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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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もう一人の千夜

「総司っ?」


「・・・ねぇさん。」


タッと、小走りで沖田に向かっていくミツ。



「ちっとも顔出さないで!心配したんだからっ!」


沖田の胸を叩くミツ。どれだけ、京に行った弟を心配していたか見てわかる。


「ミツ、話は中でしようや。村の人集まってる。」


クイッと首をシャクって人だかりを知らせる土方


「歳三!あんたは、千夜ちゃんの葬儀も出ないでなにしてたの! ?」


ズキズキ痛む胸。ここに居るのは、私じゃなかった筈だと言われてるみたいだ。


「・・・その話は、またにしてくれよ。」


ガシガシと頭を掻く土方。記憶がなかったなんて言えやしない。


「と、とにかく、中に、ね?ねぇさん。」


困った沖田は、ミツを家へと促す。二人が家に入ったのを見て土方が千夜に歩み寄る。

「大丈夫か?」


「覚悟はしてたから。」


「————家入るか。」


「俺も行くわ。護衛やからな。」


「ああ。」


三人は、沖田の家に入った。



「お邪魔します。」

「何にも、ないですけど、どうぞ。」


素っ気ない態度に


「・・・ねぇさん。」


沖田も声を漏らす


「ありがとうございます。」


千夜はそんなのは気にしない。


「そちらの方は?」


山崎の存在に気づいたミツ。お茶をいれながら尋ねた・・・


「護衛・・・と言いたいとこやけど、新選組、沖田さんの仲間の山崎烝です。初めまして。」


お茶を配りおわり、山崎を見て首をかしげたミツ


「どっかであった事ありません?」


「いや、初めましてです。」


「なんだ?ミツ。山崎に惚れたか?」


ニシシシッと笑う土方だが、その直後、ミツに、バシッと叩かれた。


「痛えなぁ!」


「歳三が悪い。で、その方が総司のお嫁さん?」


「そうだよ。」


ニコニコと嬉しそうな沖田


「徳川椿と申します。」


三つ指ついて頭を下げる千夜だったが、すぐに、ミツの驚きの声が聞こえてきた。


「と、徳川ってっ!」


驚くのも無理はない。


「15代将軍、徳川慶喜の妹君。徳川椿だ。」


「は?え?徳川の姫様が総司のお嫁さん! ?」


驚き過ぎてお茶をひっくり返してしまうミツ・・・



「ねぇさん、落ち着いて?」


宥めてる間に千夜が机を拭く。


「い、いいです。私がやりますから。」


「いえ、これぐらい、やらせてください。」


千夜の手を見てミツは、己の手を引っ込めた。


千夜の手は、何もしない手では無い。刀を持つ手だ。


手に切り傷もある。この子・・・


「ミツさん、私は、守られるのは嫌いなんです。」


クスッと笑って、座り直す千夜

少し手を見てただけで私の視線に気がついた?


「貴方は・・・」


何処か似てる・・・千夜ちゃんに。そんな事あるわけないのに・・・


何故、涙が出るのだろうか?


そっと差し出された手拭いを受け取り、涙を拭いた。


「・・ごめんなさい。なんか、懐かしい感じがしてしまって。嫌だわ、泣くなんて。」


笑ってお茶を淹れ直すミツ



「歳とったからだろ?涙脆くなるって言うからなっ!」


バシッ


「歳三は黙っとって!」


「叩くなよ!」


ギャーギャー言い争う二人


案外この二人お似合いだったんじゃない?

言わない方がいい。うん。


沖田の出会いを、会津お預かりだから容保の名を使ったり、嘘で塗り固められた話を話した。しかし、ペラペラと口が勝手に動く。

よくも、こんなに嘘をつけるもんだと心の中で思いながら千夜は、話していた。


嘘をつく罪悪感



相槌をうちながらミツは、千夜の話を聞いてくれた。でも、彼女は気付いてしまったんだ。ミツは、気付いていると————。


「・・・やっぱ、無理ですね。」

「え?」


「すいません。私は、女性を騙すのは下手みたいです。」


ニッコリ笑ったミツさん


「私がわかったのは、総司と歳三の貴方を見る目が昔と変わらなかったからよ。

・・・世の中、不思議な事もあるのね。

————千夜ちゃん。」


ハッキリと千夜と言ったミツに、沖田と土方は目を見開いた。


「ねぇさん・・・」


「どんなに姿、形を変えても、性格まで変わらない。


話を聞いていて、私に思い浮かぶのは、あの子しか居なくて・・・この二人が大事に見守る女性は、貴女しか知らないから。」


「すいません。私は、この世界の千夜では無い

すでに死んだのも知ってました。だから、椿の名を使った。————本当にすいませんでした。」



「謝らないで?貴方は、死んだ千夜ちゃんを

大事にしたかったのでしょ?


あの子は、みんなと京に行きたかった。


でも、周りに止められてね、ずっと、何も食べてくれなくて、最後は、腹を斬って果てた・・・


貴方達が武士になりたかったからだと私は思ってるけどね。

最後まで、貴方達を想って死んでいったのよ。」



奥歯を噛み締める二人


置いて行ってしまったのは、自分達・・・


「・・・ごめんなさい。暗くなっちゃったわね。せっかく、総司がお嫁さん連れて来たのに

お茶、淹れ直すわね。」



そう言ってミツは、台所に行ってしまった。


覚悟はして来たのに、その覚悟は全く無意味だったと思ってしまう。


私が会いたいと願わなければ、彼女の運命は変わったのかもしれないと、どうしても考えてしまう・・・



しばし、沈黙が続き


「ちぃ、お前は悪くねぇ。置いて行くと決めたのは、————俺だ。 」


そう土方が口を開いた。


「思い出したんだ。京に行く時、あいつは一緒に行きたがった。だけど、俺が薬を飲ませて……。寝てる間に江戸を発ったんだ。」


「よっちゃん・・・」


「止められなかった僕も同罪だよ。千夜がそんな暗い顔する必要ない。」


「総ちゃん・・・」


「ほら、折角、着物似合うとるのに暗い顔したら、あかんやろ?」


「烝・・・」


みんなはそう言ってはくれるが、胸の痛みは無くならない。


ミツが戻ってきて、色んな話をした。思い出話しだったり、京での出来事。思い出話しは、聞くだけに止めた。


私の過去では無い。少しずつ違う思い出を話すことは出来ないから・・・


「そう言えば、歳三をよっちゃんって呼ぶのは驚いたけどね。」


「え?なんで驚くの?」


沖田は千夜が土方を何故”よっちゃん”と呼ぶのか知らない。


「んなの、いいだろ?こいつは総司と一緒になったんだから。」


「私は、千夜ちゃんは、歳三が好きだと思ってたんだけど、まさか、総司を選んでくれるなんてねぇ・・・」


「よっちゃんって呼ぶ、意味って何ですか?」


「あれ?あんた知らなかったの?」


「だから、何がです?」


「歳三の諱は”義豊(よしとよ)”って言うのよ?

そっから、よっちゃんって呼んだんだって。」


ミツに悪気があった訳ではない。だが、沖田は表情を暗くした・・・



諱で呼びかけることは、親や主君などのみに許され、それ以外の人間が諱で呼びかけることは極めて無礼であると考えられた。


諱を呼び合うなんてコトはしないのだ。だけど、千夜は土方を諱で呼ぶ。二人の間にどれだけ信頼関係があったのか嫌でもわかってしまう。


「別に意味なんてねぇよ。たまたま、姉貴達が俺をそう呼んだから覚えっちまっただけだ。

で、結局よっちゃんのが呼びやすいからそう呼ばれる様になっただけだよ。

お前、んな事で落ち込むなら、俺が有難く貰ってやる。」


「や、ヤダですってっ! !」


クスクス笑うミツ


「歳三も総司も昔から変わらないわね。

いつも、千夜ちゃんの取り合いで。」


懐かしそうに言ったミツさん


そして、土方家に行く予定がある為、帰ることとなった。


「ありがとう。会いに来てくれて。

また、いつでも遊びに来てね。」


私を見てミツさんはそう言った

「はいっ。」


笑って答えた彼女達の背をミツは、見えなくなるまで見送った。





































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