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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
265/281

孝明天皇死す

二日後、牛痘ワクチンは間に合わず、


ヒロ君は……いや、

孝明天皇は亡くなった————。


雨が降る日に。


「…起きて……ねぇ!ヒロ君っっ! !」


泣き叫んでも体を揺すっても、彼は、戻ってこない。

もう、二度と目を覚ます事はない。


遺体の前に、ただ、呆然と座り込む。


残ったのは、腕の痛々しい注射を打った跡だけだ。



いえもち君、ヒロ君。

幼馴染みの2人が死んでしまった————。


「…クッ……」


死んで、しまったんだ。


『椿~!かくれんぼしよー。』


いえもち君に、


『椿は、僕と遊ぶのー。』


ヒロ君。


幼い頃の記憶が、頭の中で再生される。


助けられなかった。


ガシャンッと点滴の台が音を立てて倒れる。


息を引き取ってまだ、5分も経って無い。

まだ、人口呼吸をすれば、助かるかもしれない!千夜の頭は、正常では無かった。


「千夜っ!もう、これ以上苦しめるなっ!」


総司に腕を取られ、人口呼吸なんてできる状態じゃ無くなった。



ヤダ……死んだら、ヤダよ


「病になんて、負けないでよ!ヒロ君っ!


ヤダよ……。一緒に、良い国にしようって言ったじゃん!」


「ちぃ!」


自分が何をしているのか、全く理解出来ない。


ただ、みんなに体を押さえられたのは、わかった。


そして、バシンッと頬に痛みが走る。


目の前に立つ、黒装束の男。私の目を覚ますのは、いつも、彼。山崎烝だった————。


「椿、もう、天皇は、————死んだんや! !」


「…ヤダ……」


「ヤダちゃう。お前には、まだやる事があるんやろ?ちぃっ!」


やる事……?


残されたヒロ君との約束。いえもち君との約束


そして、今迄、戦いながら皆が夢見たのは、


日本を良い国に。日本を平和な世に。


そんな、目にはハッキリとは、見えない希望————。



ボロボロこぼれる涙


ズルイよ。先に死ぬなんて。


絶対、今より平和な世にしてみせる。だから、今は、泣かせて下さい。


貴方の死をちゃんと、受け入れるから、

今だけ、許して下さい……。ヒロ君。





ヒロ君が死んだ翌日、ワクチンと蘭方医が御所に集まった。


たった1日。打って助かる保証は無い。だが、間に合わなかったワクチン。


この薬を作るのに時間がかかったのはわかるが、私は泣き腫らした目で、ワクチンを横目に、蘭方医達に、ヒロ君の看病をした人達に打つように指示を出した。


これで、天然痘にかかっても、重症化は防げる…


だが、発症の危険性は捨てきれない為

しばらくは、御所に滞在しなければならない。


明日は、ヒロ君の国葬が執り行われる————。


松本良順先生とヒロ君の体を清め着物を変えた


腕輪をずっとしていてくれたヒロ君。治療の為、外したが、また右腕に付け直した。


私の力を閉じ込めた腕輪。

結局、役立たずだった。病なんて治せない。


不思議な力なんて、私にはない。そっと、シルバーの腕輪に触れる。顔に残る発疹の跡。せめて、綺麗な顔で逝かせてあげたかったな。


平成から持ってきた化粧品で、発疹を隠して行く。私には、これしかやってあげれないから。

松本先生も天皇を見て驚いていた。発疹の跡を一つ一つ隠れるように施した化粧は、病気になる前のヒロ君のままで、自然に見える様にファンデを何種類も使った。


前川邸に置き去りだった化粧品が役に立った。


そして、翌日、国葬が執り行われた。

孝明天皇は、40歳で、病死。


私に力を貸してくれた天皇。私の、元許嫁であるヒロ君は、安らかに眠っている様だった。


幕末、明治、貴方が居なければ、私は、戦えなかった。世を変えれなかった。ありがとうございます。孝明天皇————。



私は、もう、泣かない。笑って貴方を見送ります。日本に平和を貴方に誓う。たくさんの笑顔が溢れる国に、してみせます?


そう、空に誓った。


孝明天皇の葬儀で 、千夜は、泣かなかった。


昨日まで、泣きじゃくっていた彼女。元許嫁であった孝明天皇、幼馴染みであったのに、葬儀では、笑っていた。


「最後は、笑って見送ってあげたいから…」と、彼女は言った。


普段は化粧はしないのに、葬儀の日は、腫れた目を隠す為に化粧をした彼女。


本当は、術を使っても助けたかったのに助けられなかった。


的確な指示を出し、看病の為、寝る時間なんて無かった彼女 。


葬儀が終わり、次期天皇が千夜の前に現れた。


皆一斉に頭を下げたが、千夜は、頭を下げなかった。


「お前が、千夜か?」

「はい。」


「父上の元許嫁だかなんだか知らぬが 、これまでと同じ様にはならん!」


そう言い放った天皇


千夜が頭を下げないから、頭を下げながら、ハラハラする幹部達。


「それは、西郷さんから言われたんですか?」


「無礼な!」


「それは、失礼しました。天皇になったから偉いんじゃ無い。平和な世を作る為に、皆が認める天皇に、なって下さい。戦争は、悲しみしか生みません。————覚えておいて下さい。」


失礼します。と、千夜は、踵をかえした。


千夜が立ち去り、天皇は用事が無くなったのか、面白く無さそうにその場を後にした。


千夜を探す新選組の面々

「何で、新しい天皇にあんな事いったのかな?」


「俺に振るんじゃねぇよ!」


土方に聞いてみた沖田は、呆れた顔をした。


確かに、彼に聞いてもわからないだろうけど、少しは考えてくれてもいいじゃない?と、沖田は、勝手な事を思ったのだった。


「ちょっと、ちぃを探すのが先でしょ?」

「そうだぜ。喧嘩なんて後にしろよ。」

「でも、千夜どうしちまったんだ?」

「話しとる場合ちゃうやろ! !」


喧嘩しながら、千夜を探す新選組。


相変わらず、賑やかだ…と伊東は思いながら、

自然と、口角があがったのだった。



「伊東さん、不気味ですから、突然、笑わないでください。」


と、沖田からのクレームが入った。いきなり、方向を変えた沖田。


「総司!どこ行くんだ!」

「芹沢さんの墓かもしれないと思って!」


皆一緒に向かってみたが千夜の姿はなかった。


『芹沢と最後に来た場所なんですよ————此処…』


その言葉を思い出した伊東甲子太郎


「神社だ。」


「神社?」

「神社って…」


「小さいボロボロの!案内します。」


そして、小さな神社に千夜の姿はあった。


「ちぃ!」


「あぁ、よっちゃん。それに、みんなも…」

「突然居なくなるんじゃねぇよ!」

「ごめん。」


シュンッとうな垂れた千夜に、皆、顔を見合わせた。


「どうして、明治天皇にあんな事言ったの?」


「戦争を起こして欲しくないからだよ。

ヒロ君が死んだ以上、私には、天皇家との関わりなんてないし、今言わなきゃ、後悔すると思った。


だから、言ったの。


それに、会って突然、父親の元許嫁だかなんだか知らないって言われて、チョット頭にきたしね。」


と、笑った千夜


疲労を隠しきれない顔で笑ったのだ。

この中の誰より、彼女が一番悲しんでいるのは明白だった————。


夜、千夜は空を見上げ涙を流した。笑って見送っても、悲しさは無くならない。


「……平和。」


簡単に言葉にはできるのに、実行するには、とてつもなく大変。


天然痘の予防と再発に注意を向けねばならないのに、今は、悲しみしか感じない。


歴史は変わった。だけど結局、平和的解決なんて出来なかった。


誰も死なずは、やはり、無理だった。


「誰も、死んでほしくないなぁ…」


今も、この先もずっと————。


それが無理だとわかっているからこそ、私は、足掻く……


少しでも、被害者や犠牲者が減る様に……。


そっと後ろから抱きしめられる。


「……総ちゃん。」

「……」


しばし、無言の沖田…


「久しぶりに、呼ばれた。」

「え?嫌だった?」


なんだか、昔に戻りたいと思ったから呼んでみたんだけど、かなり、驚いたみたい。


「嫌じゃないけど、さ。」


あからさまに、嫌そうな顔をする総司に、つい、笑ってしまった。


「なに?」


クスクスっと笑いながら


「嫌なら嫌って言えばいいのになって、思ったんだよ。」


千夜はそういった。


「…う…ヤダかも。だって、未来に行った、

沖田総司の呼び方でしょ?」


あー嫉妬してくれたんだ。


「……一緒だけど、一緒じゃないよ。」



自分で言ってて、意味がわからなくなる。


案の定、総司も、なに言ってんの?って顔しているし…


「外見が同じでも中身は全く違う。私が好きなのは、ここに居る沖田総司で、間違いないよ。」


そう言って、千夜は笑った。悲しくて堪らないハズなのに…


抱きしめた腕を解き千夜の隣に座った。


「……泣いちゃいなよ。」

「え?」


悲しみなんて、忘れかけていたのに、総司の言葉が意外すぎて、間抜けな声が出た。


「……無理してるでしょ?」


私の顔を覗き込む総司。月光に照らされる彼の顔


————誰も死んでほしくない…。居なくならないで…?


そんな思いと、ヒロ君が死んでしまった悲しみが、一気に湧き上がる。


閉じ込めてしまいたかった感情。自然と千夜の目から涙が流れ落ちた。


「ほら、無理してたじゃない。」



1人の男の為に涙を流すのは、はっきり言って嫌な気分。でも、死んでしまった相手にまで嫉妬してる自分は、もっと嫌な奴……。



誰かの為に泣くなら、せめて、僕の胸で泣いてよ。


声を出しながら、泣きだした千夜を抱きしめながら、不謹慎にも、そう思った。














































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