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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
最後の戦い
241/281

将軍死す


残りの敵陣二カ所に、千夜は爆弾を落とせなかった・・・。どうしても、落とす事ができなかったのだ。


そして、七月二十日————。


半数は、倒した天狗党と攘夷派合わせて1000人程が幕府軍、新選組、奇兵隊に立ち向かって行く。


いつにも増して、爆発音が響く・・・


大砲も持ち出したのか、地鳴りがする程であった。


「門がっっ!————破られますっっ!」



兵の声に、千夜は、御所に引き返した。難無く塀を飛び越え将軍の元にかける。


襖の先に、龍馬と中岡が将軍を守っている。そう思えば、自然と扉を力一杯開け放った。



「 たまげただろっ!」


「心臓が止まるところじゃった。」


中岡と龍馬が、文句を言うが 、今の千夜には余裕がない。


「門が破られます。隠し通路に————」

「・・・椿 、俺は、今日死ぬんだね?」


「違いますっ!

・・・いえもち君は死にません。」


赤く染まった千夜の手をとる家茂。そして、手に持たされた物。


「和宮に渡してくれ。」


渡されたのは、綺麗な布に包まれた櫛・・・


「いえもち君が、渡したらいいでしょ?」


こんな、形見みたいに渡されても困るだけだ。生きて欲しくて、千夜は、付き返そうとしたのだ。しかし、


「俺は戦うよ。将軍だからって守って貰うのは

もう、イヤだ!」



それが、いえもち君の本音だろう。でも、戦わせてしまえば、危険は、確実に高まる・・・。



「 椿、君と戦う。————友である、君と・・。」


それが、いえもち君の願い・・・


「和宮の為にも、生きて、この櫛、自分で渡してくださいよ?これは、私が預かります。」


懐に櫛を閉まった千夜を見て、家茂は、ニコッと笑った。


「ああ。 」


「死んだら、渡しになんて行きませんからねっ!」


家茂は笑う。刀を片手に持ったまま。


「 どうすればえいがだ?

(どうすればいいんだ?)」


「ワシらは、将軍を守きにっ!」


そうこうしている間に、なだれ込む天狗党・・・


4人に対し10人と、フリな状態に、カタカタと千夜の刀が揺れた。


————三人共死なせるわけにはいかない!


ガキンッ


————力が強いっ!


受けた天狗党の刀は、物凄く重かった。


「さがるがぁ!」

「下がりませんっ!」


震える手が鬱陶しい。

桜色の手拭いで刀と手を固定しながら千夜は、一人また一人と倒していく。目の前の敵ばかり気にし過ぎていた————。


ズシャッっと、嫌な音が響き渡り、


「家茂公っっ! !」


振り返った時には、家茂は畳に倒れていた。

千夜は、クナイを放ち、家茂に駆け寄った。


赤に染まる彼は、千夜に手を伸ばす。何処を斬られたのか、それすらわからない。


龍馬と中岡が戦ってくれるが、なす術がない・・・


「つ・・ばき・・お前は・・・生きろ。


新たな世の・・・ハァ為に————死ぬな・・・」


「ヤダよ!死なないって言ったじゃん!いえもち君!」


フワッと笑う家茂。

そしてそのまま、伸ばされた手は、畳へと落ち、ピクリとも動かなくなった・・・


慶応2年7月20日


江戸幕府第14代征夷大将軍


徳川家茂 死没


まだ若い満20歳の生涯に幕を下ろした。



家茂の遺体の前に動かなくなった、千夜の姿を龍馬は確認する。


銃を片手に空砲を撃ち鳴らす。


パンッパンッパンッ


千夜からのSOSではない。将軍が死んだという合図・・・


クッ


ダラリと銃を持った手が畳にぶつかる。



頭に響く、家茂の声。



生きろ、死ぬな・・・


その言葉を何度聞いたかわからない。

死ぬ間際の人間が、仲間が、千夜に言って死んでいく・・・


新選組の仲間達が、そう言って死んでいった。

そう言って・・・


家茂の遺体をぎゅっと抱きしめる。

まだ暖かい・・・私の仲間であり、友達・・・

慶喜に再開させてくれた、いえもち君


ポワン、ポワンと、拳程の光が部屋の中に現れた。


「これは何だ!」


慌てふためく男達・・・

光は、御所を覆うほどに多くなっていく————。


『・・・将軍が・・・』


そんな声が、無数の光から聞こえてくる。


ヒッと男達も光を知らない人達も怯んだ。



「土方さん!コレちぃちゃんのっ!」


将軍の部屋に向かっている新選組。沖田の声がして窓から外が見えた。


無数の光がフワフワと揺れ動き、浅葱色の羽織が、刀を持った人の形になり、天狗党に向かっていく。


「将軍が死んだ」と言いながら・・・



「新選組の魂が、天狗党を斬っていく・・・

兎に角、将軍の部屋にっ!」


「はいっ!」

「「おうよ!」」

「急ごうぜ、土方さん。」

「御意。」

「歳、急ごう。」

「急ぎましょう。」


深く頷いた土方は、足を早めた。


将軍の部屋に新選組幹部がなだれ込み、倒れた将軍の死を確認した。


「家茂公っ!」


将軍を守るために、京までやって来た浪士組 。京に残るのも、将軍の為だった。


同じ御所に居ながら、守れなかった悔しさ。

男達はクッと歯を噛み締めた。


キィンッと聞こえた刀独特の音。


浅葱色の羽織が目の前に見えた。



誰も着てるわけがない。なのに、ハッキリ見えた浅葱色。


そして、隣の部屋はまるで地獄絵図であった。真っ赤に染まった桜色の髪の女と、彼女を守る様に刀を振るう浅葱色の羽織を着た新選組幹部の姿に、皆が目を見開いた。


「僕たちが・・・いる。」


何か違うことがあるとしたら、藤堂の額に傷がある事ぐらい。


「ちぃの、過去の俺たちか?」


自分達の姿が透けて見える。複雑な心境・・・


土方の問いに誰も答えるものはいない。ただ、ただ、目の前の光景が信じられないのだ。


ザシュッ、シュッ


次々に倒れていく天狗党


「土方さん、ちぃちゃんの目がっ!」

「金色・・・」


千夜の目の色が、金色へと変わっていた・・・


その瞳に、光を感じない。何も映してない瞳・・・それでも、手にした刀は離さない。


「クククッ。あーあ。力が暴走しちゃった。」


桜色の髪。千夜と同じ格好をした現れた女に、男達が鋭い視線を向ける。


「テメェは、ちぃを苦しめてどうしたいんだっ!」


ニヤリ笑う女


「だから、私は、千夜の魂を


————殺したいんだよ。


新選組の魂が邪魔をするからね。家茂を殺せば混乱する。自分達が守りたかった大事な存在。

魂になろうとそれは変わらない。」


「家茂公をやったのは、お前かっ!」


「フフッ。どうだろうね?」


そう女が言った時だった。


「————満足?

自分の好いた男を殺して・・・」


女の表情が、一気に強張った。


「力が暴走してるんじゃ!!なんで、人形のあんたがっ!」


幹部隊士達の魂が丸い光へと姿を変えていく。


「私は、あんたの人形じゃない。ずっと、わからなかった。何故、一番初めに接触したのが

いえもち君なのか。

接触出来る人間は、他にも沢山居たのにも関わらず、何故、将軍を選んだのか。」


ゆっくりと刀を納める千夜

天狗党はすでに、御所の中には居なかった。


そして、外の光も突如として消え去った・・・


「何故、いえもち君を殺した!」


「史実通りに殺してあげたんじゃない?」


悪びれる様子もない女。自分の姿をした女に怒りを感じる。


「史実がなんだっていうの?

今を生きてるのに、何故、先を知ってるからって、そのままの道を歩まねばならない!


変えてはならないと誰が決めたっ!


歴史は、今生きてる人間が創ってくものだ。

今生きてる人が、歩む道を選んで進んで行くんだよ!」



「あははっ。

本当、どこまでも綺麗事を言うんだね。


自分の兄上が、次期将軍になるのに・・・

本当は、家茂に早く死んで欲しかったんじゃない?

そしたら、千夜の思い通りに世は動く。

だって、ケイキは、貴方が大事で大事で仕方ないもんねぇ?」



「世の中を知らないんだね。


将軍様に、なったとて、世の中は思い通りになんて動かない。

それが、ケイキであっても変わらない。」



「クククッ

せっかく殺さずに居てあげたのにね?」


シュッっと刀を抜く女。



「ケイキを操ろうとしても無駄だよっ!

私が、お前を————殺してやるっ!」



千夜も刀を抜いた。


刀を交え戦う女・・・


どっちが、本物の千夜かわからない。

助太刀すら出来ない歯痒さに、男達は見守ることしか出来ないで居た・・・




















































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