久しぶりの京
そして、2日後、京に旅立つ事になったのだが、近藤さん、山南さん、井上さんは行けないという事で、結局いつもの試衛館メンバーか。と、思っていたら、突然、伊東が行くと言いだした。
なんだか、変な組み合わせだが、一応、仕事なので泣く泣く、双子ちゃんを明里に預け、江戸を旅立ったのだった。
連れて行きたかったけど、仕事だし。
京に着いたのは、馬で行ったから3日後だった。
「おー懐かしいな!屯所っ!」
永倉さんの声に皆、頷いた。
屯所に入り、馬小屋もちゃんと綺麗に使ってくれてるみたいで、一安心。
「あの!江戸の新選組の皆さんですか?」
その声に、千夜は、効果音がつくぐらいに素早く振り返り、
「鉄~! !」
声をかけてきた男に抱きついた千夜。
鉄こと、市村鉄之助は、あたふたした。
知らない女に抱きつかれたら、誰だって困る。
「ちぃーよぉー! !」
「始まったよ、千夜の抱きつき癖が…」
「羨ましい……」
「鉄~、背が大きい!」
みんなを無視して我が道を行く千夜
「私より背が低くかったのにぃー。」
ナデナデ
「あ、あの!誰かと間違えてるんじゃ?
確かに俺は、市村鉄之助ですが……。」
また、やってしまった…
「ごめん、ごめん。
なんか懐かしくなっちゃってね。市村君は幾つになったの?」
「18ですけど…あ、とりあえず、
中にどうぞ……」
18か…。そりゃ背も伸びるよね。
私が最後に会ったのは、14だったかな。
お茶をお持ちします。と、市村が部屋を出て行った。
「千夜!僕より若い男に抱きついてはいけませんっ!」
「……若くなきゃいいの?」
「……………。抱きつくのはやめて!」
「懐かしくなったんだってば…」
「あいつは、市村って言ったか?隊士だったのか?」
「————よっちゃんの小姓だったんだよ。
戦争の最中、よっちゃんは、自分の写真と遺髪を、あの市村鉄之助に託した。
多分、死を覚悟してよっちゃんは、鉄を助けたかったんだと思うよ。 」
「………俺の小姓。」
「もう、会えないと思ってたけど、
まさか、京の新選組に入隊してたなんて… 」
しみじみと言った千夜
「……ちぃ、暗いぞっ!みんな、生きてんだ。
笑おうぜっ!」
ニカッと笑う藤堂。
「平ちゃん…。そうだね。ありがとう。」
コトッと置かれたお茶に、局長だという男に視線が向けられた。
「相馬……」
思わず漏れた声……
「ちぃ?」
相馬主計、新選組最後の隊長とも局長とも言われた男。
「何処かでお会いしましたか?」
「……いいえ。すいません…。暴動の件、詳しく教えて下さい。」
明治維新で、次々に改革をした新政府。米で代金を払う事もあった江戸時代。それが全て現金となった。
地租改正などが原因なのだが、従来の税収を維持するように地租が定められたため、農民の負担は軽くならず、その他の要因もあって、農民の不満は高まっていた。
この暴動は伊勢で起こる筈なのだが、京に農民がいないわけでは無い————。
「暴動の本拠地は?」
「不動尊」
西本願寺が作った場所でもあり、新選組が一時期屯所にしていた場所。
「人数は?わかってるの?」
沖田が口を開いた。
「いえ、日に日に、人数が増えてます。暴動も、町人も巻き込み、先日も怪我人を出してしまい…」
————怪我人?
スッと立ち上がった千夜。
「どこへ?」
「話しててもしょうがないでしょ?不動尊に行ってくる。」
江戸の新選組の皆は、また始まったよ…。って顔をする。
「一人で?無茶だ!お前、女だろ?」
市村が千夜を止める
「女だから何?新選組は、京都守護職のお預かり 。そこから始まった組だよ。
京の治安を守らないで、一体何を守るの?」
ニコッと笑った千夜
「報告します!」
ドタバタと足音を響かせ、慌てて入ってきた男。
「どうした?」
「町中で、暴動が…」
町中…
「いくぞっ!」
皆、町中へと急いだ。
町中へとたどり着いたが、そこは、平和なんかじゃなく、農民がクワなどを振り回し、町人が騒ぎ逃げ惑う……。そんな光景が目の前に広がっていた。
容赦無く、建物などにクワが突き刺さり、店の商品が散乱していた。
止めようとするが、相手はクワで襲ってくるため手出しなんてできない。
銃で撃てば、相手が死んでしまう。
ザクッ!
「危なっ! !」
足元に刺さったクワ。これ、シャレにならないよ?
はぁ。しょうがない……
カタカタと小さな小箱を振り、火をつけた千夜
それを、空へと投げ上げた。
どぉ————ん! ! !
その音に、皆、体を停止させた。
「ちょっとは、人の話を聞けないのっ!! ?」
「なんだ!テメェは!女は、すっこんでろっ! !」
「うっさいっ!自分達の不満を、町人にぶつけて何になるの?所司代でも警視庁にでも訴えなよ!」
「俺ら農民の気持ちなんかわかってたまるか! !」
そうだ、そうだと農民達が騒ぎ出す。
「わかんないよ。わかるわけないじゃん。
町人を苦しめれば、お前達は満足か?周りを見ろっ!町人が怖がってるのがわからないか?」
道の隅にうずくまる町人達。そっと、千夜は、店の商品を拾い上げる。
「これだって、商品だよ……。あんた達からしたら、食べれもしない。小さな商品かもしれない。
その商品を踏みつけ、自分達の主張だけ出来れば満足か?こんな所で、暴動なんて起こしても、政府が動くわけないだろ!
捕まるのが怖いなら、暴動なんかしてんじゃないよ! !」
「農民を知りもしねぇのに、でしゃばってくんじゃねぇ! !」
「……何が農民だ…
お前達の振り回しているクワは、なんの道具だっ! ?それは、田畑を耕す大事な道具だろっ!家を壊し、人を傷つける為の道具じゃないっ!違うのかっ! ?」
「……………」
汚れたクワを見つめる農民達…
「…私は知らないよ…。田畑を耕した事なんて無い。農民の人の苦しみも知らない……。
だけど————、米を食べれる喜びは知っているよ…」
「何を綺麗事をっ!」
「綺麗事でも、事実だ。今、私が生きられるのも、農民が私を助けてくれたからだ…
確かに世は大きく変わった。だけど、人の心は変わらないだろ!商売道具を振り回してまで
米を野菜を買ってくれる町人を傷つける意味はあるのか?
こんな場所で、騒いでも、無意味だ。」
「………だったら、どうすれば…」
「俺たちの生活はどうなっちまうんだっ! !」
ザワザワと、農民達が騒ぎ出す。
騒ぎが治まりつつある場所にゾロゾロと男達が現れた。
「この者達をひっ捕らえよっ!」
すでに、クワを振り回す気がない農民を捕まえようとする男達
「待てっ!何故、捕らえる必要がある! ?」
「……その軍服……警視庁のものか?
俺たちは、警察官だ町の治安を守るのが仕事だ。」
警視庁の下にあたる、警察官。全国に出来た、所司代、奉行所がただ名前を変えただけの部署……。要は、お役人肌が抜けきれてない人間だ。
平気で商品を踏みつける警察官と言った男達
今頃出てきて……何が、警察官だ! ?
「……待て……こいつらの身柄は
警視庁新選組が預かる。」
「ふっ!荒くれ者の集まりがっ! !身分をわきまえろっ!」
「————わきまえるのは、お前達だろ?
この方をどなたと心得る!」
伊東。水戸黄門じゃあるまいし、やめてくれないか?
千夜がそう思っても伊東の口は動く。
「15代将軍徳川慶喜の妹。徳川椿様なるぞっ!」
はぁ……伊東を連れてきたのは、やっぱり間違いだった。




