目を覚まさない彼女の過去
今まで特に気にした事は無い。
中村と山崎。千夜の理解者である2人。だが、今回ばかりは、わから無い事だらけ。
「……俺と山崎さんは、千夜さんに命を助けられました。
本当なら、死んでいた筈だった。山崎さんは千夜さんが幼い時に、任務中に大怪我をし治る見込みはないと医者にサジをなげられた。
もう、助から無いと言われ、それを助けたのは千夜さんです。」
「……ちぃが?」
頷いた中村。ケイキは、千夜の手を握りしめ
千夜の名を呼び続けていた————。
「俺と山崎さんの中に、千夜さんの魂の欠片があるんです。俺も、どう言っていいか…」
頭をガシガシ掻く中村
「千夜の力だと思えばいいのか?」
だから、そう言ってるんだけど?と、永倉の顔を見た。
「……全て、俺の責任だ…」
そう言った慶喜に皆の視線が向けられた。
「……何を言ってるんですか…?今回、こんな事になったのは、俺たちが————。」
「違う。今回だけじゃない。
椿が、こうなってしまったのは、全て、俺の責任なんだ…。」
どういう意味かわからない。
「椿と俺は、半分しか、血の繋がりはない……」
「……。」
「……。」
「……え?」
「待ってくださいっ!ケイキ公っ!それはっ!」
中村は何かを知っているのか、慶喜を静止させようとする。だが、慶喜の口は開かれる。
「椿は……徳川斉昭の娘ではない。」
目を見開く男達
「何故、今、そんな事を……
千夜の命が危ない今っ!————そんな事、どうでもいいっ!」
「総司っ!」
「……確かにその通りだ。
だが、言わねばならない理由がある。
椿は、藤堂 高猷の娘だ。」
その名に、藤堂が固まった。そして、皆の視線が藤堂へと向く…
「……ちょ、ちょっと待ってくれ…
じゃあ、俺とちぃは……腹違いの兄妹って……事か?」
「……平助と、千夜が」
「……腹違いの兄妹……」
うわ言の様に永倉と原田が口にした
「……全く似てないな。」
斎藤がトドメの様な一言を吐き出す。
「そこじゃねぇだろっ?」
そうは言われても、そう思ってしまったのだから仕方がない。
「もっと驚くとかさぁー。」
と、藤堂が文句を言うが、真面目な場面はどうにも似合わない人たちの集まりと化している……。
「……。」
場違いな空気の中、慶喜も重大な事を話したのに、呆れ顔になってしまった。
「……すいません。」と、土方が謝る始末
「驚かないのか?」
「いや、驚いた。
けどよ、ちぃは家族みたいなもんだし
好きだった。……ってか、今も好きだけど、総司に取られっちまったし、って、ちょっと待てよ……って事は、俺、総司の義理の兄上になるのか?」
「……それ、ヤダ。」
不満の声を漏らした沖田
「なんでだよー。」と藤堂が沖田に抗議しだす。
重大発言は何処に消えたのか…
慶喜はこの空気の中、1人考えた。
幼い時、椿を溺愛する両親に嫉妬を覚え、出生の秘密を書簡で知った時、自分は、つい、家老に話してしまった。
そして、その日から、椿に向けられた兄妹達の冷たい視線と嫉妬 。まだ幼い椿を両親から離してしまった上に、かけられた、様々な術。
自分が話さなければ、椿は、術なんてかけられなかった。椿が嫌いな訳はないのに、自分が言った言葉で彼女の運命をも、大きく変えてしまった事実 。
不思議な力は、自分が話したから術をかけられ、得たのではないか?
と、慶喜は、ずっとそう思っていたのだった。
だが、目の前の男達は、重大発言に椿に向ける視線は変わらない。
彼らの反応を見て藤堂と血が繋がっている事だけ話せばいいと慶喜は口を閉ざし、椿を見つめた。
『産まれて来なければ……』
そう椿に言ったのは兄妹。
椿に言われた時、罪悪感に押しつぶされそうになった。
今は、椿が生きてくれる事を祈ろう。
短くなった髪。頭に巻かれた晒し。痛々しい我が妹の姿。
「……帰って来い。」
俺はまだ、お前に謝ってない……。
手を握り慶喜は、涙を流して、そう言った。
カタカタと音がする室内
中村が山崎に点滴を繋ぎ治療する
まだ、この時代普及してない点滴
千夜にも点滴をして、縫合されてない傷を診て
顏を歪めた。
「……ヒドイ…」
そう吐き出された言葉
千夜の傷は、岩場にぶつけた為に傷口は真っ直ぐな傷では無く、数カ所が波打った様にガタガタであった。
「……縫合します。」
縫合が苦手だった中村は、この数年で上達。すぐに支度され、麻酔を打ち縫合を開始した。
「……死なせない…千夜さん、貴方は戦争を止めるんでしょ?
こんな所で、死んでる場合じゃないっ!」
自分を助けてくれた千夜。生き方すら変えてくれた彼女。
居るのも嫌だった新撰組。
人斬り集団と呼ばれ、壬生狼と後ろ指を指された。何故、人を殺すのか、わからなかった。
なにが誠だ。なにが正義だ。
同じ日本人を殺し合う。そんなの、おかしいと
ずっと思っていた。
魂に囚われ同じ人生を何度も歩む。地獄でしかなかった自分の人生。
彼女が現れ、変わった歴史。
仲間の大切さを知った。命の尊さを知った。
全ては、目の前に眠っている彼女が教えてくれた事。
貴方が教えてくれた未来の医術で、今度は、貴方を救う————。
「……足掻いてくださいよ。千夜さん。最後まで…。」
貴方は、死んだらダメなんです…
「……千夜。」
沖田は、千夜の側から離れない。
危険とされた、3日目も過ぎ去った。ただ、彼女を見下ろす事しか出来ない。
体を拭き、傷の晒しを変え、服を着替えさせる事しか自分はやってあげられない。
「……目を覚まして?」
君が目を覚ましてくれたら、他には何も望まないから……。
何で、僕は、あの時、死んでも一緒だと、言ってあげなかったんだろう————?
『君が死ぬ時、僕も死ぬ
君が死ぬ時、君も連れて行く。』
嘘でも、言ってあげてたら……。
子供達の事を考えたら言えなかった。
でも、言ってたら、
変わってたのかもしれない。
言っても、何も変わらなかったのは、わかってる。でも、自分を責める事しか出来ない沖田。
スッと開いた襖
「……総司。お前、少し休め。ちぃなら、俺が見てるから。」
「……なんだ、土方さんか…」
少し、口角を上げた沖田だったが、なんの気力も感じない。
「…なんだって…なんだよ。」
いつも通り返そうとする土方だったが、そんな気分でも無い。
横たわった千夜を見るのは、皆、辛かった————。
*
薄っすらと目を開けた山崎
「……ちぃ……」
ハッとして、効果音がつくほどに、勢い良く起き上がった山崎
「————っ!」
「はぁ、山崎さん?貴方ねぇ、病み上がりなんですから、勢い良く起き上がったら、ダメでしょ?」
「……中村…?ちぃ、ちぃはっ! ?」
首を横に振る中村
「隣の部屋で寝てます。……出来ることはやりました。あとは、千夜さん次第です。」
中村の声を聞いて、自分の点滴を引き抜く山崎。中村は、何も言わず山崎に肩を貸した。寝てろと言われると思った山崎はキョトンとする
「 千夜さん、見に行くんでしょう?止めても無駄なの知ってますから。
貴方も、千夜さんも、本当、自分の事はいつも、二の次。今日だけですからね?」
「…おおきに。」
そう言って、千夜のいる部屋へと向かったのだった。




