平和な江戸
「つまらない…」
土方の部屋に千夜が行ったままで、双子と過ごしていた沖田。
可愛い我が子は、ヨチヨチ歩くようになり、起きてたらかなり、振り回される。だが、その双子も眠ってしまったら、沖田は退屈となる。
スヤスヤ眠る我が子をみつめると頬が緩むのは、いつもの事だ。
ふと、千夜が前に読んでいた新選組の本が気になり、手に取ってパラパラと読む。
前は、読めなかった平成の文字だが、今ではスラスラ読めるようになった。
新選組の本を読んでも、物語を読んでいる感覚だ。無理もない。登場人物が、自分達ってぐらいで、内容は全く違うのだから。
「ん?」
読み進めて沖田があるページを見つけた。
「君菊……って、千夜だよね?」
千夜に関する事は書かれて無いと知っていた沖田。君菊の名が本に載っているのを見つけ、その記事を読みだした。
島原で情報の交換をしていたから、土方の馴染みとなるのは仕方がない。
だが、その後に書かれていた文章に、沖田は目を見開いた。
「君菊が女の子を————出産?」
しかも、土方の子……?パタリと本を落とした沖田。その本を拾い上げる余裕すら、沖田には無かった……。
しばらくして、千夜が部屋に戻ってきた。
沖田は、本を落としたまま、何処かを見つめて固まっていた。
「総司?」
そんな沖田に声をかけた千夜。
「……あぁ……千夜…」
なんだか、掠れた様な声に千夜は、何かあったのかと、小首を傾げる。
「総司?どうしたの?」
「…本を、読んでたら、君菊の事が……」
落ちた本を見れば、新選組の本。君菊の事と言ったら土方歳三の子を産んだという事しか書かれて無いだろう。
「総司、私————よっちゃんの子供、産んでないよ?」
「へ?だって、本に!」
「じゃあ、本には、君菊はどうなったって書いてあった?」
どうなったか……?
「若くして死んだ…」
「私、生きてるよ?」
そう言われたら、その通り……。
子供のところだけ拾い上げたが、何故、そこには目を向けなかったのか?
クスっとわらう千夜
「人の記憶なんて曖昧なんだよ。君菊として生きて、戦の後も君菊と名乗った。
みんなが死んで泣いてた時期。
土方歳三の馴染みだったから、話題性はあるしね」
「噂話しって事?」
「そうなるね。まぁ、島原なんかで情報のやり取りしてたから、仕方ないんだけどさ。」
「………ごめん。」
「嫉妬、してくれたんでしょ?」
ニッコリ笑いながら聞く彼女は、すごくズルイ……
「でもね、当時の私には、子供はつくれなかった。」
「……あ……」
「忘れてた?」
「……本当、ごめん。」
「総司。謝ってばっかだよ?でも、嫉妬されるのも、悪くないかもね。」
……殺人予告をした人が言う言葉じゃないと思うよ?
とは思ったが、言えるわけない……
「ウソです。どっちも、私は、やだな……
総司の、辛そうな顔は、嫌い。」
今の君の顔のが辛そうだよ。そっと抱きしめ、沖田は、また「ごめんね。」と、謝った。
本なんかを信用し、勝手に嫉妬した。
僕の近くにはちゃんと、君が居てくれるのに。
平和になった日本。
幕末から、朝鮮の動きは注意していたのだが、
征韓論が出始め日本は、更に朝鮮にいっそう大きな注意が向けられることになった。
征韓論、つまり、鎖国していた朝鮮を武力を持って開国する。そう言う考え方である
「数年前まで鎖国していた日本が朝鮮を攻撃してどうする!」
「千夜、落ち着いて。」
「攘夷を掲げてた、お前らなら国の為だとわかるだろ!武力を使うべきじゃない。
貿易がしたいなら、話し合いで解決するべきだ。」
「…椿、お前が言ったんだ。攘夷は無意味だと……」
「だからって、武力で解決する事じゃない!」
「とにかく、朝鮮の測量には、人を送る。まだ、測量だけだ。今日は、ここまでだ。
千夜、少し頭を冷やせ……」
バタンっと閉まったドア
千夜は、力なく、椅子に座る。ガランッとした部屋。
「大丈夫?」
差し出された手拭い。
「総司、ありがとう。」
私は、知らない。何故、朝鮮と戦争になったか
ただ戦争に出ただけで、この先の事なんて詳しくはない。
だが、これは間違ってる…
歴史を変えたから、全てが早まってるというのはわかる。
このまま止めなければ、確実に10年しないうちに戦争が起こってしまう……
————日清戦争が。
戦争と言ってもまだ、すぐに戦争になる訳が無く、朝鮮と日本は睨み合いの状態で、朝鮮を支配しているのが清となる。
この頃、日本が何を恐れていたのは、ロシアなどの強い国だ。
この強い国が朝鮮と戦争をされたら日本も攻撃される危険性があると恐れていた。そしてアジア進出を目指していた日本にとって影響下に置いておきたい場所であったのだ。
そんな睨み合いは、数々の事件を起こす引き金となる————。
国政がどうであろうと日本は、というより、屯所は平和なもので、あっという間に3年の月日が流れた。
「トシにぃ!」
「トシにぃ~」
我が子は3歳となり、屯所の中で駆けずり回る
ズルズル。ズルズル。
「お前ら、何してんだ?」
「えい。とうっ! 」
木刀をズルズル引きずり土方の前に現れた小さな子供達。木刀より小さいのに、どうやら、木刀を振り回したいらしい。
「お前らじゃ、木刀持ち上がらねぇよ。」
と、いいつつ、ヒョイっと木刀を持たせてやる
先はすぐに地面へ…
「千歳?勇司?あ、いたいた……」
「お、ちぃ。こいつら、木刀持ちたいんだとよ。」
「木刀よりクナイのが————」
懐から取り出したクナイ
「母親が物騒なモン教えんじゃねぇよ!」
「え?まだ早い?」
「刃物だろうが!」
どういう育て方をしてんだよ。
「母上ー!それオモチャ?」
興味を持ってしまった子供達
「ん?母上の仕事道具。」
へーっと2人の3歳児が目をキラキラさせる。
「使ってみて!」
「見たいっ!」
使ってみて……。と言われても、見せたのは自分だが。と、戸惑う千夜。
「わかった。」
「おい、ちぃ」
わかったって……
クナイを取り出し、シュンッと投げはなった。
「うわっ」
と、声がして、タンタンタンッとクナイが刺さった音がした————。
「おー」
パチパチ
小さな子供が拍手があがった。クナイが刺さった場所を見れば、黒いものが木に縫い付けられる様に固定されていた。
「何すんねん!ちぃ!」
やっぱり、山崎だった………。
「烝、ごめん。」
「ごめんじゃ無いわ!」
「クナイ使うの見たいって言うから…丁度いい所に、烝が現れた訳よ。」
「………。とりあえず、クナイ抜いてくれ。」
身動きが取れない山崎。なんとも、間抜けな登場の仕方をさせてしまった。
頭をガシガシかいた土方。
「山崎、で、どうした?」
「ったく、敵わんわ…
あ!すいません。実は京で、ちょっと町人らが暴動を起こして、あっちの、新選組だけじゃ手に負えないと、連絡が入ったんやけど。
どうしましょう……?」
「どうしましょうって…。京に人を送るしかねぇが、江戸も平和だしな。
しょうがねぇ。久しぶりに、幹部連れて京へ行くか!」
観光気分な土方
「暴動起こってる、ゆうたよな?俺…」
「いいんじゃない?最近実戦なんて、滅多にないし、身体鈍っちゃうでしょ?」
「ちぃ、お前まで……」
そんな事で決定した京行き。出発は2日後と決まったのだった。




