戦いの終わり
「ちぃ、行こうぜっ!
お前が言う平和な世の為にっ! !」
藤堂の言葉に深く頷く千夜。
「近藤さん、山南さん、源さんは、島田さんの隊と御所の裏をお願いします。」
「わかった。」
「ちぃちゃん。行こう。」
千夜の頭を撫で回す幹部たち。おかげで髪はぐちゃぐちゃで、結い直すしかない・・・。
「行くぞっっ!新選組副長!土方歳三っ!」
「新選組零番組組長!芹沢千夜っ!」
「新選組一番組組長!沖田総司っ!」
「新選組二番組組長!永倉新八っ!」
「新選組三番組組長!斎藤一っ!」
「新選組八番組組長!藤堂平助っ!」
「新選組十番組組長!原田左之助っ!」
「俺も忘れんといてや!
新選組副長助勤観察方!山崎烝っ!」
クナイを放つ山崎。
新選組組長達が刀を振り回し敵を仕留めていく・・・
着実に、敵は減っていった。
刀を振り続ける千夜。どんなに斬られても怯まない。
もう、私は、一人じゃないから————。
身体に着く赤が誰のかなんて知らない。
私は、私達、新選組は、 未来に橋を架ける
未来への平和に続く架け橋を・・・
ただ、その為にがむしゃらに刀を振るだけだ。
「どんだけ湧き出てくんの?岩倉っ! !」
千夜は、爆弾を無数に投げる。誰も逃げないように・・・
ド————ンッ!
一遍に吹き飛ばした千夜。ここは御所の近くなのにも関わらず————。
「お前、加減しろよ!アチィじゃねぇか!」
火の粉が飛び、文句を言う土方。そんな中、冷静に一人の人物を探す千夜。
「ごめん。でも、————岩倉発見!」
逃げようとする岩倉だが、千夜を見てヒィッと声を上げた。
「あらあら、どちらに行かれますか?岩倉さん。」
ニッコリ笑う千夜。背後がとてつもなく黒い・・・
「クソアマがっ!」
バンッバンッバンッ
千夜に向かって発砲する岩倉。だが、千夜に銃は通用しない。刀を一振りすれば、銃弾が斬られて地に落ちた・・・。
「クソでも、何でもいいよ。
————ねぇ、岩倉?あんたは、自分がした事は、絶対に間違ってないって思ってる?」
普通に話し出す千夜に、キョトンと銃を構えたまま固まる岩倉。
「俺を洗脳でもする気かっ!」
「はぁ?————バカなんじゃない?」
真顔で答える千夜に、顔が引きつる・・・
「私はあんたを、許せないよ。
あんたのやった事をどうしても、許すことが出来ない。」
でもね。と、千夜は続けた。
「あんたにも、人の心はあったんだね。」
立ちすくむ岩倉・・・
「何が、言いたい・・・?」
人の言葉に耳を傾ける事が出来る人間は、そんなに捨てたもんじゃない。
「生まれ変れるなら、真っ当に生きなよ。
私が、ちゃんと、————殺してあげるから。全力でね。」
ニコッと笑いながら、人を殺すという女。
刀を向けた女は、傷だらけで、赤く染まりその赤は誰のものか、もはやわからない・・・
女のモノなのか、浴びたモノなのか。
何故、目の前の女を気にしているのか、自分を殺そうとしているのにも関わらず、互いに刀を振って居るだけなのに、彼女は、何故泣いているのか?
『間違ってないって思ってる?』
何故、彼女はそんな言葉をかけたのか?
俺の人生は、
・・・間違いだらけだ・・・
ズシャッ
ザクッ
こんな、俺にも哀れんでくれる、人間が居たのか・・・
伊東が彼女は、人を惹きつけると言った意味が、死ぬ間際にわかった。
————ごめんなさい。
女の声が聞こえた・・・。
こんな、罪人に謝る必要は無いのに、
もっと早く、出会いたかった・・・
過ちを犯す前に・・・・
ドサッと倒れた岩倉。そこに立ち尽くすのは、千夜。そして、倒れた岩倉に苦笑いした。
「岩倉、あんた、やっぱ悪党だわ・・・クッ。」
千夜の腹に突き刺さった小刀。それを引き抜いて、彼女もそのまま倒れ込む。
「私、もう頑張ったよ。————芹沢っ! 」
迎えに来いよ!
赤は、止めどなく溢れでる。止血をする力を千夜は持っていない。
ド————ン
パパパパパパッ
まだ、終わってないから、迎えはナシか・・・。
「クソジジイッ!
・・はぁはぁ。どうしろって言うんだよ!」
体は、動かない。なのに、死ねない・・・
ド————ン
ド————ン
クソッ
起き上がりたい。戦いたい。
・・・まだ、みんなと生きたい!
————力が欲しいっっ!
ポワン。ポワンっと現れる光・・・、
浅葱色の羽織を着た彼らが私を見下ろす。
「私は・・・間違っていたのかもしれない。」
彼らは、確かに志し半ばで死んだかもしれない。
だけど、彼らは、精一杯生きた。
時代の荒波に必死で食いついて————。
彼らは、ちっとも、
————可哀想なんかじゃないじゃん・・・。
「みんな、必死に生きた。最後の最後まで
————必死に。」
男達は、笑った。
「そっか。後悔なんかして無いんだね・・・」
私は、このまま死んでしまったら、後悔ばかりだ。
彼らが、私を離さないんじゃない。私が、彼らを離さなかったんだ。
冷たい風が吹き抜ける
「雪・・・」
空から舞い落ちる白い雪
「ホワイトクリスマス。」
ド————ン
景色をゆっくり見る時間もくれないのか
————動いて私の体・・・。お願いだから。
「私はまだ、戦わなければならないのっ!」
*
キィンッキィンッ
「はぁはぁ。土方さん、腕、下がってますよ!」
キィンッシュンッ
「うるせえよ!テメェだって斬られ過ぎだろっ!」
「土方さんだって真っ赤でしょっ!?」
ズシャッ
敵を斬りながら口喧嘩する、土方と沖田。
二人の浅葱色の羽織は、————真っ赤に染まっていた。
「おいおい、何も、戦いながら喧嘩するこたぁねぇだろ?」
「全くだ。」
「いいんじゃねぇ?それだけ余裕があるって事だろ?」
「でも、俺ら真っ赤だぜ?」
「あー痛いっ!痛い!」
「・・・山崎。」
誰も痛いと言わないのに、痛いを連発する山崎。
呆れた表情を皆が見せた・・。
「山崎君!前っ! !」
敵が減って来て油断した。隠れていた敵兵が、山崎に刀を振り下ろした。
————あかん、間に合わんっ!
ガキンッ
「————何、諦めてんの?丞っ!」
山崎を襲った刀は、千夜により、受け止められた。そして、刀を振るう彼女の前に敵兵は地に倒れた。
「ちぃ・・・すまん」
真っ赤に染まった彼女。
「みんな見事に真っ赤だね。」
浅葱色が見えなくなるぐらいに、赤く染まっていた。
クスッと笑った千夜
「お前、どこ行ってたんだよ!」
「戦ってたってばっ!」
「一人で行動してんじゃねぇ!」
そんな土方の声に、千夜は微笑んだ。
「ありがとうね。
————いつも心配してくれてさ。
さっ、終わらせよう。この戦を・・・」
キョトンとした幹部達
————もう少しだけ、もってよね。私の体・・・
そして、敵に向かって走り出した 。
敵を斬り続け、やっと静まり返った御所周辺。
「・・・終わった?」
「終わった・・・のか?」
パンパン
パンパン
争いの終わりを知らせる合図が、鳴り響く。
信じられないといった男達の表情。理解するのに時間がかかる・・・
「やったっ!終わったっ!」
藤堂がそう叫んで、男達は歓喜をあげた。
「やったね!ちぃちゃんっ!」
振り返ると、そこには、居たはずの千夜は居なかった。
「あのバカっ!」
山崎が口を開いたと思ったら走り出す。
何がなんだかわからないが、山崎を追う男達。
行き着いた先に、女は倒れていた。
岩倉と共に・・・・
「・・・ちぃちゃん。」
「おいおい、嘘だろ!千夜っ!」
「なにしとんねん!」
沖田は死んでると思って体を揺らすが、
「・・・痛いってば!」
「死んだかと思っただろ!」
「勝手に殺さないでよ。
動けないから、私の魂だけ飛ばしたんだよ。
言ったでしょ?————死ぬ気はないって。」
男達は、ため息である。
沖田はホッと胸を撫で下ろし、横に寝転がった。
「空、綺麗だね。」
青く澄みわたる空
「うん。終わったね。」
「このままなら、死んでもいいかも。」
バシッバシッ
「おい、テメェら!!何、今から死んじゃいます的な空気を醸し出してんだよっ!
死なせてやんねぇからな!」
ガサゴソと紙を取り出した土方、千夜が念を込めた紙だ。
『新選組に告ぐ。バカ組長二名重症!
何が何でも生かせっ!
とりあえず、御所に運ぶの手伝いやがれっっ! !』
「無茶苦茶言ってるよあの人。自分も重症の癖にさ・・・」
「やせ我慢じゃない?
隊士に運ばれるの無様だしね・・・」
「僕たち今から運ばれるから、無様はやめようね?ちぃちゃん。」
終わった・・・戦いが・・・
————終わったんだね。




