弱い自分にトドメを
刀が交わる金属音が部屋の中に響く。
慶喜と天皇、長州四天王。山崎までもが部屋に駆けつけた。
一度、千夜の姿に目を奪われたが、山崎は、報告を優先させた。
「天狗党は、突然現れた光の隊士により、敵陣二カ所、御所の周辺共に、全滅しました。
攘夷派は、鎮圧。・・・今のところですが。」
「・・・御苦労。」
「将軍がっ!」
倒れた将軍に駆け寄った天皇
「家茂っ!」
「まだ若かったのに・・・クッ」
悲しみの声が聞こえた。
ズシャッっと、嫌な音が聞こえ、男達の視線はそちらに向けられた。
心臓に突き刺さった刀。どちらが、本物の千夜なのかわからない。しかし、次の瞬間、
「クククッアハハハッ」
狂った様な笑い声が、男達の背筋を凍らせていく————。
「・・・嘘だよね?ちぃちゃんっ!」
沖田の声に、刺された筈の千夜の口角が上昇した。
「まだ・・・終わってないよ。」
ポワンポワンっと、現れる光。
「何でっ!」
ズッと、刺された刀を引き抜く千夜。
その刀な先は、赤く染まっては居なかった————。
そして、おもむろに、懐から紙人形を取り出した。
札と一緒に木箱に入っていた紙人形。しかし、その木箱は、刀によって貫かれて居たのだ。
「・・・なんでそれをっ!」
ニコッと笑う千夜
「あんたが、邪魔でしょうがなかった芹沢鴨が隠したんだよ。
あいつは、私の正体を知っていた。あんたに出会うずっと前からね。
水戸藩に書物が残ってたよ。芹沢鴨が、コレを持ち出したと。」
ペラペラと紙人形を揺らす千夜。そして、紙人形が赤く染まり始めた。
「まさか・・・クッ」
胸を押さえ出した女。手の隙間から、赤が流れ落ちる。
「人形は、私じゃなく、————貴女の方だったって事だよ。貴女が刺したのは私じゃなく紙人形。」
そして、千夜は、刀を抜き女の前に立ちはだかった。
「・・千夜っ!!私はっ!」
「何?命乞いするの?悪いけど、それは聞けない。————バイバイ・・・椿」
ズシャッっと刀が女に突き刺さる
「・・・千夜・・」
小さな千夜の姿に戻った女
————ごめんね。
貴女が望んだのは、私の死。だけど、もうそれは望んでないんだよ。
生きたいと、思ってしまったんだ。
この世界の、彼らと————。
身体が光り、山崎が札を千夜に渡し、千夜は小さな千夜に札を貼り付けた
この子は、私で間違いない。助けてくれた彼女が本当の姿。
沢山の魂を身体に入れた事により、狂ってしまったと思いたい。
そうでなくても、そう、思いたい。
ぎゅっと身体を抱きしめる。小さな体は、光になって消えてしまった。
————ごめんね。
私は、弱い自分を殺したのだとそう言い続けてきた。
ずっと前から、こうなる事はわかっていたんだ。小さな千夜は、私の力を封じ込める為の器。だから年もとらないし、記憶も無かった。
彼女は、ずっと一人だった。
ただ、彼女には、想いを寄せた人がいた。
それが、いえもち君・・・
私の中の
いえもち君の記憶も両親の記憶も奪った。それだけは自分のモノだと・・・
私の記憶を書き換えてまで、手に入れたかったのに、彼女は、好いた人を殺してしまった。
手に入らないとわかってしまったんだ。いえもち君は、和宮を愛してしまったから。
サラサラと靡く千夜の髪が、突如として、黒くなってく・・・
「ちぃちゃんの髪が・・・」
「術が解けたのかっ!椿っ!」
「・・・天狗党は・・?」
慶喜を見てそう言った千夜。目は、碧色から茶色に戻っていた。
「全滅や。」
「・・・そっか。」
千夜の姿が元に戻ったということは、彼女の力も元に戻ったということ。不思議な力と一言では言えるが、どんな力なのか、慶喜も山崎も知らない————。
*
自分の姿が、他人の様に見える。
黒髪に茶色の瞳・・・
別に、鏡を見るわけでは無いが、視界に入ってくる髪に違和感を感じてしまう。
「ちぃちゃん、何してるの?」
沖田がそう声をかけてきて、振り返ろうとしたら、背後から抱きしめる。自分の姿に違和感を持っているなんて言えない。
「綺麗だねぇ。ちぃちゃんの髪。」
千夜の結ってない髪を撫でる沖田
「・・・そうなのかな?」
つい、疑問系になってしまう。
はぁ
「ちぃちゃん、まさか、僕が君の見た目が変わったから嫌いになるとか思ってないよね?」
考えた事と全く違う問いに、千夜は、キョトンとしてしまう。
「思ってないよ。」
「なら、いいけどさぁ。」
何故か口を尖らせて言う沖田。
鎮圧したにはしたが、まだ、警戒態勢はとかれていない。
岩倉が出てきてはいなかったからだが・・・
相変わらず、御所の生活が続いていた。
簡易の家が作られ、大きなお風呂までも作られた。隊士や兵達は束の間の平和な時を過ごす 。大規模な攘夷派の行動は減ってきていた。ただ、無くならないのは事実・・・
「ったく、相変わらず、ベタベタしやがってっ!」
土方が見廻りに行って帰って来た所らしい。
ものすごく不機嫌なんだけども・・・
「よっちゃん、お疲れ様。」
千夜の声に、顔を赤くする土方。まだ、千夜の黒髪と目には、慣れないらしい。
「お、おう。」
「何、人の嫁見て、顔赤らめてるんですか?
万年発情期さん。気持ち悪いからやめて下さい。ちぃちゃんが、汚れます。」
沖田の発する言葉が、土方に容赦なく突き刺さる。
「テメェは!もう少し上司を敬われないのかっ!」
「えーヤダですよー。」
「総司っつつ! ! !」
久しぶりに、二人の追いかけっこに発展した。
「あーあ。お茶でも入れますか。」
クスッと笑った千夜は、勝手場に消えていった。
11月になり、やっと錦の御旗が出来上がった。
布に刺繍をしただけのものなのに、なぜこんなに時間がかかるのか?
家茂が死んでバタバタしてたのもあり、天皇も忘れていたとの有難くもない返答に、脱力する気さえ失せたのは、内緒だ。
江戸も大阪にも錦の御旗は送られ、今日にも掲げる事となったのだった。
「 降伏せよっっ!錦の御旗が作られたっ!
もはや、攘夷派に勝ち目はない!潔く降伏せよっ!国の為に戦うなら殺しはしないっ! 」
ワラワラと、錦の御旗を見て、降伏するものも出て来た。
その日、千夜は、非番で隊士や兵におにぎりを握ったり、治療を行ったり、休みなど関係ない生活を送っていた。
夕方、兵士たちがゾロゾロと帰って来るのを見て門に向かった。
「ちぃちゃん、また働いてたの?」
お迎えしたのに怒られました。
「え?私は大人しくしてたよ?」
「た。す。き。コレは?」
千夜の肩にはタスキが・・・
「あー。おにぎりを握ったからね。総ちゃんの。」
「一人分握るのにタスキいるかなぁ?」
えっと・・・
「ケイキ、錦の御旗どうだった?」
困った千夜は沖田を無視
「錦の御旗の威力は凄かったぞ。」
「ちぃちゃんっ!旦那様を無視ってありえないよ?」
「みんなの分おにぎりあるから食べてね~。」
千夜はダッシュで逃げた
「・・・ありゃ、治療もしてたな。」
土方の声に皆ため息を吐いた・・・
「ちぃちゃん、聞いてる?非番の時は休んでよ。いつも、最前線で戦ってんだからさ、体が休まらないでしょ?」
「別に大丈夫だよ?」
「ダメ。って事でちぃちゃんは今から寝ましょうね。」
「お風呂入りたい!」
まだ、夕餉を食べたばかりだと言うのに
「じゃあ、一緒に入る。」
「寝ます。」
「ちぃちゃんっ!」
「じょ、冗談だよ。」
で、結局お風呂に行く事になってしまった。
チャプチャプと広いお風呂に二人だけ。
「気持ちいいねぇー。」
ブスッと沖田は、ご機嫌が悪い。
しばらくして、ガラッと風呂の戸が開く
「おー千夜、奇遇だな。」
「まさかお前が入ってるなんてついてる!」
「ち、ちぃ!」
藤堂が鼻血を出す・・・
ゾロゾロ現れる男達
「だからか・・・」
首を縦に振る千夜。風呂にニヤニヤして入ってくる男達。
土方、永倉、原田、藤堂、高杉、吉田、
桂に、久坂
坂本、中岡、斎藤、ケイキまでも・・・
沖田は千夜を膝に座らせて、体を隠すようにするが、全部隠れる訳がない。
「ちょっと、何もそんな大勢で風呂入らなくてもいいでしょ?」
千夜の文句も無視
「いやぁー。まさか、千夜が入ってるなんて。」
わざとらしいことこの上ない
「ちぃ!背中流してくれよ。」
「別にいいよ。」
まさか了承してくれると思わなかった土方は、顔を赤く赤らめる。
はぁーーっと、沖田のため息が風呂に響く。
立ち上がった千夜。
「水着っっ!」
永倉が叫んだ
「裸の訳ないじゃん。」
騙された!っと、男達は叫んだのであった。




