川遊び
土方の家迄歩くと言ったのに、強制的に籠に乗せられた・・・
絶対歩いた方が、絶対早いのに!
籠の中で、一人文句。少しして籠が止まった。
「ちぃ、着いたで?」
籠から降りたら、懐かしい風景が目の前に広がる。
平成の世では、姿を変えてしまった土方の生家だ。
千夜が暮らした時のままの家を目をキラキラさせて立ちすくむ千夜。
「すごいねっ!」
突然、言い放った千夜を見て、沖田と土方は顔を見合わせて笑った。
よっぽど嬉しいんだろう。ジッと動く気配がない。まるで、目に焼き付けてるみたいだ。
「ほら、姫様。家入るぞ。」
ブスッと土方を睨むが無視されてしまう。
「行こ?千夜。」
沖田に差し出された手を取り歩く。
「のぶ姉いるか?」
「はーーーーい。」
遠くから女性の声が聞こえる。
パタパタとこちらに駆けてくる音に千夜の心臓は、バクバクと騒がしい・・・
「歳三っ!
あんた来るなら、連絡ぐらいしなさいよっ!」
「悪りぃ、忘れてたんだよ。それより、客だ。」
「客?」
のぶ姉は視線をゆっくりこちらに向ける
「総司と、?二人はどちら様?」
ズキッっと痛む胸。わからなくて当たり前。
わからないように髪型を変え、化粧も変えたのだから、当たり前なんだよ。
だから普通に、徳川を名乗れば良いだけ。
ミツさんの時のように嘘を吐けばいいだけ・・・
それなのに、なかなか口が開いてくれない 。
「のぶ姉、————こいつは、ちぃだ。」
「土方さんっ!」
どうして、言ってしまうのか・・・
「歳三っ! !あんた何言ってんのっっ!
千夜ちゃんは、千夜ちゃんはね・・・
————死んだのよっ!」
「・・・わかってるよ。それは、知ってる。
葬儀に出れなかったのも言い訳するつもりもねぇ。すまなかった。」
頭を下げた土方
「のぶ姉、でもな、こいつも、ちぃなんだ。
信じられねぇのは百も承知だ。
こいつは、のぶ姉に気付いて貰えなくても
一目でも会いたかったんだ。
でもよ、気付いてくれなきゃ、辛えだろ?悲しいだろ?頼むよ、今だけで構わない。
こいつを、千夜と呼んでやってくれ!」
「・・・土方さん。」
何で?よっちゃんが頭を下げる必要なんて無いじゃん・・・私の為に・・・
頭なんて下げないでよ。
のぶ姉は、私にとって、母親代わりだった。
土方の母親は6歳の時に他界。父親も産まれる数日前に他界している。
代わりに私を見てくれたのは、よっちゃんの兄弟達だった。
ただ会えればイイと思った。
でも会ってしまえば、ドンドン欲が出てくるのは事実。昔みたいに、名前を呼んでほしいと、どうしても思ってしまう。
そして、命の恩人である土方歳三が今、私の為に頭を下げてくれてる。
彼もまた、私には兄の様な存在・・・
「のぶ姉、頼むよっ!」
土方は必死に頼んでくれるが、信じれる訳ないじゃん・・・千夜が死んだのに、違う千夜が現れました。なんて。
髪の色すら違う。目の色も・・・
ミツさんは気付いた。
だから、のぶ姉まで気付くなんて都合良すぎる・・・。
私は、この世界の人間では無い・・・それが、現実だ。彼女らは、私を知ってるんじゃない
私じゃない————千夜を知っている。
何でだろうか?悲しい気持ちになるのは・・・
ああ、そうか。私、今、
————嫉妬してるんだ。この世界の千夜に・・・
何で、幻のよっちゃんが一緒に行こうと言ったのか、何となくわかった気がする。
ココはお前の世界じゃないって事だろう。
でも、私は、ココに居たい。それは望んだらダメなの?
身体に入っていった光は、どうやったら無くなるんだろうか?今は、そんな事考えてる場合じゃないか。
のぶ姉を見つめ、
ありがとうございました。私を育ててくれて・・・
心の中でそう言った。
「よっちゃん、もう、やめて。
もういいよ。
私は、貴方に会えただけで良かったです。私は、沖田千夜といいます。」
笑ってそう言った。
キョトンとのぶ姉が千夜を見る。
「ちぃ・・・」
沖田には伝わったのか?
「千夜は僕のお嫁さんなんですよ。」
「そうなの?千夜と同じ名前だから、歳三が”ちぃ”と呼ぶのね。総司おめでとう。」
「ありがとうございます。」
胸が痛い。
簡単な挨拶をして、土方家から出た。
辛い、苦しい、切ない
死んだ人に嫉妬するなんて、どんだけ嫌な人間なんだろうか・・・
スタスタ歩いて、気づけば、よっちゃんと出会った川に来ていた。
「ちぃっ!お前どこ行く気だ!」
千夜の後ろを追いかけてた男達
川を目の前にして、やっと歩みを止めた千夜に、ため息を吐く。
千夜は、クルッと向きを変え、男達を見ながら笑ったんだ。
「ねぇ、昔みたいに遊ぼうよ。」
そう言って。
「お前、そんなナリで川遊びでもする気かよ?」
「脱ぐってば!」
「千ぃ~夜ぉ~。お願いだからそれは止めて?」
「全部じゃ無いよ! !」
「「「当たり前だっ(ですっ)!」」」
ジャブジャブ川に足を入れてしまった千夜
「止めてって言ったのに・・・」
「着物たくし上げたら、あかん言うたやろがっ! !」
「しょうがねぇな。姫様のワガママに付き合うか。」
なんだかんだ言って、土方が一番楽しそうだ。
重い着物を脱ぎ捨て川遊びを始めた。
初めはよかった。ただ足でパチャパチャしてただけだが、土方が沖田に水をぶっかけたもんだから千夜も一緒にずぶ濡れとなる・・・
髪とか化粧とか言ってる場合じゃ無く
途中から簪などは取ってしまい、髪も解いて、
化粧も全て落とした。
沖田も山崎までも参戦してしまい、みんなビショビショ・・・
一通り楽しんだ後、そのまま草むらに転がった。
「どうすんねん、こんなビショビショで帰ったら確実に怒られるわ。」
「そうだね~。」
「ペタペタ張り付く・・・気持ち悪い。」
濡れて張り付く着物。これは、気持ち悪い・・・
「お前が遊ぼうって言ったんだろうがっ!」
「まさかここ迄、濡らされるとは思ってなかったの!よっちゃん楽しんでたじゃん。」
「あぁ?久しぶりに川なんて入ったからな~
意外と楽しかったぁ~。に、しても、いい眺めだな。」
土方は景色を見て、そう言ったのでは無い。
何故か千夜を見ていたのを沖田が気が付き、土方を足蹴にした。
「見ないで下さい!」
濡れた千夜を見ていた土方。白い着物一枚で川遊びして居たから、濡れて透けていた様だ。
「痛え。相変わらず、ケチな野郎だなぁ。」
「ケチとかそういう問題じゃない!万年発情期野郎っ! !」
「誰がだ!」
「貴方しかいないでしょう?」
二人の言い争いなんて無視
「着替える~。」
相変わらずマイペース
「千夜っ!着替えるってここで?」
「腰巻きも晒しもしてるよ?」
「違うよね?」
正確にはブラとパンツだが・・・
そんな細かい事は、どうでもいい気がする。
隠してるのは本当だから。
まぁ、それすら、濡れてしまっているのだが・・・




