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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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新しい命の誕生

千夜が倒れてから、二度目の会合が行われた。


「沖田、椿は?」


しばらく月日は、流れだのにも関わらず、まだ知らせて無かった、千夜の妊娠。


「えっと・・・」


沖田は、悩みながら口を開いたのだが、


「お前、まさか、ついに、ちぃを閉じ込めたのか?」


「は?」


予想もして無かった土方の言葉に、ただ一言しか出てこなかった。


まだ、一カ月もたっていないのに、閉じ込めたのかって・・・。


しかも、自分ばかり、嫌な視線で見られてる気がする。そう思った瞬間、スパンッと襖が開き

男達が、そちらを見る。


沖田の目は、見開かれた。


「千夜っっ!何してんの!」


「え?だって、会合だし。一カ月も休んだしさ?」


我が妻の姿に、沖田は声を荒げた。


「だって、ヤヤコっ!」



しまった・・・


皆「ヤヤコっっ! ! ! ?」



「あれ?言って無かったの?来年の5月に母になりますっ!」



「はぁ~~~? ? ?」


「誠か?」


慶喜が千夜の肩を掴む。


「誠ですよ?さ、会合しましょう。」

「今すぐ帰れ。」


「ヤダよ。せっかく悪阻が無くなったのにさ。

家で資料見てるの結構眠くなるんだよね。」



よいしょ。と、勝手に座ってしまう千夜に男達は、ため息を吐く。


「千夜、帰って?」

「ヤダって。」


「本当に居るのか?ヤヤコ。」


土方は千夜の腹に手を当てる。少し膨らんだお腹。だが、そんなに大きくない・・・。


「土方さんっ!貴方が触ると、いやらしく見えるからやめてください!手を動かさないでっ!」


千夜の腹を撫でていた土方は、沖田をジト目で見た。


————いやらしく見えるって、何処がだよっ!?




そんな平和な日々が過ぎ去り、廃藩置県により藩は廃止され、府県制となった。


そして、廃刀令、散髪脱刀令が出された。


武士の時代は、終わったのだ————。



屯所には、悲しみに暮れる男達の姿が無数に見られた。


はぁ


「ったく、何メソメソしてんの?新選組は、誠の武士でしょ?」


「ちぃ、お前、デケェ腹で何で竹刀なんか持ってんだよ…」


「もうすぐ生まれそうなのに、ピーピー男共が五月蝿いから来たの!」


酷い言われようである。


「ピーピーって…武士が無くなっちまうんだ。

仕方無ねぇだろ!」



「武士が無くなったら、何もかも変わるの?

農家の生まれでも、武士になれたじゃん。

刀を振り回すのが武士じゃないでしょ?


誠を貫いてきたじゃん。新選組は————。


一度でも憧れた武士になれた。刀が無くても、

————生き様は、ずっと武士の筈だよ!」



「ちぃ・・・」


「ってか、千夜!生まれそうって! !」


「ああ、なんか、陣痛っぽい・・・」


ただ立つのが辛くて竹刀を持っただけの千夜。

あまりの新選組の嘆きっぷりに、部屋に突入してしまった。



「お前、何してんだよ!平助っ!産婆呼んでこい!」


「お、おう!」



土方に言われ、屯所を飛び出していった藤堂。


千夜のおかげと言うか、千夜の所為で、武士が無くなる悲しみは、何処かに行ってしまった新選組。


ドタバタと、慌ただしくなってしまい、家に帰れる状況でも無くなった。


「屯所で産む事になるなんて・・・」


沖田も予想外の展開に、ため息を吐いた。




そして、屯所の一室で、ヤヤコが生まれた。


「双子・・・」


オギャーオギャーと泣くヤヤコ。


男の子と女の子、双子の赤ちゃんであった。

産後で、クタっとした、千夜を沖田は抱きしめた。


「ありがとう。千夜。」


クス

「どういたしまして。でも、まさか、双子だとは思わなかったよ」


「名前決めてある。」


「え?」


半紙を千夜に見せる総司。


「沖田勇司と、沖田千歳。


・・・どうかな?

両方使うとは、思って無かったんだけどね」


「近藤さんとよっちゃんの名前・・・


総司と私の名前・・・。いい名前を、ありがとう。」


笑った千夜の頭を撫でる


産婆「父上、抱くかい?」


腕にのされ、あまりの小ささに、あたふたする沖田。それでも、自然と頬は緩む。


「小さい。でも、愛おしい。」


その間に千夜の着物は、直される。


産婆「見せてこれば?」


「多分、すぐそこに居ますよ。入って来ていいですよ!」


声をかければワラワラと、新選組の面々が襖を開けて入ってきた。




「うわっ!ちっせえっっ!」


赤ちゃんに群がる男達。


「ちぃ、お疲れさん。俺の子をありがとな。」

「僕の子です!」


土方を蹴倒したい沖田だが、腕にはヤヤコ・・・


「ちょっと、抱いてください。」


「いや、俺はそういう趣味はねぇ!」


藤堂が叫ぶ


「………」

「………」


「馬鹿なんですか!ヤヤコを抱いてて下さい

って言ったの!」


こいつら絶対、馬鹿だ。



千夜が名前の書かれた半紙を土方に渡す。


「ん?名前か?」

「そう。」


「これ・・・総司が?」


半紙にある名前


沖田勇司(ゆうじ)

沖田千歳(ちとせ)


の名前に、土方は目に涙を溜めた。


「そうだよ。よかったね?よっちゃん。」

「ヤバイ・・・嬉しいわ。」


「ねぇ、よっちゃん。

武士は居なくなっても、ココは武士でいようね。」


土方の胸を叩いた千夜


「ああ。ありがとうよ。」


本当にお前には敵わない。


「抱いてあげてよ。」

「・・・お前を?」


「赤ちゃんね?烝いるんでしょー?」


待ってましたと、いわん限りに現れた山崎。


「ちぃ、おめでとさん。ホンマ小さいな」


山崎の手をぎゅっと握った勇司


ヘラッと笑った彼



慶応4年1月13日。船の上で死んだ山崎烝は、

今、ちゃんと此処に生きている。


そして、部屋の中を見渡せば、

慶応3年11月18日

死んだ藤堂平助、伊東甲子太郎も赤ちゃんを見ながら笑っていた。


慶応4年1月5日。敵に腹を撃たれ死亡した井上源三郎も赤ちゃんを抱いて笑う。


慶応4年4月25日、中仙道板橋宿近くの板橋刑場で横倉喜三次、石原甚五郎によって斬首された近藤勇も、彼らと共に笑顔を見せる。


そして今日、慶応4年5月30日


沖田総司の死んだ日に、私と総司の子が生まれた。


絶望しか無かったこの日に、私の過去を上書きしてくれた。こんなに嬉しい事はない。

千夜の涙腺は耐えてはくれず、ポロポロと涙を流す・・・


「千夜…」

「ごめん、嬉しくて。」


抱きしめられる体


あの日、沖田総司を抱きしめた時 体は、徐々に、冷たくなっていった…


自分が好きだと気付いた時、もう、全てが手遅れで、新選組も自分が愛した人さえ、居なくなってしまった。


それでも、僅かな望みに戦地に走った。


その決断をしたのも、また、5月30日。今日だった…。



「ちぃ、泣くなよ。めでてぇ日なんだからよ。」


藤堂は、千夜の頭を撫でる。


涙は、なかなか止まってはくれない。暖かい体温に抱きしめられているのにも関わらず、


「千夜が、歴史変えなければ、まだ、戦は続いていたんだ。今日、この日、沖田総司は、————死んだんだよ。」


沖田の言葉に目を見開く幹部たち。


「まぁ、僕は、生きてるけど、史実だとそうなった。そして、看取ったのは千夜で、


その日、彼女は、悲しみの中戦地に走った。


僅かな望みを胸に…


行くとこ、行くとこ仲間の屍ばかりで、泣く暇すらくれなくて、ただ、必死に戦いながら進んでいった。

結局、命の恩人である土方歳三に会う事は出来ず、新選組は無くなってしまい、戦は終わった。それが————千夜の過去。」


新選組が無くなった…


千夜が変えなければ、今、自分達は生きていない。誰もがそう思った————。


「お前、知ってたのか?」


「知ってましたよ。下関戦争より前に、千夜から全て教えて貰いました。


新選組の行く末を…誰が何処で死ぬのか…

そして、自分がどうやって死んでいくのかを。」



「そんな前から…」


「彼女からしたら、今日が、新選組が終わった日なんですよ。


新選組はまだ戦っていた。

だけど、彼女は、会えなかったんです。

新選組に…


自分が一番苦しかったこの日に、仲間が此処に居るのが、彼女は嬉しいんですよ。


そして、生まれてきてくれた、我が子————この日を選んでくれた。」


ぎゅっと沖田の腕に力が入る


「僕も……クッ。嬉しいです。」


いつも生意気な、口ばかり叩いている総司が、

みんなの前で涙を、流した。



知っていたからこそ、ただ、此処に居るだけなのに涙を流した総司と、千夜


くそ、止まった筈の涙が、また、戻ってきやがった。


小さな命の誕生に、再度命の重さを実感する。


新選組は、なくならなかった————。


その事実だけでも、沖田に、抱きしめられた女のやってきた事がどれだけ、凄かったのか改めて実感した。


「総司ぃ~今日は呑むぞ~!」


場違いな言葉。だけど、宴が好きな、新選組らしくて沖田も土方も他の者達も笑った。


泣き顔なんか似合わない。顰めっ面なんかもう必要ない。


これからは、小さな命と笑って生きたいと、皆、そう思ったに違いない————。





















































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