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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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悪夢と新しい屯所

「なんでテメェは、いつも、いつも、ややこしい事ばっかり、屯所に持ち帰ってくんだよっ!」


鬼副長土方の怒鳴り声を聞いても、微動だにしない女は、多分、彼女しか居ない。



「えー。だって屯所大事じゃん?」


どう考えても、怒られてる人が放つ言葉に聞こえない。彼女の言い分は、もっともなのだが、


「早速、連れてきてどうすんだよ!」


土方が男達を指差す。


「 よっちゃん、人に指差したら失礼だよ?」


ごもっともな返答に、脱力するしかない土方。


「お前なぁ・・・何で、たまに、抜けてんだよ?」


「・・・私?」


首を傾げる千夜。お前以外、誰がいる?


「ちぃちゃん、可愛いですよね。」


出たよ。千夜バカ・・・。土方も人の事は言えないが・・・


ニタニタ笑う沖田


「気持ち悪りぃよ・・・」


「言っときますけど、貴方が育てたんですからね?そこんとこ、忘れないでくださいね。」


「・・・」


そうだった

頭を抱えたい衝動にかられる土方は、何とか耐え、千夜を見る。


「で、どうすんだよ?そいつら。」


男達を見ながら、また同じことを言う土方に、千夜は、口を開いた。


「新選組の京支部を作ろうと思ってね。

今後の為に。今、烝が聞きに行ってくれてるよ。」


やる事は、早い千夜。

誰か駆け込んで来るんだろうなと、土方は屯所の門を見てため息を吐いた 。


しばらくして、案の定、屯所の門を慌ただしく

走り抜けて来た男達・・・


「っっっ!将軍っ!」


まさかの慶喜の登場に、腰を抜かしてしまった

ガラの悪い男達


「椿っ!お前、6月に京を発つと言ったばかりだろうがっ!」


「だから”今”なんじゃない。」



慶喜と共に、龍馬と桂が屯所にやって来たが

何とも珍しい組み合わせ・・


「千夜、君は本当何考えてるの・・・?」

「まっこと、何するかわからんオナゴぜよ。」




「京の治安も守らなきゃいけないでしょ?

新選組の屯所も大事だし、彼らは、京の治安も守ってくれてるし、新選組の京支部を作れば、

京の町の人達も安心すると思ってね。

不逞浪士は、居なくなった訳じゃないし。」


「千夜の考えもわかるが・・・」

「これから、職を失う人はたくさん出る。」


自分の刀をそっと撫でる千夜


————廃刀令が出れば、武士はいらなくなる・・・


刀を持てるのは警察だけだ。



「わかった。新選組を数人置いてくという事で

話をしておく。」


「慶喜公?」


「はぁ。————俺も、妹には甘いな・・・」


土方を見て、苦笑いをする慶喜。


「い、い、い、妹っっ! ?」


知らなかった男達が、驚きの声を荒げた。


「お前ら黙れっ!」


機嫌が悪い土方


「おまんら知らんかっただか?」

ケラケラ笑う龍馬


「そ、そうとは知らず、すいませんでしたっっ!」


突然頭を下げられても困るだけだ。



「やめてよ。なにも頭下げなくていいって。

許可もらえたし、京を守ってね。」


男達「はいっっっ!」


男達は6月より、新選組京支部を任される事となった。


————夢を見るようになった。


戦いが終ってから、ずっと、繰り返される夢。

それは決して、平和な幸せな夢ではない 。

悪夢・・・だった。



真っ赤な世界に、自分の真っ赤な手。


毎日、毎日、同じ夢・・・

そして今日もまた、同じ夢を見た。


夜中に目を覚まし、

総ちゃんを起こさない様に布団から出る。



縁側に腰を下ろし、夜空を見上げ、満点の星空に頬が緩む。


「みんなの望む世に、出来たかな?」


新選組の幻が見える様になったのは、いつからだろうか・・・?


浅葱色の羽織を纏った男達。彼らは、いつも笑っている。それだけだった。


だけど今日は、違ったんだ————。


星空の下、浅葱色の羽織を来た男が千夜の前に現れる。彼の向こうの景色が透けて見える。


コレは、夢?


目が覚めたのも夢であったなら、驚く必要は、無い。


千夜は、そう考え、ただ目の前の男に視線を向けた。そっと、差し出された手は、剣術をした手だ。ゴツゴツとした彼の手。幼い頃は、よく手を繋いだ、見慣れている手に、自然と手が伸びた。しかし————。


『一緒に行こう。』


そう言った、彼に、千夜の手は、彼の手を掴む前に停止した。


「何処に、行くの?」


そして、その手は、風に晒され、そのまま座っていた縁側の床へと落ちていった。


平成の世に————。


目を見開く千夜。目の前の透けて見える男は、自分を助けてくれた、土方歳三。彼が、一緒に行こうと言う。孤独で、辛い事しか無かった、あの、————平成の世に………。


ガタンッと、背後から音がしたと思ったら、千夜は、強く抱き締められていた。


「連れてかせないっ!」


千夜は、何が起こってるのかわからない。

ただ、声は、沖田のだとわかったぐらいで、強く抱き締められて、視界は、彼に遮られてしまった。


浅葱色の羽織を着た土方は、寂しそうな表情を浮かべて消えていってしまった。


「・・・何?」


アレは、夢じゃ無いの?


「総ちゃん?」

「行かないで。・・・千夜、僕を置いて行くのだけは 、許さないって言ったでしょ?」



アレは、夢じゃ無いんだ・・・

だって、力強く肩を揺らす沖田。夢なら、こんなに痛くはならない。


「・・うん。何処にも行かない。」


私は、この世界で————生きて行きたい。



行かないでと、なおも繰り返す沖田。


「私は、此処にいるよ。」


だから、大丈夫だと沖田に伝えるが、更に、腕に力を増していく。どこにもいかないでと、縋る沖田に、千夜は、自らの腕を彼の背に回した。



しばらくして、沖田も落ち着いただろうと、千夜は、一度離れ様としたのだが、未だ、抱き締められて苦しい・・・。


ぎゅうぎゅうと、音が鳴るんじゃないか?と思うぐらいに巻きつく腕。


「総ちゃん、痛い。」

「あ、ごめん。」


やっと離された体。


違う意味で、どっかに旅立ちそうだったよ


「あのね、死ぬつもりなら、一緒にならないから。私は、この世界を変えたかも知れない。だけどね、この世界は、可能性の一つだよ。」


「可能性の一つ?」


「そう。私一人では出来なかった。

みんなの力を合わせたから、実現出来た世界。


これは、私の願望かも知れない。でも、私はこの世界で生きていきたい。総ちゃんと一緒にね。」


そう言って笑う彼女。


でも、彼女が居なければ、誰も変えようとは思わなかった。


長州は、敵で、長州だから悪くて当たり前で

異人は、敵で・・・


そういう考えすら、彼女は変えた。



同じ日本人。同じ人間。同じ命・・・


そう言って、みんなの考え方を変えた


————あの新選組の彼らも、彼女を必要としているのか?


でも、彼女を手放す事なんてしない。


彼女は、僕の”妻”なのだから————。




慶応三年六月江戸へ下る事になった新選組。


結局、夢の事も新選組の幻もなんだったのかわからないまま・・・


争いの状態も見たかったから、千夜と沖田は、皆より一足早く、江戸に向かった。


色んな場所で、人々が何に悩み苦しんでるか、聞いて回る千夜・・・。自分の足は、慣れない長旅で疲れて、親指の付け根から赤が流れても、彼女は、倒れた人や、飢えた人たちの方が優先で、痛いだろうに、痛いと口にしなかった。


どんな人にでも、笑って話す彼女を沖田は、ただ、見ている事しか出来なかった。


そして、夜は、宿で、今日あった事を書き記していく。


そんな日が何日も過ぎ去り、千夜達が江戸についたのは、出発した10日後の事であった。


新たな屯所となる場所に到着し、唖然とする。


「何コレ・・・御所みたい。」


デカデカとそびえ立つ屯所は、まるで国会議事堂の様で、それにも驚いたが、周りにある、隊士達の独身寮や家族寮。幹部には、此処に、おしゃれな家が一軒づつ、割り当てられるとの事


慶喜の家臣が説明するなか、開いた口が塞がらない二人は、とりあえず、自分達の家に通され

荷物を置く。


3LDK・・もある


西洋を取り入れた、たたずまい。沖田は、落ち着かない様子で家の中を散策し、新たな屯所も見て回る。新しい木の香りが家の中全体に香っている。


まだ誰も到着して無い。新しい屯所。


「一番乗りだね。千夜。」

「あんな、ゆっくり来たのにね。

でも、広いね~。迷子になりそうだよ。」


と、笑う千夜。


そうだね。と言いながら沖田は、千夜を抱き締め畳に寝そべった。


「畳が落ち着くよ。僕は。」

「平成には、畳が無い家も珍しくないからね~」


「そうなのっ! ?」


「うん。でも、私も畳は好きだよ。家も部屋は畳だったし。よかったね?」


「うん。でも、広いよねー」


全くだ・・・



























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