争いの始まり
「何が、目的や?何で、ちぃを苦しめるっ!?」
山崎の声に、強張った顔をした女がニヤリと笑った。
「私の人形は優秀でね、人を惹きつける才能があるんだよ。はっきり言って、私からしたら、新選組がどうなろうと、日本がどうなろうと、
————知ったことじゃない。」
部屋にいる男達は、怒りの表情を露わにする。
そんなのも気にせず、女は言葉を続けた。
「あんまりにも、新選組を大事にするからね、有名になる前に消してしまおうと思ったんだよ。会津藩を使ってね。」
会津藩・・・?
そこで思い出す、角屋での出来事。
「じゃあ、小寅が酒に毒を盛ったのは!」
「私が、佐々木と言う男をたきつけた。案外簡単に動いてくれたよ?
だけど、失敗してね、二人仲良く、————殺してあげたよ。クククッ」
男達が、その事実を聞き、目を見開いた。
「いつもいつも、私の邪魔ばかりするんだよね、私の人形は・・・。
殺すのは勿体ないから壊してしまおうとしても、中々壊れない。
終いには、歴史を変え死ぬ筈の者達まで救ってしまった。魂を自分の身体に入れるのはね、無意識に守ってるんだよ。
私に食べられてしまわない様に・・・
結果、人形は、死ね無くなった。取り込んだ魂達の居場所がなくなっちゃうでしょ?あの子が死んでしまったら。」
バカだよね・・・。
と女が言い放った。
「なるほどね。」
そう声が聞こえて、勢い良く、閉じられていた襖が開け放たれた。
「ちぃちゃんっ!」
桜色の髪が部屋に入ってくる。後ろに続いて中村が部屋に入り襖を閉めた。
「椿・・・。お前刺されたのかっ!」
浅葱色の羽織を羽織った千夜の腹は、赤く染め上がっていた
「あぁ、そこの方に刺された。」
くいっと首で、女がやったのだと知らせる千夜
男達の視線は嫌でも女に向けられた。
「魂を食らって大きくなった訳だ。」
女を見ながら声を出した千夜。
「ご名答。」
「新見をたきつけたのもお前だな?」
ふっと女は笑った
「新見、ああ、あいつね・・・佐々木とあぐりを殺した男でしょ?まぁ、佐々木の運命は、千夜が変えてしまったけどね。でも、あぐりは、
————史実通りに殺してあげたよ。
どっちみち、芹沢派の人間は、こいつらに殺される運命だったんだから変わらないでしょ?
誰に殺されても・・・・ねぇ?近藤さん。」
近藤は、女から目を背けた。
「近藤さん?」
「沖田総司、あんたの憧れた男はね————。」
ガキンッ
「黙れっ! !」
千夜が女に向けて刀を振るったが、受け止められてしまう。
「へぇー、知ってても、あの男を庇うか?」
「うるさいっ!」
シュンッ ガキンッガキンッ
ギリギリ
「千夜。お前を売った男を・・・」
「売ったって・・・近藤さん?」
嘘だよね?と沖田が近藤に詰め寄るが、ぎゅっと唇を噛み締めた近藤は、なにも言葉を発しなかった。
「なんで、なんでだ?かっちゃんっ!
ちぃは、大事だと言ったじゃねぇかっ!」
心を乱す男達を見て、女は不敵に笑い声をあげる。千夜と刀を交えながら。
「人間は醜いね、千夜。
裏切り、裏切られ、自分の立場を上げる為なら手段なんて選ばない。」
「ふっ。なにそれ?裏切られるのが何な訳?
裏切りたい奴は、裏切ればいいじゃない。
そんなの怖がってたら、————生きていけないんだよっ!」
ズシャッ
千夜が振った刀は、女の腕を切り裂いた・・・
「一つ教えてあげるよ。近藤さんは、私を裏切ってないよ。」
ニヤリ笑った千夜。
対照的に、クッと顔を歪ませた女。
それを見計らって、札を取り出した山崎だったが、チッと舌打ちをして、女は消えた・・・。
「消えた・・・?なんだよっ!アレ!魂食っちまうとか・・・」
「しかも、ちぃと同じ顔だったっ!」
「妖のたぐいか?」
ギャーギャーと、うるさい三人。
近藤さんをまだ見ている沖田と土方・・・
「はぁ、近藤さんは裏切ってないから、二人は離れる。仲間割れをして欲しかっただけ。」
ね?っと、千夜は笑って二人を近藤から引き離した。
結局、この日は、戦いに疲れたから休む事になった。なにも解決などしないままに————。
昼夜問わず、反乱を押さえるために捕縛し続ける。新選組も4班に分かれ、幕府軍、奇兵隊と共に、ローテーション式にして戦い続けた。
————互いに数が減っていく
組から死者は出ないものの、幕府軍と奇兵隊の死者は後をたたなかった。
千夜は、自分が休みだろうと救護をし続けた。
一人でも多くの命を救いたい。千夜の中にはそれしかなかった。
「ちぃっ!テメェは休みなんだ。体を休ませろって何度言ったらわかるんだよっ!」
そんな土方の声も千夜は、聞こえないフリをする。そして、治療を進めるのだ。
グイッと、襟を引っ張り強制捕獲した土方は、バタバタ暴れる千夜を沖田に投げる。
「縛ってでも部屋からだすな!中村、救護代われ。」
「はいっ!」
「了解です。さぁー。ちぃちゃんは、お昼寝ですよー。」
「眠くないってば!」
「ん?そっかそっか。眠くてたまらないか。」
そんな事一言も言ってないっ!
布団にペイッと投げられる
「なんで本当に縛る訳?」
千夜の手は、沖田によって縄で縛られた。腰にも縄をかけられ、その縄は、柱へと巻きつけられる・・・
「逃げちゃうからね。後ろに縛らなかっただけイイと思ってよ?」
ニコニコしてる沖田
何にも良くない!
「はいはい、お昼寝ねー。」
横に添い寝をして、トントンとリズム良く千夜の背を叩く。眠くないと言った千夜は、その心地よいリズムに、舟を漕ぎだしてしまう。
本当は、彼女とて、疲労で身体はボロボロだ。
「おやすみ。」
と、沖田が頭を撫でれば、すぐさま、夢の世界に旅立った————。
「・・・ここまでしないと、寝てくれないんだから。」
僕も寝よっと、布団をかけて二人で仲良く眠った・・・。
そんな日が、何日も、何カ月も続いた。そして、数ヶ月後、ある知らせが届いたのであった。
「大阪城が火を放たれた。」
ザワッとする部屋
「いえもち君を御所に連れてきて良かったよ・・・江戸は?」
「水戸藩が先陣をきって戦ってくれてるよ。異国の船はまだ戻ってない。」
ホッと胸を撫で下ろした。
月日は流れ、六月の終わり。鎮圧は目の前かと思われた。だが、七月に入り、水戸より天狗党の本体が京に入った事により、京に隠れていた天狗党も一緒になり、千もの軍勢が御所の周りを囲む・・・。
過激派尊王攘夷。
クッと、己の唇を噛み締める千夜。
「椿、お前は戦に出なくていい!」
「嫌です。」
「水戸藩のモノも居るんだ!お前は斬れない!」
「斬ります。私は、水戸徳川家の人間です。ならば、藩の間違いは正さなければならない。違いますか?————兄上。」
目を見開いた慶喜。初めて千夜が自分を兄上と言った。
「水戸藩の間違い・・。わかった。共に戦おう。」
「はいっ!」
そして、天狗党の戦いは始まったのだった————。




