授かりもの
目が覚めたら、総司が私を抱きしめてくれていた。その温かい温もりに、自分も彼を抱きしめ返した。
体の中に居た魂が無くなったのなんて感じはしない。ただ、なんとなく、寂しい感じがするぐらいだ。
「千夜?」
「何?」
「僕が側に居るよ。」
クスッ
「ありがとう。」
やっぱり、彼が好きだな、私。
「笑わなくても・・・。」
「へへ。大好きだよ総司。」
「な、なんか、ズルイ。」
ズルイって言われても困るんですが?
彼と目が合えば、甘いキスが降ってくる。
愛なんて知らなかった。知りたく無かった。
無くなってしまうのが怖かったから————。
知らない振りをして、わからない振りをして、
————今迄、生きてきた。
でも、愛に触れてしまえば、
離したくない。離れたくない。
この人が居なければ、生きられないと思う程に、溺れてしまっている。
そして、彼の子供が欲しいと、————初めて思った・・・
そう思っても、ヤヤコは出来ないのは知っている。月の物が千夜には来たことがない。
下っ腹にある刀傷に、そっと触れた。
自分で刺したのに、後悔する日がくるなんて思わなかった。
そんな事を考えても、過去に、また戻るなんて無理だし、
これが無かったら、君に出会え無かった。と、沖田は言う・・・
子供が好きな総司。なのに、子供が欲しいなんて、一言も言わなかった。
そんな事を考えても、月日は流れる。
城に呼ばれたり御所に呼ばれたりと、千夜は、相変わらず、忙しい毎日を過ごしていた。
何度も、何度も行われる、会合・・・。
江戸にくる途中で民に聞いて回った、不満などを考慮しつつ、新たな法を作るのは、かなり難しく頭が幾つも欲しいくらいであった。
まだ、慶応三年の十月————。
「ちぃ、お前大丈夫か?」
大丈夫か?と聞かれても、仕事だから、やるしか無い。
「顔色悪いぞ・・・?」
土方にそう言われたが、
「ごめん、自分の顔は、見えないからわかんない。」
そう返したら、呆れた顔をされた。
そうこうしている間にも、会合が始まり、廃藩置県や廃刀令の話しへと移り変わった。
「新選組は、軍と警視庁どちらがいい?」
「両方。」
千夜の声に男達が、驚いた様に視線を向ける。
「何?」
「両方って・・・」
「あのね、ずっと戦がある訳じゃない。
体を鍛えるのは、両方変わらないでしょ?だったら————コホコホ。」
突然、口を押さえた千夜に、隣に座っていた土方が気づく。
「ちぃ?」
グラッと傾く千夜の体
「おいっ! !」
なんとか、土方が支えるが、会合を行える状態では無くなった。
「椿っ! ?」
気持ち悪い。なに?これ。
そう思うと同時に、意識は遠のいていった————。
「おいっ!ちぃ!誰か医者を! !総司を呼べ!」
「千夜っっ!」
土方が揺すっても、千夜の意識は戻る気配が無かった————
*
倒れたと知らせを聞いて沖田は、急いで会合が行われている部屋へと、やって来た。
「ああ、総司か。今、松本先生が診てくれてるから、部屋へは少し待て。」
「大丈夫なんですか?」
「お前、俺の話し聞いてたか?今、診てもらってんだよ!
突然倒れたんだよ。顔色悪かったからな・・・」
「労咳じゃないですよね?」
「咳はしてたけど、違うだろ・・・」
「はぁ。千夜、最近食欲も無くて・・・。
明日は、非番だから今日は、頑張るって出て行ったんですけど、やっぱり、止めるべきでした。」
「しょうがねぇよ。あいつは、頑固だからな。」
スッと襖が開く。
「先生、千夜は?」
「今はなんとも・・・過労だとは思いますが、すこし様子を見た方がいいですね。」
過労なのに様子を見る?
疑問を残しつつ、沖田は千夜の側に
「千夜?」
「・・・総司?ああ、そうか。
私、倒れたんだ。ごめん。心配かけちゃった。」
へらっと笑う千夜
自分が一番辛い筈なのに、彼女は、いつも自分は後回し・・・
ごめんなんて、言わなくていいのに。勝手に心配したのは僕なのに・・。
「ちぃ、大丈夫なのか?起き上がっても。」
「大丈夫だよ。」
「お前の大丈夫は、信用できねぇ。」
じゃあ聞くなよ。とは言えない。
「松本先生はなんて?」
「過労だって。」
「そっか。」
「今日は、もう家帰って休め。な?」
「わかった。」
家に帰れと言われたが、
「私、歩けるよ!」
抱き上げ様とする沖田。
「ダーメ。千夜は安静。」
「じゃあ、御所泊まる?」
「落ち着かないからヤダ。」
いや、それは、かなりの自己都合じゃん!
「総司、話があるんだけどね。あの・・えっと~~」
と、視線を彷徨わせながら言いにくそうにする。こんな千夜は珍しい。
「どうしたの?松本先生になんか言われた?」
「総司ってさ、ヤヤコ欲しいよね?」
いきなりの質問に、沖田も困る。欲しいけど、千夜の体を思えば欲しいとは言えない・・・
なかなか答えてくれない沖田
「欲しいか、欲しくないか。」
どっち?と答えを急かす千夜に、ついに沖田は、口を開いた。
「僕は、千夜との子なら欲しい。」
ニコッと笑った千夜
「椿がね、私たちに贈り物をくれたんだ~。」
全く話が読めない沖田・・・
「5カ月だって。」
「は?」
「ヤヤコが居るんだって、お腹に。」
「それは、誠ですかっ!!?」
「はい。よかったね。」
「なんで、他人事なの?でも嬉しい! !」
椿がくれたプレゼント。それは、二人のヤヤコ・・・
千夜の体を癒し、子が出来る体にしてくれた。
「家帰ろうか?」
「やっぱり、抱き上げて、帰ります!」
「いいって~。」
「千夜は走らない!」
「歩いてかえるだけじゃん・・・」
「ダメです!」
沖田は、千夜を抱き上げ様とする。
本当に、何で私の周りは過保護な方ばかりなのだろうか?
「歩こうよ~。手繋いでさ。ね?」
笑顔でそう言う千夜
う・・・
そんな、可愛い事言われたら、手を繋ぎたくなる。
本当、君には脅かされっぱなしだよ。
そっと手を繋いだ。そしたら、嬉しそうに彼女は笑う。
「帰ろう。」
「へへ。やった。」
手を繋いで、家に向かう。
「体、大丈夫なの?まだ気持ち悪い?」
「うん?」
「え?どっち?」
「今は平気。椿が、夢に出てきたんだ~。
沖田と幸せになってねって」
「じゃあ、またお礼言わないと。」
千夜は、その言葉を聞いて、立ち止まる。
「千夜?」
「椿は・・・消えちゃった。」
「え?」
「クス、でも新たな命になって生まれてくるんだって。」
沖田は少し驚いた顔をして、はにかむ様に笑った。
「じゃあ、女の子かな?」
「どうだろうね。お楽しみ?来年の5月か6月には、総司は、父上だね~。」
「父上かぁ~。お腹、そんなに変わらないのに
ヤヤコって聞いて驚いた。」
「そんな突然大きくなったら、怖いよ・・・」
「まぁ、そうだけど。」
「嬉しい?総司は子供好きだし、ね。」
「嫉妬してくれるの?」
「どこらへんが嫉妬だった?」
「えー。」
えー。って何?
そんな、たわいない話をしながら家に帰る。
千夜の悪阻は、酷く
水に砂糖と梅干しを入れた、特製ポカリを飲むぐらいで、食べ物は、食べられない状態がしばらく続いたのであった。
ずっと船酔いしてる気分。
「なんか食べないと。」
と総司は言うが
「無理・・・あ、トマト食べたい」
「とまと?子供が生まれる前に、千夜が倒れちゃうよ~」
トマトってこの時代ないんだった。
「大丈夫だって、悪阻は今だけだろうしさ。食べれる様になったら食べるから。」
「そう言って、わかる前から、そんな食べてないんだよ?」
なんか説教に突入しそう・・・
「あ、みんなに伝えないとね?」
「まだいいよ~。もうしばらく、内緒。
千夜は、心配しなくていいから、ゆっくり体を休めて、ね?」
まぁ、みんな過保護だし
倒れたから、しばらくは休み・・
重要事項は、追って知らせてくれるみたいだし、お言葉に甘えて布団の上での生活が始まった。




