない。



記憶のない千夜は、自らの想いに蓋をした。

そして、沖田に視線を向け笑った。


「あーあ。総ちゃんに見つかっちゃった。」


「見つかっちゃったって……。千夜、1人で出歩かないでよ。心配したんだから。」

「…ごめん。」

「なんか、あった?」


表情が冴えない千夜を見て、沖田が声をかける。


「なんにもないよ?帰ろうか。」


飛び出した自分が言うのもおかしいが、千夜は

、何事も無かったように振る舞った。


「…う、うん。」


不自然な千夜の笑顔に行動。沖田は、戸惑いながら千夜と宿屋へと足を向けた。



あっという間に、3日は過ぎ去り、とうとう、東京に帰る日となる。


千夜の記憶は戻らず、頭には、まだ、痛々しい晒しが巻かれている。


「……椿、馬車に乗れ。」


ケイキが声をかけるが、首を横に振る千夜。


「大丈夫か?傷まだ、痛むんだろ?」


と、永倉が心配そうに言った。


「平気だよ。歩きたいの。」


そう言って千夜は、歩き出した。


「辛くなったら言えよ?」

「うん。」


だが、千夜は、2日間馬車に乗る事は無かった。橋が落ちた事で、東海道を歩いて東京へと向かった。


2日目の夜、千夜は、夜空を見上げ、また、悲しげな歌を歌った。


歌い終え、立ち上がろうとしたら、左脇腹が痛み出し、その場にうずくまる。


『脇が開いとるっ!』


突然、本当に、怒鳴られてる感覚にハッとして辺りを見渡す。だが、誰も居ない。


「……何?誰だったの?」


考えても思い出せず、そのまま、そこに、座り込んだまま動けなかった。


痛みではなく、大事な、何かを忘れてる事が、

恐怖だった————。


「ちぃっ!」


慌てたような声がして、肩を揺らされた。気づけば目の前に土方の姿。


「大丈夫か?どっか、痛いのか?」

「……ごめん、大丈夫。 」


何かを思い出した。だけど、何かがわからない。説明のしようが無かったのだ。


「本当か?」



「ごめん。ボーっとしちゃったみたい。」


ならいいんだが…と、声が聞こえた。


私には、わからないことがある


土方歳三。彼の名前は、本当に本名なのか?

違う気がしてならない。私は、彼をなんて呼んでた?


「……ねぇ。あの、さ……」

「ん?どうした?」


ちぃは、記憶が無くなってから俺の名を呼ばなくなった。


「……。名前教えて?」

「俺の名は、土方歳三。諱は義豊。」


義豊…


「……よっちゃん?」


彼は、その声を聞いて、笑顔を見せた。


「ああ。そうだ。お前は、そう呼んでた。」

「……そっか。」


「無理に思い出す必要ねぇよ。

俺は、俺らは、

お前が生きててくれるだけで、充分だ。」


土方の手が、千夜の頬に触れる。少し冷たい、その手。煙草の匂い


「……すまね。少し充電させてくれ。」


そう言って、土方は千夜を抱きしめる。


驚いた。抱きしめられるなんて思ってなかった。でも、ドクン。ドクン。と聞こえてくる

彼の心音に、抱きしめられた温もりに


すごく、安心した————。

千夜は案の定、土方の胸の中で眠りについた。


「こういうのは、変らねぇんだな。」



別に総司から奪うという選択肢などない 。ただ、本当にこいつの側は、落ち着ける場所。


今も昔も…それは、変らない。


綺麗な黒髪に頭に巻いた晒し。そっと、頭を撫でる。


「小せぇ頃は、よっちゃん。よっちゃんって、

ずっと俺の後をついてきたのに、本当デカくなったな。」


「なぁーに、独り言言ってるんです?土方さん。」


「……また、テメェは人の部屋に…」


そこまで言って口を閉ざした


「なんです?言いかけてやめるの気持ち悪いですよ?」


「……お前に言っても無駄だって思ってな。」


へー


「土方さんでも、学習能力あるんですね。」


そう言いながら、土方の腕の中に眠っている、千夜の頭をそっと撫でる。


「……うるせぇよ。」


「2人でちぃを手篭めにする気か?あんたら。」


「……山崎……」

「……山崎君……」



ジトッとした、視線を向けられた山崎。


「じょ、冗談や。何、本気にしとるん?」

「山崎が言うと状態に聞こえねぇ。」

「全くです。」


「……酷いな。せっかく、東京から連絡来たいうのに。」


東京……


沖田と土方は、顔を見合わせ再び山崎を見た。



壬午軍乱じんごぐんらん


朝鮮にて親日派の閔氏らが日本から軍事顧問を招いて改革を行う。


それに反対して大院君派(親清派)がクーデターを起し日本人軍事顧問を殺害。」


「殺害?」


うなづいた山崎



「その犯人が捕まって、日本に明日到着する。」


「なんで……?日本に連れてくる必要が…」

「そんなん、俺に聞いたかて知らんわ。」



そういうだろうと、思ってたけども。


「ただ言える事は、今じゃなきゃいけない理由がある。ゆう事や。」


「……」

「……」



2人の視線は千夜へと向けられる


「……まさか。そんな事あるわけないよ。千夜が関係あるっていいたいの?」


「せや。」


「山崎、確かに、ちぃは異国語出来るかもしれねぇが、清の言葉なんて…」



「話せるんよ。ちぃは、清の言葉を。全部可笑しいんや。山賊に襲われた時から……。ずっとな。あいつら、ホンマに山賊やったん?」


山賊やったん?


「ちょ、ちょっと待ってよ!山賊じゃなかったら、何が目的だって言うの?」



「彼奴らの狙いは、————ちぃだったんやないか?」


「何のために!」

「そんなん、戦争をする為や。」


戦争……


「その犯人は、日本語話せないの?」


「話せんやろ。ちぃが異国語を話せるのを知っていたのは、朝廷、政府。


その犯人が捕まったのは、俺らが山賊に捕まる5日前……」


確かに全てが可笑しい。


5日あれば、文は海を渡り、襲撃は可能。それまでに犯人を日本に来させる事も出来た。


だが、到着は明日……。


「明日、公開裁判ちゅうのをやるそうや。」

「……山崎、総司。すぐに、ここを立つぞ。」

「「御意。」」


土方、沖田、山崎は、他の幹部を残し、闇夜の中、馬をつかって東京へと急いだ。


寝てる千夜を連れて————。






































































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