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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
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本当は、憎かった。



新選組は、ほとんど怪我人なのだが、軽い怪我をした隊士達が、重症者を運ぶ。


御所に運び込まれた千夜と沖田。土方は自力で歩くも重症だった。


彼の浅葱色の羽織も赤く、染まり、誰の赤なのか判別は出来ないほどだ。もちろん、他の隊士たちも例外じゃない。



優先順位を零番組が負傷者を分けて治療を行った幕府お抱えの医師も総出で治療をする。


「椿っ!」


眠ったままの千夜に駆け寄る慶喜。体のほとんどが晒しで巻かれ痛々しい・・・。


「眠ってるだけです。呼吸も脈も安定してます。大丈夫です。」


「・・・そうか。よく、頑張ってくれた。」


千夜の頭を撫で慶喜は立ち上がる。



「今年の暮れをもって、

————この戦を終戦とするっっ! !」


「おお————! !」



「————日本の夜明けじゃき・・・」


放心状態のまま、龍馬が言った。



「新たな世の始まりだ! !」

「————高杉、天皇はどげんした?」


喜んでいる男達に、中岡が尋ねた。天皇の姿が見えなかったからだ。



ハッとする長州四天王!



「なんで忘れてんだよ!」


「俺かよっ!」


「そんなバカやってないで急ぐよ!」


「高杉が彼処なら安全って言ったんだろ!」


「だから、なんで俺だけの所為になるわけ?」



大砲で門が攻撃されたために、天皇を隠し通路の小部屋に押入れたまま放置してしまった四人。


「戦は終わりました。」


「・・・終わったか。」


ゆっくり出てきた天皇。まさか、忘れてましたとは言えない。


「椿は?新選組は?」


200人足らずの新選組は、この戦で、56名の死者を出した。


「治療を受けております。」


「生きているのだな?」


「はい。」


ホッと胸を撫で下ろした天皇


少しして新選組幹部は、別室に移される事になった。



「山崎さん。貴方、黒いからって、自分の治療後回しにするのやめてください。」


中村が治療を優先する山崎に声をかけた。


山崎は黒装束姿。赤は、目立たない。


「そうだぜ、山崎。」

「お前ちょっとは、やすめ?」



二人の男・・・


「何であんたら組長やのに、怪我しとらんの?」


ジト目で山崎は二人を見る


「永倉新八は強いんだよ!」


「原田左之助はなぁ!切腹しても生きながらえるんだぜ?こんな戦、屁でもねぇ。」


意味のわからない言葉に、山崎はため息を吐く



「要は、ずる賢いだけやな。」


グサッと、山崎の言葉が二人に突き刺さる


「おいおい、山崎。容量がいいって言ってくれよ。」



強いじゃなくて、容量がいいって、ずる賢いと何が違うのか・・・?


今、ハッキリした事、こいつらは、バカや・・・


山崎は、二人を無視し、治療を受けた



「あんたも、そんなとこ居らんと治療したらどうや?伊東。」


肩が飛び跳ねる伊東・・・


「あら・・・」


まさか声を掛けられるとは思わず言葉が続かない伊東甲子太郎



彼らを裏切ろうとしたのは事実。助けたからって許される訳はない。だが、心配だからこそ、幹部達が眠る部屋に来たのだろう。


「俺は、あんたが許せへん。


けどな、憎しんでもしょうがないねん。

憎しみからは何も生まれん。ただの綺麗事やけどな。


でも、礼をいうわ。


ちぃを助けてくれたんは、お前や。————ありがとう。」


目を見開いた伊東。


頭を下げた山崎・・・


自分は、出来ない。憎い相手に頭などさげれない・・・。



そして、傷だらけの伊東の手当てを始めた山崎の姿に、感極まって、涙を流しそうになる伊東・・・



『伊東、あんたの力を貸してくれないか?

————天皇と将軍を守ってみないか?

新選組と一緒に・・・』


近藤を暗殺しようとして居た自分にかけられた

言葉。酷い事をしたのにも関わらず、


あの子は、そう言った・・・


裏切り者の自分に。



伊東は、治療を終えた後、部屋の片隅でただ眠ったままの幹部たちを見つめ、

しばらく動かなかった・・・


山崎は、伊東に話しかける事はない。


『罪を憎んで人を憎まず。』


千夜は、そう言った。


だが、直ぐに受け入れられないのは事実。

助けてくれたのは伊東。だけど、苦しめたのも

伊東で間違いはない。


例え、お礼を言おうが、やはり、許せない所はある。


直ぐにペチャクチャと仲良く話すなんて出来るわけもない。


「山崎君、みんなはどうですか?」


近藤、山南、井上が、幹部達を見舞いに来た。


「落ち着いてます。治療後なんで、まだ目は覚ましませんけど。」


「そうか、よかった。」


安堵の声を出した三人。


伊東は、三人を見ると部屋を出ようとする。



「伊東さん。」


不意に近藤に呼ばれ、ゆっくりと近藤を瞳に映した伊東。


「俺は、この子に怒られてばかりだった。

何度も、何度もな・・・」


苦笑いを浮かべる近藤


「俺は、間違いばかりだった。


けどな、仲間がここ迄導いてくれた。一人の人間の力なんてたかが知れてると、そう思ってたよ。


彼女は、強い・・・

でも、同じくらい脆いんだよ。だから、みんな手を貸したくなる。彼女の意志や言葉に揺れ動く。


諦めないんだよ。何度でも真正面からぶつかる


そんな事、男でも出来ない。

貴方も、自分の間違いに気づいたなら、また、一からやれば良い。


殺めた人間もいる。傷付けた人間もいる。


だったら、その人達のために自分の出来ることをすればいいと俺は思う。」



「あなたは、千夜さんを傷つけてなんか————。」


「あの子の義理の父上を

————殺さしてしまったんだよ。」


目を見開いた伊東。誰?と聞かずもわかる・・・



「何故あの時、共に頑張ろうと思わなかったのか、今でも思うよ。

その後も、暗殺をさせたり、あの子の情報を貴方に売ったり。局長として失格だったのにも関わらず彼女は、責めたりしなかった。

————伊東さん、俺に力を貸してくれませんか?間違いを正すことは、人が死んでしまってから言うのは卑怯者かもしれない。


でも、卑怯者でも償うことはできるんじゃないですか?」



手を差し出した近藤。山南も井上も山崎もそれを見守った。

誰も、ダメだとは言わなかった。伊東は、手を見て近藤の顔を見る。


「私には、まだ、その手を取る資格が無い。」


「・・・どういう意味ですか?戦はもう終わったのに・・・」


悲しそうな顔をする伊東


「・・・もし、俺があいつに償える事があるなら、————全てを明らかにして・・・」



「それは、————迷惑。」


ゆっくり布団から起き上がる千夜


「ちぃ?目覚めたんか?」



「————迷惑って!」


伊東が千夜に掴みかかる。自分が償える事はそれしかないと考えた伊東にとって、怒りになってしまうのは仕方ない。



「迷惑だよ。————あんたは、この事に関与してはならない。」



伊東の目を見ずに言い放った千夜は、立ち上がる。まだ、傷も癒えては居ない。山崎に支えられてやっと立ってる状態だ。


「————なんで?」


「伊東、言ったよね?私は平成の世から来たんだと。全て知ってるよ。

だから言う。あんたは関わってはならない。」



「何故だ!俺が承認になれば!」



「————消されるよ?確実にね。

伊東、あんた”俺”って言ってる方がいい顔してるよ。」



そう言って笑う女。


岩倉と一緒の時は、私と言っていた。

なにもこだわりはないが、なんとなく使っていた自分の呼び名に気づいていたという驚きと共に、自分が公表しようとしている事を知っている驚き



そしてまた、自分ではなく、俺が危ないと

そういう千夜。


「————これは私の過去の話。


その男はね、新選組に特攻隊になれと行って来た。ただひたすらに戦ったよ。甲陽鎮撫隊としてね。


そして私の上司が捕まった。名前を変えていた私の上司は、仲間を助けるために、新政府軍に捕まった。


奉行所で尋問され、誰の命でそこにいるのか

私の上司が口を割ることは無かった。


なのに、その男は、私の上司が捕まっても助ける気なんてなくて、そのまま、新選組だったとばれてしまい最後は、斬首された。


仲間は必死に嘆願書をかき集め上司を助けようとしたのに、その男だけはしなかった。」


「————お前、まさか。」



「本当は、憎かったんだよ。————幕府がね。」


きゅっと唇を噛み締める千夜


「蓋を開けたら、自分も幕府の人間だったって・・・本当、笑えないよね。」


何でもないように言いのける。

その上司が誰かは知らないが、大事な人だったのは確かだ。


憎いなんて彼女の口から聞いたことが無いのだから・・・











































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