やっと追いついた背中
薩長同盟は、結ばれなかった。だから、西南戦争は起きる事はない。
この争いが終われば、内戦は、この先、起きない!日本人同士殺し合うことは無くなる。
突然の発砲音に、千夜は、大地を蹴り上げ、刀で弾を斬る千夜。
「いきなり撃ってくるなんて・・・」
と、地に降り立った彼女。
「お前はいきなり、先頭に立つんじゃねぇよっ!」
バシッと土方に叩かれた。
「零番組と一番組は、特攻隊ですよ?
最後尾にずっと居るなんて出来ません。」
「はいはい。わかったから列に戻れ!」
「はぁーい。」
「ほんま、緊張感はないのか?」
「緊張しまくりだよ?」
「嘘つけ!」
「本当なのにー。」
プクッと頬を膨らませる千夜だったが、急に背筋に寒気を感じ、そちらに視線を向けた。
「お久しぶりですね。」
そこに居たのは、伊東であった。
「伊東甲子太郎っっ!」
一斉に、刀を構える新選組隊士達。そして、近藤が声を張り上げた。
「我ら新選組っ!お上に楯突くものは斬り捨てるっ!
行けっっ————! ! !」
「おおぉ————! !」
最後の戦がはじまった————。
「千夜さん、また後ほど・・・」
凄まじく会いたくないんだけど?
軽やかに身を翻し、伊東は、その場を去っていった。
千夜は、ただ、その背を見つめていたんだ。
ガキンッ
「何ボーっとしてんの!死ぬよっ!」
戦の中怒られたし・・・
再び、伊東の背を見た時、そこには誰もいなかった。千夜は、ふっと笑うと、刀を引き抜き、沖田の背に、自分の背をむけ、刀を構えた。
「チャッチャと終わらせるよ。総ちゃんっ!」
「了解っ!」
二人の周りの敵は、あっという間に地に横たわった・・・
ド————ンッ
「マズイ!大砲だ!」
「私が斬りますっ!」
新選組「はぁ?」
名乗り出た千夜は、
「烝っ!」
山崎の名を呼ぶ。
「あいよっ!」
山崎に向かって走り、山崎が構えた手に片足を置き上に投げてもらうと同時に、千夜も飛躍し、大砲を叩き斬った。
ドカーンッ
「ゴホゴホッ」
着地するときに見えた場所に、爆弾を投げ込んだ千夜のおかげで、敵方の大砲は使えなくなる。
「お前は、無茶苦茶してんなよ!」
「いいじゃん!大砲使えなくしたんだから!」
「死なせねぇからな。ぜってぇにっ! !」
「死ぬ気は無いって、いってるでしょ!」
刀を振るう千夜
幹部隊士達も次々に、岩倉派を倒していく————。
それと同時に、隊士達も怪我を負っていった。
「零番組!仲間の救護をっ!」
「了解ですっ!」
クッ
倒れてる人間は多いのに、やはり、岩倉派のが人数が多い・・・
「八番組!少し後退してっ!」
前線で戦っていた八番組に声をかけた千夜。
カタカタと、プラスチックケースの音を鳴らす千夜。それを藤堂が見て、声をあげた。
「うわっ!八番組、少し後退!吹き飛ばされるぞっ!」
仲間を、吹き飛ばすわけないじゃん・・・。
ド————ンッッ!!!
使いたくなくても、使わねば仲間が死ぬのなら、私は、何度だってこれを使う。
爆破した場所に立ち、千夜は手を合わせて、争いの中へと走るのだった。零番組が救護に回ってしまえば、千夜は一人になる。
山崎には、近藤の護衛を頼んだ。他の幹部隊士も自分の組で手一杯だ。千夜を気にしてる余裕などなかった。
千夜の息が切れる中、なんとか体制を立て直したのだが、目の前の男にグッと首を捕まれ、御所の門に叩きつけたれた。
「クッ・・・岩倉!」
目の前には、岩倉の姿。
やっと姿を現したのに、千夜は何もできないまま、男に、首を締められていく————。
ニタニタと薄気味悪い笑みを見せる男。
「ちぃちゃんっ!」
「ちぃっ!」
沖田も土方も助けに行きたいが、敵は、ワラワラと湧いて来て居て、行く事が出来ない。
「この・・先には・・行かせない!」
さらに、力を入れれば、千夜の手は、ダラリと下がった。
「随分呆気ないな。止めでも刺してやるか。
————伊東、お前がやれ。」
門にグッタリとした千夜の姿。
辛うじて門に寄りかかりながらも、立っている・・・
「よろしいんですか?」
「お前が、好いた女なのだろ?早く消してやれ。」
「では、喜んで。」
刀を引き抜き、
千夜に向かって、刀を振り上げた伊東。
「ヤメロッッ!伊東っ! !」
「ちぃちゃんっっ! !」
ズシャッ
「————! ! !」
突き刺さった刀から、赤が止めどなく流れ落ちる・・・
「消えるのは、貴方です!
————岩倉具視っっっ!」
土方も、沖田も、他の隊士達も目を見開いた。
「グッアアッ!伊東っっ!何故だっ!」
「何故?私は、尊王です。
何故、天皇を殺さねばならないのですか?」
刺され、苦しむ岩倉。
冷ややかな表情のまま、伊東は、刀を引き抜いた。
「いつから・・・?」
「初めからですよ。俺は、貴方が嫌いです。」
地に倒れ、岩倉は、動かなくなった————。
「お疲れ様でした。伊東総長。」
何事も無かったかのように、立ち上がる千夜。
「貴女、本当にバカなんですか?
俺がこいつを斬らなかったら死んでましたよ?」
「私、そんなにバカじゃないですよ?」
「何がどうなってんの?」
土方が頭を掻いた。
「伊東は、近藤さん暗殺を阻止して、斎藤にあっちの情報を流してくれて居た。
だから、ちぃは、伊東を許せと、そう頭を下げた。自分がひどい目にあったのに、あいつはそれでも伊東を許すんだとよ。」
「伊東を動かしたの?あんな、嫌いだったのに・・・」
「後は、岩倉派の人間だけだ。
頭に血が上ってるから気を付けろ!」
岩倉の身体が光る・・・。目を見開いた新選組達
「なんでっ! ?」
確かに心臓に突き刺さった筈・・・。
そして、光は消え、同時に岩倉の姿もそこから消えた。
千夜は、辺りを見渡して紙人形を見つけた
ド————ン
ド————ン
ド————ン
大砲・・・?まだ、大砲があったって事?
私が術をかけられたのは、この時代。ならば、この世界に術士が居てもおかしく無い。
「岩倉は、まだ、
————死んでないっっっ! ! !」
早く、戦を終わらせたい。岩倉派は、まだ半数以上・・・。
・・・天皇を守らなきゃ・・・。
新選組を残さなきゃ・・・
ゾロゾロ出てきた兵達に、千夜の頭の中は、パニック寸前であった。
ド————ン
ド————ン
ド————ン
「千夜っ!こっから援護するっ! !」
「長州のヒメが、そんな兵達に怯むんじゃねぇ! !」
「お前が言い出したんだろ!みんなで力を合わせるとっ! !」
御所の塀に銃を構える奇兵隊。
大砲を撃ってくれる久坂の姿。
パンッパンッパンッパンッ
「新選組だけに、カッコイイ所持って行かれたらたまらんぜよ!」
「まったくだにゃー。」
龍馬と中岡まで・・・
パパパパパパパパパッ
「椿っ!共に戦うと言っただろうっ!」
将軍のケイキまでも、ガトリングを撃ち放つ 。そして、幕軍までも銃を撃って応戦してくれる。
私は・・・。何を、一人で焦っていたのだろうか?
私には、こんなに仲間が居たじゃん。新選組しか知らなかった。
それでも、私の戯言に耳を貸し、一緒に考え、
手を貸してくれる仲間が
————こんなにも沢山・・・。
「千夜さん、私は、貴方方を傷つけた。
だから、組に戻れるとは思ってません。ただ、天皇は、守りますっ!」
私が、変えたんだ。
この世界を・・・彼の想いを・・。
新選組を、長州を、龍馬を、中岡を、幕府を・・・
ポワン、ポワンと光が現れる。
そっと、千夜は目を閉じた。
この光は、この先の世に行きたいんだ。
平和な世に・・・彼らの望んだ日本に!
「土方さんっ!ちぃちゃんの横に、僕たちの魂が・・・」
追いかけても、追いかけても、ずっと、追いつけなかった背に。
————今、やっと、追いつけた・・・。
『強くなったなぁ、千夜。』
新八さん
『なぁーに、悩んでんだ?』
左之さん
『やっと、追いついたな!ちぃ!』
平ちゃん
『待ちくたびれましたよ~。』
総ちゃん
『やっとか。』
よっちゃん
『待った甲斐がありました。』
山南さん
『千夜君っ!』
近藤さん
————あなた達が夢見た世を、私が、切り開く・・・
千夜は、ゆっくり目を開ける。
————芹沢。
千夜の瞳は、金色に変わっていた・・・。




