始まった戦
そして、二日後。
新選組は、御所に隊列を作っていた。
そこに現れた人影に、土方は声をかけた。
「長い事すまなかったな。————斎藤。」
そう。斎藤一を連れ戻したのだ。
「いえ。」
相変わらず無口・・・
「おかえり、はじめ。」
「ああ。お前は、またそんな格好で・・・」
そんな格好とは。
短い着物を着た千夜の姿を見て斎藤は、呆れた声を出した。
「動きやすいんだってばっ!」
天皇は、民に連合国になったことを知らせた。
新選組からは、隊を離れる者は出なかった。
彼女は、不可能だと諦めていた、連合国入りを成したのだ。
攘夷は、無意味だと組の者たちは、考えを改めた。切腹しようとした隊士を武士として、手にかけた。
こんな所で、切腹なんか出来るわけない。
死んでいった隊士達の為にも、仲間を斬らなければならなかった、組長の為にも・・・
それが、今の新選組隊士達の気持ちであった。
シュタッと現れた黒装束姿の山崎。
「報告っ!敵陣は、5箇所!江戸や大阪でも暴徒化が予想されます。」
「だろうね。」
気が抜けそうな千夜の声。
「江戸、大阪共に奇兵隊並びに幕府軍を送ってある。
何のために各藩に訴えたと思ってるの?
私達がするのは、京の暴徒化した人達を鎮静するのが仕事!」
「山崎、なんかあったら報告しろ!」
「御意。」
「山崎烝っ!わかってるよね?」
千夜の心配そうな顔を見て、ふっと笑った山崎。
「わかっとるわ!天才観察方捕まえて何いうとんねん!」
・・・死ぬわけ無いやろが。多くの命を新しい世に連れてく・・必ずや・・・
去ってしまった山崎をいつまでも千夜は、見つめていた。
「自分で言う?」
まぁ。烝らしいけどね。
しばらくして、攘夷派の人間達がワラワラと現れた
「攘夷こそ日本の全てだっ!」
「我々は、死しても尚、攘夷を称えるっ!」
「刀を捨てよっ!争いなど無意味だっっ!」
そう声を荒げた慶喜。
しかしながら、刀を捨てない攘夷派達が、スッと刀を抜いたのを確認して、新選組は、刀を抜いた。
「行けっーーー!出来るだけ殺さず捕縛せよっ!」
慶喜の声に地を蹴る隊士達。
「おおーーーーっっっ! !」
なるべく傷をつけずに捕縛したい。
だが、相手は、殺す気で刀を振るう。
一人を捕縛した時、高杉が刀を振り上げる姿が見えた。
バンッ
銃声と共に、高杉の目の前の男が崩れ落ちる。
「高杉っ!捕縛しろっ!」
ハッとして、縄に手をかけた高杉。
「あのバカ!余計な事を・・・」
相手の足に当たった銃弾。
————殺してしまうところだった。千夜が撃たなければ確実に。
「やらなければ、やられますよ!」
相手の数が多過ぎるのだ。山南ですら声を荒げる。
「貴方達はそんな、弱い人たちじゃない!
————捕縛してっ!」
ズシャッっという嫌な音が辺りに響く。
斬り捨てなければ殺される。それが現実・・・
「・・・クソッ」
倒れ動かない攘夷派の人。
周りの攘夷派が居なくなった千夜は、息をする者が居ないか確かめて歩く。
「・・・はぁ・・ツッ」
生きてる!
駆け寄り相手の怪我を治療する千夜だが、相手は、怪訝そうな顔を彼女に向けるばかり。
「何を・・・」
「治療。」
そんな事はわかってる・
「何故、敵を・・・」
「私には、敵は居ないんだよ。
殺したくない。生きて新しい世を見るんだよ!」
「日本は終わる。」
「だったら、最後まで見届けて見なよ。
————明日も日は上るよ。必ずね。」
「・・・」
晒しを巻いていく女・・・
「私が、開国し連合国にした。日本を一つにしたい。
貴方方と同じ筈です。平和な国にしたいのは。」
「バカなのか?お前。俺を治療して、斬られるとか考えないのか?」
「全く考えない。」
キョトンとして答えられた・・・
そして立ち上がり、また、倒れた人を一人一人確認する女
「何故だ・・?味方になれとも言わなかった。」
ただ、治療をして去った・・・
そしてまた、生きてる奴を治療している。
それを繰り返す女
刀を振り上げた幕府軍。その幕府軍の目の前に仲間の姿が見えた。
もうダメだ・・怪我をした俺にそこまで走る力はない・・
諦めた。仲間の死を覚悟した瞬間
バンッ
銃声が聞こえ幕府軍の刀が地に落ちた。
幕府軍が唖然とする。撃ったのはさっき治療した女・・・
「捕縛してっ! !」
刀だけ撃ったのか?
幕府軍はこちらを見て頷いた・・・
「お前、本当にバカなのか?」
治療を行っていた千夜だが、突然のバカ呼ばわり・・・
「あれ?歩けた?」
そして敵視もしない・・・刀を持っているのに。
「じゃあね 。」
そう言って去ろうとする
「待てっ!何故、仲間になれとは言わない!
俺らを助けてどうする!」
「敵に治療されるなど、俺は、腹を————。」
「斬れないよ。痛みを知ったから、貴方達は腹を斬れない。
仲間はね、命を預けれなきゃ仲間じゃ無いんだよ。それを無理強いしてどうするの?」
そう言って女は駆け出した。まだ戦っている中へと・・・
シュンッ
「うおっ!あぶねぇだろっ!高杉!」
「悪りぃ・・・チビ助を狙った訳じゃねぇんだ・・・」
足元に倒れた人をふんずけて、高杉の体が傾いた結果、藤堂に刀が向いてしまったのだ
「ったく、気をつけろよっ!」
ガキンッ、シュン
「きりがねぇ。」
愚痴をこぼした土方。背後に感じた殺気に対処が遅れる。
ガキンッ
「おーおー。俺の部下を殺してもらったら困るんだよっ!」
ザシュッ
「久坂~捕縛だ。」
「バカ杉、自分でやれっ!こっちも手一杯なんだよ! !」
「高杉、助かった。」
「俺の部下だからなっ!」
ニカッと笑う高杉
「部下じゃねぇよ・・・」
ハッと土方も笑う
「土方さん、ちぃちゃんがいません!」
沖田の声に
「あの、バカタレ!何してんだよっ!」
辺りを刀を振り回しながら、千夜を探した・・・。
赤く染まった女の姿に土方は唖然とする。
それは、誰の血なのか、女のものであるなら、命が危ない・・・
激戦区に一人、刀を振るう千夜。
肩で息をする程に苦しそうなのは遠目でも確認できた。
「ちぃちゃんっ!」
叫び、走った沖田の姿に、ハッとして自分も後を追った。
「テメェ、一人で何戦ってやがる!」
「逸れただけだって。」
治療をしていて新選組を見失った千夜は、ただ、ひたすら一人で戦っていた。
3人に対して攘夷派60人に囲まれる
クッ
胸を押さえる千夜
背には沖田。その横に土方・・・
「ちぃ、どっか、斬られたのか?」
土方の問いに首を振る千夜。
・・・クソッこんな時に
銃を構えた千夜
バンッバンッバンッバンッバンッバンッ
攘夷派の人間の肩や足を狙い撃っていく
その間に、土方も、沖田も、敵を減らすべく地を蹴り相手に切り込んでいった。
そして、御所の前に現れた男達は全員地に倒れた・・・。
生きてるか死んでるかわからない。
惨たらしい光景の中、幕府軍が奇兵隊が新選組が立つ。
こんなのは、始まりに過ぎない。
誰が言った訳ではないが、隊士負傷者を治療する零番組
苦しそうな千夜を支える沖田。
「千夜さんっ!斬られたんですか?」
走り寄って来た中村
「斬られては無いみたいなんだけど、苦しいみたいで・・・
とにかく、御所に運ぶ。」
「生きてる奴らは捕縛しろっ!負傷者は零番組に!
敵が来たら呼べ!幹部と長州は一旦御所に行く!」
土方が指示を出し沖田に抱き上げられた千夜を連れ御所へ走った。
胸元を強く握りしめる彼女。呼吸も荒い。嫌でも、一度死んでしまった時を思い出してしまう・・・。




