嫉妬と解放
キィンッキィンッギリギリ
『一緒に平成に・・・』
「行かないし!シツコイよ!」
どれぐらい斬り合いをしていたか、わからない。
ただ、二人の息は上がり、疲労を隠しきれないぐらいだった。
蹴倒された沖田の姿が視界に映り、千夜は、咄嗟に駆け寄った。
「総司?」
「はぁはぁ。大丈夫だって、蹴倒されただけ。」
そうは言うが、疲労は隠しきれない。
どうすればいいの?
もし、みんなの魂が自由になれなくて、自分に執着しているとしたら、彼らを自由にしてあげなきゃいけない。しかし、魂の解放なんて、やり方なんて知らない。
かといって、千夜は、平成に行きたくない。
容赦無く、男達の刀が振り下ろされる。
ガキンッ
(千夜は、殺させない!)
「何で、君が・・・!?」
刀を受け止めたのは、椿だった・・・。小さな千夜。そう言った方が分かりやすいだろうか?
(私は、ずっと千夜を見てた。
傷だらけで死を求めて、ただ、この人達に会いたいと、助けたいと後悔ばかりしてた千夜を————。
見ていることしか出来なくて、ただ、死なせてあげたかった。
なのに、魂達はそれを許さないっ!
ただ、普通の死すら許されない。だから、私が魂を消してしまおうと過去に戻った。
————だけどね、
歴史が変わり、この人達は、何が正しかったのか、わからなくなってしまったんだよ。
こんな未来は知らないと、自分達は、官軍になれなかった。自分の過去に後悔はしてなくても、嫉妬をしてしまった・・・
だから、千夜をこの世界の新選組から————奪いたいんだよ。』
彼らは、願った。彼女が生きる事を。だがしかし、本当の望みは違ったのだ。共に生きたいとそう思っていた。
それが叶わないと知りながら、死んでいったのだ。
今、彼女の近くにいる新選組、何故あいつらはずっと一緒に居られるのか?
その疑問が、次第に大きくなり、恨み辛みになっていってしまったのだ————。
「千夜が、この世界に留まりたいのに?お前ら!千夜の仲間だったんじゃないのかよ!」
総司の怒鳴り声が響いた。
「千夜は言ったよ!!この世界は、可能性の一つだと!
確かに、千夜の力がなければ、変わらなかったかもしれない。
だけど、日本を良い国にしたいと、平和な世にしたいと、みんなが力を合わせたから、
————日本は一つになったんだ!君たちにも、見せたかったんだよ!————こんな未来もあったのだと!」
「総司・・・」
確かに見せたかった。
長州は、敵でない世界を————
幕府が没落しない世を————
そして、まだ、それは始まりに過ぎない。
まだ、私のするべき事は残っている。この世界は私の過去じゃない。
それでも、私は、大きく関わった。
この世界の沖田総司を愛し、長州四天王と仲間になった。
龍馬、中岡、以蔵とも、西郷、将軍、天皇
私に関わりすらなかった人達と分かり合う事が出来た。
この世界の新選組は確かに彼らより弱いかも知れない。
でも、何より、暖かった・・・。
私はきっと狂ってる。
————君が死ぬ時、僕は死ぬ。
————僕が死ぬ時、君も連れてく。
みんなは、ただ、死ぬなとしか言ってくれなかった。生きろとしか言ってくれなかった。
みんなは、死んじゃったのに・・・。
私は、嬉しかった。何よりもその言葉が・・・
ポワンポワンっと、千夜の体から光が現れる。
「椿、 私の夢の中じゃなきゃ、いけない理由があったんだよね?」
深く頷いた椿
「千夜?」
「やり方なんか知らない
それでも、全ての魂を次の世に————解き放つ! !」
話してる間にも光が増え続ける。無数に増える光に、沖田は、千夜を視界に捉えた。
「千夜っ!そんな事したら君はっ!」
死んでしまうんじゃ・・・
(大丈夫だよ。ここは千夜の夢の中。千夜は、死なない。)
そんな事させない。やっと、この子は幸せになれたのだから・・・
無数の光が宙を漂う。膝をついてしまう千夜を
沖田が支えた。
(後は私が————)
パシッ
「貴女は、行かせない。椿、貴女は私なのでしょ?」
(————っ。でも、彼らは、千夜を必要としている!)
「彼女が行くって。」
千夜の指差す先に、この世界の千夜の姿があった。
「彼女はね、追いかけたかったけど、追いかけられ無かった。————労咳だったんだよ。」
「え?」
「はじめが言った。彼女は、強かったと。
周りになんと言われても、彼女はついていく事は出来た。でも、しなかった・・・。
ずっと、疑問だったんだよ。
なぜ、彼女は、多摩に留まったのか。誰かに移してしまうのが怖かったから、彼女は、死を選んでしまった。
武士として腹を斬る事で、少しでも貴方達に近づきたかった。貴方達が武士になりたかったから————。」
彼女は、間違いなく、強いオナゴだった。
彼女なら、きっと導いてくれる・・・。
『ちぃ、悪かった。
俺らは、お前の気持ちを考えてなかった
すまない。』
「平成は新選組には、平和過ぎるかもね。
でも、忘れないで。新選組の掲げた誠を。」
『ああ。幸せになれ。ちぃ。こいつを、頼む。』
そういう土方
「・・・あなたに言われると、とても複雑なんですが・・・?
言われずとも、貴方なんかに渡さないです!」
いつもの癖で喧嘩ごしになってしまう沖田
『ふっ!』
「んなっ!何で鼻で笑うんですか!」
『ガキに、惚れた女を渡さなければならないなんてなぁ。』
余裕の土方に、全く余裕のない沖田。自分の妻なのに・・・
立つこともままならないのに、ギャーギャーと騒ぎ出すKYな二人・・・
『土方さん、何、遊んでるんですか?』
現れた沖田に、総司の顔が引きつった。
もう一人自分がいるなんて気味が悪いのだろう。
『遊んでねぇよ・・・』
『僕にしとけばいいのに(ニヤ』
「あのね、外側一緒でも中身は違うの!」
スッカチャ
沖田が刀を千夜の首に千夜は銃を沖田の頭に突きつけた。
『本当、強くなったよね。僕の頭に銃突きつけるなんてさ。』
グイと引っ張られ、耳元で囁かれる・・・
————いつか君を絶対奪ってみせる。
「————っ、総ちゃんッッ! !」
『アハハハ。ちぃちゃんが赤くなったっ!』
逃げた沖田
「なんにも面白くない!」
はぁはぁ。体力ないだった・・・
「千夜、大丈夫?ってか、何言われたの!」
『幸せにならないと————斬っちゃうからね。(ニヤリ)って言ったんだよ。』
無理があるよ?笑みが黒すぎるし・・・
『ちぃちゃん、またね。』
『じゃあな、ちぃ。』
「・・・バイバイ。」
ポワンポワンっと、沖田や土方の姿が光にかわる。ペコッと頭を下げたこの世界の千夜。
「みんなを、平成に導いてあげて————。」
コクンっと頷いて彼女達は、消えた・・・
消えてしまった浅葱色
私が今まで、必死に追いかけてきた彼ら。
(あの人達はね、千夜の中に居たから、なんとなく、わかってたのかもね。
嫉妬なんて無意味って・・・
けど、その感情をぬぐいきれなかった。千夜は大事な仲間だったから、連れて行きたかったんだろうね。
沖田の言葉で、きっと目を覚ましたんだね。)
二人を見れば、浅葱色が消えた空を見上げ地に座り込んでいた。
はぁはぁと息を切らしながら。
(魂を飛ばしたから、かなり、体力使わせちゃった。休んで?この赤い世界は、私が消す。もう、怖い夢はお終いだよ。)
ドサッと倒れた二人
抱きしめ合って互いに守る様に二人は、意識を失った。
『これで、千夜は、普通のオナゴになった・・・。
待っててね。必ず、二人に
————プレゼントを贈るから・・』




