新選組支部
伊東に視線を向ける藤堂。その、視線は険しいものであった。裏切られ、千夜を傷つけた男。だが、しかし、千夜から見たら、自分もその一人で間違いない。
彼女は、責めなかった。裏切った自分を————。
「・・・伊東さん。俺は、やっぱ、どっちが
正しいかなんてわかんねぇや。
でも、迷って良かったと思ってる。結果的に、ちぃを傷付けっちまった。けど、何が大事か、わかった。俺は、みんなの笑顔が好きだ。新選組が大好きだ。
それだけは、どんなに迷っても、変わらなかった。」
原田と永倉が乱暴に、藤堂の頭を撫でる。
はにかみながら、藤堂は続けた。
「伊東さん、————共に生きよう。」
その言葉に、伊東の目が見開かれた。
「俺バカだからさ、単純な言葉しか思いつかねぇ。でも、あんたは俺の師匠だから。」
照れ臭そうに笑う藤堂
「伊東さん、もう、いいんじゃないですか?
気付くのが遅かったかもしれない。ですが、貴方は過ちに気付いたではありませんか・・・
もう、————自分を許してあげたらどうですか?」
「山南さん・・・」
伊東は畳に膝をつき、頭を思いっきり下げる。
「申し訳ないっっ! !
俺は、千夜さんを沖田を酒井を
傷付けてしまったっ!死に追いやった・・・」
畳に頭を擦り付けたまま、謝る伊東の姿・・・
「勘違いしないでください。酒井は、貴方に追い詰められたんじゃない。————新選組が追い詰めたんです。」
顔を上げ、驚いた様に千夜を見る伊東。
「————罪を憎んで人を憎まず、ちぃは、
どんだけ嫌いでも、自分が傷付けられても
————伊東甲子太郎は、騙されてるんじゃないか?そう言ってた。」
「結果、僕は、あんたを斬れなくなった。」
刀に手をかけながら沖田が棘のある言葉を伊東に言い放つ。
「それが、新選組の決定事項だから、致し方あるまい。」
表情には出さないが、斎藤が言った言葉に、伊東が嫌いだったと確証が持てた。
「総司も斎藤君も棘がありますよ。」
山南に注意を受ける二人・・・
「伊東さん、新選組は幕府の犬でも、人斬り集団でもない。————日本の為に、手を取り合いましょう。」
近藤が手を差し出せば、伊東は、泣きながらその手を取った。
男二人が抱きつく。青春ドラマの様なワンシーンを熱く見つめる人は居るはずなく、
「ちぃちゃん、よかったの?あんな、泣き虫な上司・・・」
「まぁ、いいんじゃない?」
脱力しそうな程に、二人の声は呑気だった・・・
やっと、屯所に戻れたのは年が明け、一月が終わる頃だった 。久しぶりの屯所は埃まみれで、帰って早々に大掃除に発展した。
そして、掃除をした綺麗な屯所で夜は宴が開催される。
呑めや食えやで大騒ぎ。いつもの光景に、千夜は笑う。平和でも、みんなの笑顔は変わらない。
「ちぃちゃんっ!」
「何?」
何だか足が覚束ない我が夫・・・
「キスするでし!」
これは・・・酔っ払いだ。
「ヤダ。」
まさかの千夜の拒絶に、どよーんと、重い空気を纏った沖田は、その場にしゃがみ込む。
「ちぃちゃんがぁ・・・グスン。」
めんどくさいよ?
「賭けなんかするからでしょうが。」
沖田の背後に挙動不審の男たち
「いやぁ、まさか、千夜が総司を足蹴にするなんてな。」
してませんが・・・?っていうか、総ちゃんで遊んでたのは、あなた達ではないか?
「で、賭けは何だったの?」
「千夜が総司と、この部屋で接吻するかどうか。」
バシッ
「左之さん!何、素直に答えてんの!」
「あ、あああーー!
千夜!お前、誘導尋問したなっ! ?」
「・・・・」
どこらへんが誘導尋問なのか教えて頂きたい。
「左之がバカなんだろうが!」
「ま、まぁ、千夜も呑め。」
「僕のお嫁さんでしっっ!」
がるるる~と、沖田が威嚇するが、全く怖くない。可愛いだけだ。
「総ちゃんは、もう呑んじゃダメ。」
「ヤダでし。」
また潰れたいのか・・・?
結局、平隊士に部屋に運ばれた沖田。
そう。潰れてしまったのだ
賭けは、沖田の負けだが、次の日、覚えていなかった・・・
そして、御所にて会議が開かれた。
「政を江戸に移す。新選組の屯所は江戸に建築中だ。」
突然のケイキからの発表に、新選組の者達は固まる・・・
「 故郷に帰れるのが、ほがーに、嬉しいかえ?」
龍馬の声に、土方は我にかえる。
「いや、あの、すみません。ちぃは、江戸では、死んだ事になってまして・・」
「ああ、そうか・・・
だったら、椿として江戸に行くんだな。」
ニヤリ笑ったケイキ
「ちょっと、一橋椿で行けっていうの?」
「徳川だっ!」
「・・・芹沢千夜のが、気に入ってるんだけど。」
「沖田ねっ!」
前からも後ろからも言い直される。
「名前沢山あってめんどくさいよ。」
皆「本当になっ! !」
「じゃあ、俺らはヒメって呼ぶか!」
「長州のヒメだからなっ!」
「ややこしいからヤダ!」
「君菊って呼ぶか?」
「・・・本当にやめて。普通に千夜でいいよ~」
「沖田家には、挨拶はまだだろう?」
「文は送りましたが、椿って書きました・・・」
知らなかった・・・
「じゃあ、椿だな!」
「沖田家に行くときだけ椿。他は、普通でいいっ!紛らわしいっ!」
皆「コッチの台詞だっ!」
名前は、私が悪い訳じゃないじゃん・・・
「いつ、屯所は出来上がるんですか?」
「6月には出来上がる。土方も近藤も日野の出だろう?」
「そうです。」
「そうなのかえ。近いのぅ~。」
近くていいのか、悪いのか・・・
近藤には妾も子も居る。近いなら、連れてはいけないだろう。妾を————。
住み慣れた京を離れなければならない。
屯所の移転までは、いつも通り巡察を続けた。
人斬り集団とも、言われなくなった新選組は、
京の町中では、何故だか人気が出て、
「お、新選組だ!」
「沖田さんだっ!」
「千夜さぁーん!」
手まで振られ、黄色い声が聞こえてくる。
「なんか、調子狂うね。」
「新選組は、平成では英雄だよ?」
「そうなの?へぇ~。」
「おっ!あれ?ねぇちゃん髪どうした?」
眉間に皺を寄せた沖田。ガラの悪い男たちが千夜を囲んだからだ。
「あ————!中村っ!」
「・・・ああ、驚いた。久しぶりだな。」
「誰?」
「総ちゃん、前に助けてもらったんだよ。
えっと・・・」
なんて言おう?近藤さんを暗殺しようとした人達。
「っっっ!ちぃちゃんを刺した奴ら!」
思い出したのか、刀に手をかけようとする沖田
「はいはい。助けてもらったから。
刀に手をかけないで。」
「・・・本当に?助けてもらったの?」
「うん、山南さんと一緒に帰る時。」
「ねぇちゃん、京を出て行くんだって?」
どっから情報を・・・
隊士達を見れば
「京から離れるんで、気持ちは嬉しいんですが・・・」
お付き合いの断りを入れていた。
「うん。6月には江戸に行くよ。」
「寂しくなるな!京は俺らが守るから安心しろっ!」
頼っていいのか悪いのか。
ガラは良くないが、見た目で判断はしてはならないが
「ねぇ、新選組の屯所に来ない?」
「はぁ?」
「ちぃちゃん?」
「屯所開けたらさ、また埃まみれでしょ?
京に新選組の支部を作って、やり取りすれば、京で何が起こってるか、情報が入りやすくなる。
それに、馬小屋はケイキが建ててくれたんだし、大事にしなきゃでしょ?」
「また、無茶苦茶言う・・・」
「いいのか?行っても。」
期待に満ち溢れた瞳に、沖田も黙る・・・
結局、男らを屯所に連れ帰った。




