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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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天然痘にかかった元許嫁

「さぁ、本当に蕎麦を食べに行こうか。」


吹っ切ったようにそう言った千夜。


「千夜!」


「何?お腹減っちゃったよ。」


名を呼んで、どうしようと思ったのか。自分の覚悟だと、自らの手で命の恩人を手にかけた彼女。


僕たちは、彼女の覚悟の上に、生きている事実。どれだけ時が経とうと、芹沢鴨の暗殺だけは、彼女の中では悲しすぎる過去だということをこの日、改めて痛感した。


彼女の悲しそうな顔に、皆、奥歯を噛みしめるような表情をし、笑顔を貼り付けるのだった。



「……だな!腹減った!みんな、何食うよ?」


と藤堂が笑顔を向ける。重い空気をどうにかする様に。


「蕎麦って言ったじゃん。」

「…だから、蕎麦にも色々あるだろ?」


と、明るく話す。


時が経ち、芹沢の暗殺について疑問を持つ者は沢山いた。


藤堂も永倉も斎藤も、組の決定で芹沢は殺されたと薄々に気づいていた。ただ口には出来るわけもない。


酔った勢いで原田が口にした時。3人は、涙を流したのだ。千夜に殺させてしまった事を、その時まで知らなかった事実。何もしてやれなかった悔しさ。たった一人で抱えた彼女、それが覚悟だと言った女。


心が壊れてしまっても無理はない。


その後も梅という女の事、幕府なんてデカイ存在を動かしたくて必死になって下関戦争にまで出て、間者だと罵ったお偉方。


それでも諦めずに、前へ前へと突き進む彼女。

結果、日本は一つとなり、明治という時代が訪れた。


双子が生まれた時の沖田の言葉は、今もなお、男達の胸に深く刻まれて居る。


新選組は、皆死んでいた————。


彼女は必死に新選組を守っていた


「お前はスゲェよ。」


原田の声にキョトンとした千夜


「…何?急に…」

「本当だな!」

「だから、なんなの?」


急に意味がわからない言葉を言われた千夜は2人を見る。


「お前は、お転婆だと言うことだ。」


と、珍しく口角を上げた斎藤


「……何?全く嬉しくないよ?」

「ほら、蕎麦食いに行くんだろ?」


「ねぇ、よっちゃん?みんなどうしたの?なんか、怖いよ。」


「まぁ、みんなが、わけわかんないのは、今に始まった事じゃないでしょう?」


…確かに…


「さあ、行きますか。」

「お前が仕切るんじゃねぇーよ。」


伊東に対しては容赦ない土方は、相変わらずだ。蕎麦を食べに来ても


みんなは相変わらずで、よっちゃんに怒られる姿に思わず笑ってしまう。


そんな穏やかな時が、ある一人の人物の登場により一遍した。


はぁはぁと息を切らした男


「……高杉……」


「あれ?高杉、長州に帰ってたんじゃ。」


と口にした沖田。表情はただ事では無いと語っている。


「……孝明天皇が…」


その言葉に、ガタンッと立ち上がった千夜


「…天然痘?」

「ああ。」


「…とりあえず、店出るぞ。」


土方の声にやっと皆動き出す。


天然痘の薬を作った人物。この時代で手に入る薬


「高杉、 青木 周弼先生は?」


「亡くなっちまった。」

「だれ?青木先生って。」


「高杉の天然痘を治した人。


烝、大至急 、佐賀藩の医師・楢林宗健と長崎のオランダ人医師オットー・モーニッケ、


伊東玄朴・箕作阮甫・林洞海・戸塚静海・石井宗謙・大槻俊斎・杉田玄端・手塚良仙ら蘭方医

生存してるかわからない。片っぱしに連絡をとって!」


「……無茶苦茶や…」


「ごめん。頭がうまく動かない…」


馬に乗り、走りながら口にする千夜。


ワクチンを打ってる私しか、彼に近づけない。

せめてワクチンだけは、御所に居る人に打たなきゃ…


そのワクチンすら、千夜の手には無い。


平成の世でも、治療法は確立はされていない天然痘。対症療法が主だ。


要は、悪くならないように防ぐぐらいしか出来ない。


「高杉、点滴手に入らない?」

「……なんとかする。」


点滴なんてまだ発明されて10年経つか経たないかぐらいだろうが、高杉に言って通じたということは、見たことがあるって事だ。


水分補給は必須だ。


体力が落ちれば、ひとたまりもない。まだ、死ぬには早いよ…ヒロ君。



御所になだれ込み、天皇への謁見を申し入れる


「それは出来ません。」


家臣の言葉に唖然とする。


理由なんてわかってる。天皇であるヒロ君が

もがき苦しむ様を見せるわけにはいかないということだろう…


「…天然痘の知識はあるんですか?治せるかわからない。ですが、あなた方より知識は持っています。————私は、医者です!」


何年医療に携わっていると思ってる!例え資格がなくとも、今の医術よりも数倍の知識はある。


天皇の脈を糸ではかるこの時代。そんなのじゃ

脈なんてはかれないし、天皇に医者をつけてる意味がない。


「……松本先生が…」


「松本良順先生は、私の師匠ですが?

申し訳ありません、天皇を助けたいので無理矢理にでも、通させて頂きます!」


「なりません!」


イライラする。同じ御所の中にいるのに

こんな所で足止めを食らうなんて。


千夜は、懐に手を突っ込み、クナイを放った。


シュッシュッ!タンタン。


柱に張り付けられた家臣を見て皆が千夜を見る


「千夜…」

「こんな場所で遊んでる暇はないの。罰なら受ける!」


身動きが取れなくなってしまった家臣の横を通り過ぎ、部屋へと急いだ。


「マスクつけて。」


明治になってから、千夜が作った口と鼻を覆う布。


新選組では、何度もつけている。インフルエンザが流行ったりしたから。マスクは各自持ち歩いている。無くしたら、千夜に殺される。手作りだから…


マスクを装着し、部屋に入ると松本良順先生が布団の横にいた。



「千夜……それに、新選組の幹部まで…」

「松本先生、容体は?」


首を横に振る松本


「……私が診ます。」


目を見開いた松本


「感染する病だ。」

「だからなんですか?だから、見捨てたらいいんですか?天然痘の治し方は、知りませんが、対症療法なら知っています。私にやらせてください。」


「……わかった。」


許可をもらい、天皇に歩み寄る。


「ヒロ君…?」

「……う…はっ……」


苦しそうな呻き声


初期には、咽頭及び上気道に赤い水疱性発疹が認められる。これらには、激痛が伴い、嚥下困難となり、唾液の飲み込みが出来ずに口からよだれとして分泌される。


口の端から流れるヨダレ。

正直、こんなヒロ君を見るのは辛い。生かしたから、こんな苦痛を味あわせなければならなかった。と、どうしても、そう考えてしまう。


「口拭こうね。」


そっと手拭いで拭きながら


「どっか痛い?」


問診をする。

体温は…熱い。自らの胸を触ったヒロ君。


「胸が痛いんだね。」


ヒロ君を連れてかないで。私の友を助けてください————。


泣きそうになるのを耐え、孝明天皇の世話をした。


部屋を隔離し、体を清潔にして生理食塩水を

定期的に注射器で流し込む


生理食塩水までも、手作りしなければ手に入らない。点滴があれば、ずっと水分を送れるのだが、無い物は仕方ない。


軌道を確保して、鎮痛薬を注射する。


痛みが引き眠りについたヒロ君。顔の発疹がどうしたって目につく…


痘瘡ワクチンがあれば、感染してから4日以内に治す事が可能なのに、発疹したということは、すでに、3日以上は経過しているという事。松本先生から経過状態の書き記された書物を手に、これからの経過を考えていた。



「……椿が居れば…

平成の世で、手に入れて貰えるのに…」


ワクチンを打っても、確実に治るわけではないが、重症化はふせげる。







































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