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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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真犯人と龍馬

「まぁ、過去だけどね。」


クスッと笑った千夜は、何故、伊東を止めたのか、何の話だったのか、言うことは無かった。



そして、後日、その話が何だったのか、明らかになる日が訪れた。年末、役職などが割り振られる会議が行われた。


「異議がある者は申し出よ。」


全てを決めた後、慶喜が声を発した。これで、新政府軍を担う役職が決定する。異議を申し立てる人間なんか居ない。誰もが、そう思っていた・・・。


「————異議有り。」


そう言ったのは、千夜であった。


「椿・・・。」

「ちぃちゃん?」

「ちぃ。」


「千夜?どうしたの?なんか、問題があるの?」


吉田改め、伊藤博文が千夜を覗き込む。


「問題?大有りだよ。」


何が問題あるのかと、顔を見合わせる男達。


「椿、申してみよ。」


慶喜は、千夜を見てそう言った。


「では、言わせていただきます。

————幕府を裏切り、坂本龍馬を暗殺しようとした男が、新政府の役職についてもいいんでしょうか?」


ザワザワと騒がしくなる室内


「坂本殿を襲ったのは、岩倉だと言ったでは無いか!」


「確かに。しかし、岩倉が一人で御所に入れたのでしょうか?だとすれば、罪人が入れる警備体制って事ですよね?」


男達は黙ったが、直ぐに他の者が口を開く。


「幕府を裏切ったものが、何処にいるんだ!」


家臣達が騒ぎ千夜に罵声を飛ばす。


「やめよっ! !」


「しかし、慶喜公!オナゴを何故、政に参加させるのですか!」


男がやるのが当たり前。くだらない決まり事には興味は無い。


「いいご身分ですね。我関せずと言った表情は

何時まで続けられますかね?————勝海舟。」


まさか、自分に向けられるとは思ってなかったのか、顔が強張る勝。


「何を・・・。」


「薩摩とは、仲が良く、あわよくば、薩摩を幕府から引き離し、戦にしてしまおうと思っていた。そして、江戸城を平和的解決と見せかけ、三万両の金で売り渡す。だけど、幕府は思わぬ方向へと向かっていった。


一人、悪事を働けば、叩かれるのは当たり前。岩倉一人で全てできるわけないじゃないですか。西郷隆盛が、貴方の計画を細かく書き残して居たんですよ。」


ピラピラと書物をなびかせる千夜。慶喜は、奪うようにしてそれを見る。


家臣の裏切り。勝海舟は、慶喜の部下だ。よほど信頼していたのだろう。


「そんなのは、偽物だ!」

「では、坂本龍馬暗殺未遂はご存知ですか?」


「・・・知っている。」

「あの事件おかしいと思いません?何故、犯人は御所に入れたのでしょうか?どうして龍馬を狙ったのでしょうか?」


「やったのは岩倉だろう?俺は知らん!」


「そうですか?貴方は、文久三年に異国に触れた。貴方は、開国派で間違いない。

幕府に見切りをつけた貴方は、長州、薩摩と接触を繰り返す。」


「知らんっ!慶喜様、この様な事は知りませぬ。」


慶喜に縋り付く勝。それとは対照的に、険しい表情のまま、書物を見る慶喜。


「何故、龍馬は貴方を庇わないんでしょうか?貴方の弟子でしょ?龍馬は、見たんだよ。自分を撃った相手をね。」


龍馬は、千夜を見て頷いた。


再び、ザワザワと騒がしくなる室内。


「でも、言わなかった。岩倉が犯人ってのも間違いじゃない。二人が、一緒に居たのだから。」


クッと、勝から声が漏れる。

西郷の書物と龍馬が目撃している事実。勝が幕府を見限っていたのは明白であった。


「勝海舟をひっ捕らえよ!」


「クククッ。これで終いか・・・。」


家臣らが勝を乱暴に取り押えれば、彼は、何処か遠くを見つめて、一人つぶやいた。千夜はそれを見て、口を開く。


「勝手に、終いにしないで下さいよ。


何故、貴方が龍馬を邪魔にしたのか、」


勝海舟の目が見開かれる。何故、この女が知っているのか?と言わん限りの表情のまま、無意識に唾を飲み込んだ。


「————徳川慶喜が邪魔だった。

なのに、弟子にした坂本龍馬は、ケイキに流れてしまった。貴方が、新政府の上に立ちたかったのに、幕府は、大きく変わって行った。だから貴方は、全てを岩倉の所為にして、自分は大人しくケイキの下に留まる事にした。


警戒態勢が解ければ側近である貴方がケイキを殺してしまうのは簡単ですからね。


大人しくさえしていれば、何もバレなかった筈だったんですよ。少しして自分が日本の頂点に慣れたのに・・・。貴方は、龍馬暗殺に同行してしまった。」


「俺の命を狙っていたというのか!」



「ケイキの命だけじゃ無い。家茂を殺したのは

————勝海舟です。」



皆が息を飲む。


「おかしいんです。私は、目の前の敵を斬ってました。その場に、龍馬と中岡が居て、家茂公は、彼らの後ろに居た。背には壁。なのに、私が振り返った時、いえもち君は、倒れてました

確かに刀も刺さってた。————でも、出血の量が少なかったんです。心臓を刺されたのにも関わらず。気になり松本先生と調べました。————将軍死亡の原因を・・・」



「調べた?」


この時代に遺体解剖なんか、罪人にされる行為。将軍を解剖するなど前代未聞。


「あなた方の感覚では、犯人は分からず仕舞いです。将軍の体を調べたところ、毒が検出されました。

つまり、将軍家茂公は毒を飲んだ後刺され死亡した。

出血が少なかったのは、心臓まで刀は届いて無かったから。————貴方ですよね?家茂公に竹筒をもたせたのは・・・」


瞬きすら忘れ、千夜を見つめる男の額には、汗が見えた。そして、勝は、余裕をなくし、家臣らに掴まれた腕を振り解こうと暴れた。


「お前さえ居なければ!全ては上手くいったのに!」


そんな怒鳴り声を聞いても、千夜は、彼から目を逸らさなかった。


「最後の最後まで、騙されるとこでした。


知ってます?善人ぶってる人間程、裏があるんですよ。」


余裕な表情で、そう言った千夜。家臣らから逃れられなかった勝は、クッと、勝が歯を噛み締め、そのまま、連行されていった。


唖然とするしかない男達・・・



会議が終わり、家臣らが部屋を退室し、血判を結んだ者達が残る部屋の中、


「・・・おまん、いつ気付いた?」


龍馬が千夜を見て尋ねた。


「龍馬が撃たれた時、表情は険しかった。 初めは、撃たれたばかりだしって思ったんだけど、もし、撃った人物が御所に居る、もしくは、自由に出入り出来る人物ならって考えた。


銃の腕前は悪くないのに、戦の時に岩倉は銃を使わなかった。

御所に入れる人間で、龍馬に接点があり、なおかつ、頭が回る人間は、勝海舟しか思いつかなかった。」


千夜の言い回しに、沖田は、慌てた様に身を乗り出し尋ねる。


「え?まさか、あんだけ言って当てずっぽうじゃないよね?」


「私ちゃんと言ったよね?最後の最後まで騙される所だったと。確証が持てたのは、さっき。」


「さっきって・・・」


「さっき、確証が持てたのに、あんなに堂々としていたということ?」


「まぁ、終わり良ければ全て良しって事で————。」


「何にも良くねぇよ!お前、もし間違っていたら大事だぞ!」


「・・・だろうね。でも、危険だからって放置しとくわけにもいかないでしょ?」


その通りで、言葉が出てこない。



「すまんかった。言わんかったのは俺じゃ。

犯人見ちょったのに・・・」



「普通言えないよ。龍馬が特別じゃない。誰だって命を狙われたら、誰を信じていいのかわからなくなる。

だから、龍馬は悪くない。


ありがとう。ケイキを信じてくれて。

勝海舟に着いてたら、龍馬を斬らねばならなかった。」



「いやいや。

しかし、勝殿はいつから俺の命を・・・」


照れながら疑問を口にした龍馬



「初めからだよ。

あの人は、龍馬を手にかけようとして接触した。だけど、龍馬は弟子にして欲しいと願い出た。だから、勝海舟は調子が狂ってしまったんだよ。」



「そんな、前から・・・・」



「まぁ、これは、私の想像だし、龍馬は信じたいモノを信じたらいいよ。」



想像というか、未来ではそういう仮説がある。

だけど、本当はどうだったのかなんて、わかりはしない。


ハッキリ言えるのは、一度信じた人間に裏切られる事ほど辛いことはない。


その事実だけだ————。



























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