暴動と墓参り
頭を下げ出した農民や警察官
「すいません。すっごい面倒くさいんで、やめてっ!
あのね、今偉いのは総理大臣なわけ、将軍は、肩書きだけなの!伊東、お前、口縫うよ?」
徳川幕府は終わりを告げた。政には関わっているが、城から出た将軍や家臣ら。
今では、城は、見物料を頂き、民に公開されている。
「俺が上司!せっかく助けたのに…」
助けたうちに入らないし。上司って、今頃?
「ちぃ、どうする?」
「土方さん、貴方、上司なんですから、たまには、頭使ったらいかがですか?」
「総司っ!テメェは黙ってろっ!」
「そうやって、結局、いつも千夜に頼るんだから…」
「はぁ。農民に保証ねぇ。あ…。ねぇ、よっちゃん、私の給金ってまだあるの?」
ずっと受け取らない千夜の給金は、かなりの額がたまっている。
「あるぞ。お前、受け取らないから。」
「それ、使っちゃおうか。」
「……なにに?」
「農民を保証するためにね、農協を作るんだよ。」
にこやかに言った千夜。
皆「農協っ??」
「んー、組合って言えばわかる?農民の組合を作って、作物に対してお金を払うんだよ。
それを全国各地におけば、少しは生活が楽になると思うんだよね。」
「……また、無茶を言う。」
「じゃあ、他に方法ある?」
そう言われたら…無い……。
千夜は、落ちた商品を拾いあげて、口を開く。
「ここの修繕費は、私が払うよ。」
「千夜、お前、それは人が良すぎるだろ?」
「だって、生活に困ってる人に、お金払わせれないでしょう?とりあえず、計算わかんないから、よっちゃんお願いねー」
「なんで……そこまでしてくれる?」
農民の一人が口を開いた。
「困った時は、助け合わなきゃ。
他に理由が欲しいなら、私を助けたのが、農民だったから。かな。」
それは、自分達では無いのに————。
彼女は迷うことなく、そう言った。
「そんな大金。」
千夜はその言葉に、クスッと笑う
「誰もあげるとは言ってないでしょ?ただ、私が商売をするだけだよ。」
農協、投資……
農協なんてどんな組織か、わからないが、全国にと言うならかなりの金額が必要となる。
サラッと言った千夜に、皆から呆れた視線が向けられる。
聞いたことない単語に商売と言われても、想像もつかないのだ。
とりあえず、千夜の正体が伊東にバラされたおかげで警察官は手を引いてくれた。というより、押し付けられたのかもしれない、町の片付けを————。
その後、町の片付けを行った新選組。
久しぶりの京は、様変わりをしていた。町中はあまり変わらないものの、歩く人の格好など。片付けながらも、行き交う人々をなんとなく、見つめていた千夜は、ふと思う。
世は、本当に平和なんだろうか————?
今まで藩の中しか行き来できなかった人達。大体の人がそうであった。だから言葉などは、その地ならではの喋り方で江戸に出れば通じない事は、多々ある
ケイキも、薩摩の人と話した時、全くわからず
相槌を打ったと言っていたな。
確か、明治に、国語が出来た。そういった、方言は悪いわけでは無いが、日本の共通語として、学ぶ場所が必要かもしれない。寺子屋もそろそろ学校と言われてもいいのに、そんな情報はまだない。
福沢諭吉って、どこの人だっけ?日本で初めて教科書作ったんだったよな?
明治の歴史など、そんなに詳しくないが、言葉は大事。江戸に帰ったら、農協や教育の方も考えないとな。
町中を片付け終わったのは、すっかり日が傾く頃だった————。
「お腹減った……」
「……お前なぁ…」
呆れた土方の声
「蕎麦食べよう!」
「いいですね。」
ちゃっかり沖田も便乗
「俺も腹減ったぁ~」
「俺もだ。」
「しょうがねぇ、蕎麦でも食うか。」
まだ店にも入ってないのに、沖田が
「土方さんごちそうさまです。」
そう言った。
「ちぃのは出すが、テメェら自分で払え。」
「えーー」
何が悲しくて野郎のメシまで面倒みにゃならんのだ。
「じゃ、俺が出してやるよ。」
「流石!伊東さんっ!」
「生きてくために、支持率上げないとですからね~。伊東さんは。」
沖田の言葉にピシッと伊東の額に青筋が浮き上がる。
「支持率って?沖田さん、伊東さんは、総長じゃないんですか?」
「まぁ、地位が上でも、部下に見捨てられたら
肩書きだけって事だよ。土方さんも気をつけてくださいねー」
悪びれる様子もない沖田
ピキッと青筋を浮かした土方。伊東とて、例外では無い。
「テメェは、部下とか言う前に、その性格をどうにかしろっ!」
「そうだぞ!沖田!」
うるさい2人が怒り出した
「あーあ。総司の奴。また、土方さん怒らせてら…」
「こりゃ、メシにありつけるのは、当分無理だな……」
「だな……」
「それは困る。」
「なんだ?ちぃ、お前、なんか用事でもあるのか?」
「ん?墓参りに…。でも、この時間じゃ、肝試しになっちゃうね。」
ニッコリと言った千夜
確かに、辺りはもう暗くなりつつある。肝試しの時期はまだ早いのだが。
「……。明日にしよう。」
そう提案した藤堂
「なんだぁ?平助、ビビってんのか?」
原田がすかさず、馬鹿にしたかの様に口にした。
「ビ、ビビってねぇよ!」
「ビビってんじゃねぇか!」
その様子を見ていた永倉も口を開く。
「たから!ビビってねぇ! !」
「総司っ! !テメェは、いつになったら、大人になるんだ!」
「やだなぁ~、僕は、充分大人ですよ。」
「「何処がだっっ! !」」
「どうでもいいから、お腹空いたってばっ!」
「「どうでも良くないっ!」」
どうでもいいよ……
「……じゃあ、私は、ちょっとお出かけしてくるね。」
と、言い合っている人物達の前を通り過ぎる 。
「おい!ちぃ!何処へ……?」
「ん?————父上の墓参り。」
少し寂しそうな表情をした千夜。ガシガシと首の後ろをかいた土方。
「千夜、僕もいく。」
「待て、俺らも行くって。平助~どうする?」
「う…い、行くよ!」
結局、言い合いは中断し、墓参りへと行く事になった。行く途中で花を買い、墓へと足を向けた。
墓に着いた時には、辺りはすっかり暗くなり、
藤堂が原田の着物を掴む。
いくら新選組とはいえ、実体を持たない奴は怖い奴もいる。
花を供え、千夜は手を合わせた。
————芹沢。私は、あんたの様になれた?武士になれた?
私は……貴方の娘に本当になれたのかな?貴方が助けてくれたから、私は、今を生きれる。
本当に感謝しています……。
皆が手を合わせ終わっても、千夜は、まだ手を合わせ続けていた。
彼女にとって、芹沢鴨という男は、本当に大事な存在だったと改めて実感する。
助けることが出来なかった男であり、自分の覚悟だと自らの手で殺めた存在。そして、その墓の横には、彼女の友であった女、梅の墓……。
彼女が殺めた、新選組隊士の墓。自分達は、
生き延びれた。
だが、彼らは、死を選んだのだ。
過去を思い出す度に胸が痛む。変えれなかった……出来るものなら変えたかった過去。
後悔という言葉が頭をよぎる。
一つ一つ墓に手を合わせ、涙を流した千夜。
そして、最後の墓に手を合わせ、彼女は、生き残った新選組を見て笑った。
後悔という言葉は、感じさせない。誰かを責めても仕方ない。前を向かなければならないと、
そう言っているように見えた……。




