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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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土方歳三の亡くなった日

明治元年


これがまたややこしい。


慶応4年が後から上書きされ、1868年全部が明治元年となる。

コレが改正されたのが、この年の9月8日(1868年10月23日)

それまでの出来事は、法的には、明治元年とされる。


でも、慶応4年と記述は、残っている訳です。


法的にみれば、近藤勇、沖田総司は、明治まで生きたとされますが、明治では無く、慶応四年と書かれるんです。本当にややこしい。


さて、こんなややこしい年に生まれた我が子達は、そんな難しい事なんて知るはずも無く、スクスクと成長し、新たな法が沢山定められた。


教育、啓蒙思想(けいもうしそう)太陽暦、郵便、電話、新聞…。などなど。全部上げたらキリがない。


幹部達の髪は短髪になり、着物から洋装に変化していった。


「千夜~、千……いた…。

ったく、子供が生まれても、無防備は変わらないなぁ…」


千夜を探していた沖田。見つけたには見つけたのだが、屯所で三人仲良くお昼寝中。双子と千夜が寝ていた。


クスッと笑う沖田


「……ん、ばぁ。」


手足を動かしてるヤヤコ


「あ、起きちゃった。」


父上を見つけ、キャッキャッと笑うのは、千歳だ。


「千歳~おはよう。」


千歳を抱き上げた沖田。


「ふっ!」


「……この子、鼻で笑った?

まぁ、可愛いのは変わらないけど、鼻で笑ったらダメですよ?」


まだ、5ヶ月の赤ちゃんに言ったってわかりゃしない…


「…ん、ん、びぇーんっ」


起きて早々に、泣き出した勇司。その声に千夜も目を覚ました。


「おはよう。千夜」


「……あ、おはよう。寝ちゃったんだ。」


「ぐっすりだったよ?」



沖田が勇司を抱き上げても、びぇーん、びぇーんと、泣き止まない……。


千夜が抱き上げると


「…ふぐ…う……」


泣き止んだ。


「………何が違うのさっ!」


「何、赤ん坊に怒ってんの…」


「だって、勇司は、僕が抱いても泣き止んでくれない。————いたっ…」


短くなった髪を引っ張られる沖田


「なんか、土方さんに似てる気が————」

「………どこら辺が?」


「女好き…」

「誰が女好きだってぇ?」


その声に二人は、振り返る。襖の前には土方歳三の姿。


「なんだ、よっちゃんか。」


「なんだとは何だっ!軍服が出来たから

ちぃを呼んでこいって言っただろうが!

————総司っっ! !」



キャッキャと笑う我が子達。どうやら、面白いらしい。


「寝てたんですよー。」

「軍服出来たの?見たい!」


「……広間にある。」


「じゃあ行こうよ。」


一人づつ子供を抱き、広間に向かった。


新しい軍服に袖を通した、幹部達が、広間に集まっていた。

「おっ!やっと、ヒメさんが来た。」


「……ヒメって、やめてくれないかな?左之さん。」


「いいじゃねぇか、新選組のヒメでもあるんだしよ!」


なにも良くないし…


「あー。浅葱色っ!」


みんなの軍服にラインが入っていた、その色は浅葱色。


「新選組は、浅葱色みたいだぞ。ケイキ公が入れてくれたんだとよ。」


それを見て、嬉しそうに千夜は目を細めた。


「よかったね。」


芹沢の作った羽織りの色…


ちゃんと、明治に新選組は生き残ったよ。

あんたが作ってくれた土台のおかげで————。



「ほら、着てみろ!」


と、差し出された新しい軍服。しかし、手渡した本人もまだ、袴のままだ。


「よっちゃんも着てないじゃん。」


「今から着るんだよ!」


「はぁーい。じゃあ、子供抱いてねー」

「千夜、ここで、着替えたらダメだからね!」


「…………はい。」


ここで着替えてしまおうと思ってた千夜に

沖田が声をかけて、渋々、隣の部屋で着替えをした。


軍服に着替えた千夜


「じゃ、じゃーん。」


テンション高めに現れた千夜


「おー。似合う!」

「なんか、やらしい…」


何故?


「左之さん!」



総司に怒られる原田。和服より洋服のが体のラインがわかりやすいから、イヤラシイと言ったようだ…


「でもさ、みんな、ボタン掛け間違えなかったんだ~。はじめが掛け間違えたら面白かったのにさ」


「お前、刀のサビになりたいか?」

「丁重に、御断りします。」


ケラケラ笑う千夜。土方が着替え終わって部屋に入ってきた。



その姿は、何度も見た歴史の本でよく使われる

洋装の土方の姿。


何が違うと言われたら、腕に浅葱色と赤のラインが入っているぐらい。やはり、それを見てしまうと、胸が痛くなる。


目に涙を溜めて土方を見る千夜に、気付いたのか土方は笑った。


「俺を勝手に殺すんじゃねぇよ。」

「だって…」


やはり、土方は、千夜の頭の中で殺されてたらしい。


「ったく、母親になっても泣き虫は変わらねぇのかよ…」


そうは言いながらも、千夜の頭を撫でる土方。

自分を心配してくれるのは、正直嬉しかった。



「死なないでね。よっちゃん。」



「おう。お前と、”俺の”子供を残してしなねぇよ。」


ゲシッ


「僕の子供ですっ!ちょっと黙って見てれば、

あなたは! !まだ諦めてないんですか?」


「おう。俺は、しつけぇんだ。」

「開き直るのやめてくださいよ…」


「じゃあ、俺も~。」


「平助っ!子供も居るんですから、さっさと諦めろっ!」


「「「やだっ!」」」


今3人の声が聞こえた気がする…


その声の主は、山崎、土方、藤堂。ワナワナと怒りに体を震わせた沖田。



「 今すぐ、あの世に送って差し上げます。」


ヒッと、三人が逃げ出した…それを追う沖田


「……また、やってらぁ…」

「まぁ、よく飽きねぇもんだ…」

「まぁ平和なんじゃない?ある意味。 」


「「お前が言うんじゃねぇーよ!」」


永倉と原田に怒られた千夜、小首を傾げて

四人の追っかけを見つめた。



そして、それから約一年の月日が流れ、


明治2年5月11日


千夜は一人で土方の部屋に居た


「よっちゃん、お茶。」

「おう、ありがとよ。」



千夜は、ジッと土方の背を見て部屋にとどまる。土方は、何故千夜が部屋から出て行かないのかは、知らない。だが、 なんとなく伝わり、


「俺は今日死んだのか?」


振り返り、千夜と視線を合わせた土方 。その言葉に、千夜はキョトンとする。



「さぁ?どうだろ?」

「どうだろって……」


「よっちゃんの場合、遺体が見つからなくてね

確かに今日撃たれた日である事は、間違いないと思う。


でもね、

————ロシアに行ったって事も考えられる。


つまり、撃たれた後、生き延びた可能性もある。」


「俺が、異国?」


「まぁ、可能性だよ。この時代、ロシアとは

貿易もあったみたいだしね、ずっと探しても、見つけられなかった。


だからね、私は、死を求めて戦に出たんじゃなく、————土方歳三を探してたのかもしれない。」


「オレをか?」


「よっちゃんは言った。総司にもしもの事があれば、必ず、俺の元に来いと。まだ戦は終わってねぇ。お前の力が必要なんだってね…

でも、私が追いついた時には、戦は終わって、土方歳三の姿は、何処にも無かった…」


悲しそうにそう言った千夜


「椿の言う通り、世の中なんて本当はどうでも良かったのかもしれない 。


ただ、大事な仲間が生きてくれさえすれば 、それだけで…」


悲しげな千夜を土方は、抱きしめる。それしか、女の宥め方なんか知らない。


「んな事、言うんじゃねぇよ…お前が変えたんだ。


俺も、新選組も長州、薩摩、坂本、中岡、天皇、将軍も全部……」


「ありがとう。私の戯言に耳を貸してくれて。

私のワガママを聞いてくれなかったら

きっと、何も変わらなかった。変えられなかった…


あなた達が生きてる。それだけで、本当に幸せ。」


「ばぁーか。」


土方は抱きしめる腕を更に強くする。


ドクンドクンと聞こえてくる心音。ちゃんと、

土方歳三は、ここで生きている————。



こいつが変えてくれた自分達の運命。礼を言われる事などして無い。

だけど、なんでだろうな、


こんなに嬉しいことはない。そう思うのは。


幕府の犬、人斬り集団。そう呼ばれていた新選組。その中で、彼女は、ずっと曲がらなかった。


その言葉を甘いと思っても、次第に彼女の言葉は、無くてはならないものとなった。


『間違ってたら、間違っていると言う勇気を持て。』


その言葉に、千夜という女の強さに憧れ、彼女の様に生きたいと平隊士、幹部すら憧れ、戦ってきた…


幕臣、新たな屯所。新選組が認められた事実


その女が、自分達が生きている事が幸せだと言ってくれる。————礼を言うのは俺たちの方だ。


千夜を抱きしめたまま、土方は、静かに泣いたのだった。




















































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