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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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江戸に向かう道中

しばらくして、千夜はすすり泣きながら


「……死なないで…」と、何度も、何度も沖田に言った。


置いていかれる恐怖。


14代将軍が亡くなり、孝明天皇も亡くなった。どちらも、千夜にとっては、大事な人。


そして、この2人の死から、新選組の幹部達は

次々と死んで行く事になる。だから、きっと、怖いのだろう。同じ様に死んでいくのではないかと、彼女は思ってしまったんだ。


千夜の姿は、歳をとったのか全くわからない


髪は黒くなったが、術が完全に解けたのか、わからない。


もし、彼女の中に魂が残っていたとしたら、また、生き返ってしまうかもしれない。


僕は、泣きじゃくる千夜に何も言えなかった。


————死んでほしくない…。例え、僕が死んだとしても、本心はそうなのだ。


僕が死ぬ時、彼女を連れて行く。————彼女が死ぬ時、僕も死ぬ


その約束を忘れた事はない。


それでも、幼い子どもの事を思えば、出来ないんだ……。ごめんね…千夜。

今は、抱きしめてあげる事しか、出来ない。


二週間後、天然痘の再発は無く、新たな感染者も出なかった。二カ月ぶりに江戸へと帰る事となる。


予想外にも帰る時期が遅くなった、今回の京の滞在



一番の原因は、天然痘。孝明天皇の死だ。



あの、泣いた日から千夜が泣く事はなかった。


「だぁー身体中が痛い!」


帰りの道中で文句を言う山崎。この方、最近、仕事以外では、ワガママになったと思う。きっと歳をとった所為だ。


「……すすむ、うるさいよ。」


「せやかて~馬が病になって、死んでまうなんて————ホンマ、ついてへん! !」



天然痘ではないが、馬にも流行病が広がり、乗ってきた馬は半数に激減。


流石に、馬の病は治せず、残りの半数の馬に荷物を乗せて人間は、歩きで中山道を行く事を余儀なくされた。


山崎が文句を言うのはわかる。中山道は山道。

表の東海道のが道も綺麗。なのに、誰が決めたのか、山道を歩くしかない。


「……すすむ、背中押してあげるよ。」


昨日まで、みんなの健康診断を行ってくれてた山崎。医療班には休みはなかった。


だから、それぐらいはしてもいいかな。と、思って、山崎の背を押して千夜は歩いた。



「……千夜。君も、医療班なんだから、休んでないでしょ?」


歩きながら、呆れた顔をして沖田が口にした。


「いいのー。私は、帰ったら休めるし、烝は、仕事だからぁ~。」


「また、そんな事言って……」



「全く、千夜は、いつも自分の事は後回しだな。」


と、伊東が振り返りながら笑った。


「まったくだぜ。」


「ちぃ、本当大丈夫か?

山崎君のワガママなんて、ほっとけばいいのに……」



「藤堂さん?どういう意味や?」


みんな「言ったままの意味だよっ!」


笑い声が絶え間無い道中。このまま、笑って江戸に帰れるはずだった。最後尾を歩く千夜と山崎


「ほら、すすむ!吊り橋渡って、少し行った場所が宿だから、頑張ろう?」


千夜は山崎が少しでも、楽になる様に、背を押した。


「おう。」


日も傾き出した頃、ようやく、吊り橋が見えてきた。ここを通りすぎたら宿はすぐそこ。そんな事を考えて歩いていた。


平和な時に、慣れすぎてたのかもしれない。近くに潜む人影に、気付く事が、できなかった。


ざっと出てきた男たち。山賊だ。


「今日はついてるな。女もいるぜ?」


ケラケラ笑う男


「ほら、サッサと女を置いて行け。」


「あいにく、テメェらにやる金も女もないんだよっ!」


シュッと伊東が振り下ろした刀が合図となり、皆が、刀を構える。


警察にしか許されない刀を。だが、山崎が呆気なく捕まってしまった。


「山崎!テメェ、何してやがる!」


土方の怒鳴り声


「よっちゃん、烝は、高熱を出している。」



そう。山崎は、ただのワガママを言っていた訳ではない。体調が悪くても、誰にも気付かせたくなかったのだ。


千夜も気付いていたが、山崎の気持ちを優先させた。


「山崎が熱出してるなら、京に置いてこれば……「できないよね?」


千夜によって遮られた土方の言葉。山崎を置いていく事は出来ない。帰ったら今までの仕事が山の様に待っているのが現状だ。


そして、清も日本に入ったと噂が持ち上がっていたため、山崎は、居なければならない存在。


観察方としての仕事が江戸で待っていたから。


「……。」


置いていくなんて出来ない…


「なに、グダグダ言ってやがる!」


山賊が苛立ったように言葉を放つ。



「……ねぇ、山賊さん、その人質と

————私。交換してくれないかな?」


「ちぃっ! !」

「千夜っ!なに言ってんの!」


「だって、烝は、熱出てるし……」


「そういう問題じゃねぇだろうが!」


フラフラな山崎を捕まえられてたら、手も足も出ないから提案したのに、怒られたし。


「————いい案だと思うんだけどな?」


千夜は、山賊を見て笑って言った。



しばらくの沈黙の後


「……いいだろう。」


そう言った山賊。



彼らは、知らない。千夜が普通の女では無いなんて…


「千夜っ!」


山賊に歩み寄ろうとする千夜に男達が慌てて声を出す。


熱を出してる山崎も大事だが、千夜だって大事に決まっている。だからと言って、山賊に手を出したら体力がない山崎が、どうなるかわからない。


こんな時に、手持ちの武器は、短刀だ。


使い慣れた刀は、暴徒を止めたため、

江戸に送ってしまっていた。


後ろは吊り橋、前には5、6人の山賊

逃げる道も限られていた。



「……あかん。ちぃ…」


熱があるのに、声を絞り出した山崎。


「————…あかん。ゆうとるやろっ!」



山崎の声は、しっかり届いていた。だが、歩みを止めない千夜。山崎が静止させようとしてる理由なんて気付いていた。


山賊は、この目の前の男達だけでは無いという事を……。



目の前の山賊が口角を上げる。

山賊の前まで千夜が歩み寄ると、山崎は、地面に投げ出された。



「……っ!」

「烝っ!」


山崎に近寄ろうとする千夜


だが、


「……痛っ!」


髪を鷲掴みにされ、身動きが取れなくなってしまった。


「千夜っ!」


「……吊り橋を…早く渡ってっ! !

烝、あんた、こんな場所で倒れてる場合じゃないでしょうが!」


山崎が、力を振り絞って立ち上がる。


「捕まってるのに、随分、威勢がいい女だな。」


グイッと引かれる髪

「…っ……」


髪がこんなに邪魔なんて思った事も無い。


パサッと音がして、男達は固まった。サラサラと落ちる黒い髪。


千夜は、自らの髪を短刀で切り落としたのだ。


「……行ってっ!ここは、私が引き受ける。」


短刀を構えた千夜。置いていけという意味だろうか?


「……千夜、なに言ってんの!」


「総司……」


「なにっ!はじめくん!」


苛立ちながら、声を出した沖田もようやく、気配を感じとり、振り返る。


ザザッと周りから聞こえた音。囲まれている事に今、初めて気づく————。


髪を鷲掴みにしていた男の手に残ったのは無残に切られた千夜の髪の束。まさか、自分の髪を切るとは思っていなかったのか、

唖然としている様子だ。


とりあえず、今、山賊達の手に人質はいない。

だが、人数的に山賊のが有利である。

山賊は、山中に拠点を置き通行人などを襲う盗賊で山賊を含め、山野で通行人などを襲う盗賊を、野盗や追いはぎと呼ぶ。


ほとんどの盗賊は、多勢を以って形成し、首領格を中心とした組織を構成している。


構成員には、犯罪者、貧困層、反政府活動家などがいる。人里離れた山野に拠点を置くことが多いが、都市部では貧困層の生活する地域を拠点とする場合もある。


頭の中に流れる情報。山賊は、『女も居る。』確かにそう言ったが、金銭の要求は無かった。

と、なれば貧困層では無い。身なりも別に汚らしいものでは無いし、特に日焼けもしていない。


頭に浮かぶ一人の男……

江戸に向かったのを知っている。京に住む男。


『父上の元許嫁だかなんだか知ら無いが……』



そう言った、明治天皇の顔が、この時、何故かハッキリ浮かんだのだった————。










































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