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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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酒と男の友情

斎藤と別れ、着替えるのも面倒だからと、千夜は、変装したままで、屯所へ足を進めていた。それが悪かったのかもしれない。


キィンッっと刀の交わる音が聞こえたと思ったら、グイッと何かに捕まった・・・。


太いたくましい腕は、背後から千夜の細い首に回った。


ザザッと、浅葱色が見えて、指名手配のビラを思い出す・・・。



巻き込まれた・・。

しかも、今日は、一番組と八番組の巡察だ。

捕まったのが私でよかったよ・・・と、心底思った。


「テメェら、この女がどうなってもいいのか?」


弱い奴ほど人質をとるんだよ・・。


首に突きつけられた刀に、多分、背後の男は、勝ち誇った顔をして居ることだろう。千夜には、見えないが。見えるものと言ったら、周りには、背後の男の仲間が8人ほど居るぐらいだろうか?


普通、叫ぶのかな?

などと、冷静に考える千夜は、流石である。


「テメェ!町の人を巻き込んでんじゃねぇ!」

「・・・めんどくさ。」


どうやら、男を追ってきた藤堂と沖田は、千夜とはわかってないみたいだ。


平ちゃんはまだしも総ちゃんのめんどくさ。

って、酷くない?


人質を取られて動けないらしい、新選組・・・。


「・・・ったく、一番組と八番組が何こんな場所で遊んでんの?」


千夜が発した言葉に沖田も藤堂もようやく、目の前に捕まって居る女が、千夜だと知る。


「ちぃちゃん?」


「好きで捕まった訳じゃないのに、めんどくさくて、すいません。」


アタフタする沖田、千夜は、相当ご立腹らしい・・。


「大体、サッサと捕まえればいいのに、 何、手間取ってんの?」


開いた口が塞がらない男達と、その場に居た町人達。千夜を捕まえている男ですら固まっている。


当たり前だ。

千夜は、今、普通の町娘の格好をしてるのだから。町娘はそんな事言わない。


「何ごちゃごちゃと————。」

「サッサと、その汚い手を退けなよ。」


スッと、沖田の刀が男の首元ギリギリに、突きつけられる。


沖田の低い声がその場に響いた。その隙を見計らって、千夜は、男へと肘を叩きつけた。

ドスッと崩れ落ちた男・・・


その後は、あっという間に男達は捕縛された。


「何、一人で歩いてる訳?」


沖田が千夜に詰め寄る。


「わかんなかったでしょ?」

「そういう問題じゃないよね?」


フイッと、視線を逸らした千夜。

これは、怒ってますね・・・



スタスタと、何事も無かったかのように屯所に歩く千夜。


捕縛した人を平隊士が引き渡しに行ったため、

藤堂と沖田が千夜の後を追う形になる。


「ちぃ、総司も、悪気があったんじゃねぇんだって!

んな、怒る事じゃねーだろ?」


「別に怒ってないし。」


そうは言うが、さっきから、スタスタと歩くし

沖田とは、目を合わせない。


態度からして怒っている・・。


だから、藤堂が声をかけたが、機嫌は良くならないらしい。


「土方さんだって、わかんねぇよ。ちぃだって・・」


屯所の門番までにも、千夜は、引き止められる始末。


「バカッ!!こいつは、ちぃだよ!」


藤堂が止めた平隊士の頭を叩く。


「「すみません。」」

「・・・別に大丈夫だよ。」


ニコッと笑って、屯所の中に入っていく千夜だが、態度は、相変わらずだ。


「・・ちぃちゃん、機嫌なおしてよ。」

「怒ってないってば。」


ただ、報告をしたいだけなのに、藤堂と沖田は、怒ってる?怒ってる?と、さっきから五月蝿い。


副長室の襖を無言で開く千夜。土方がこちらを見て、


「ああ、ちぃか・・・」


後ろの二人を見て言葉を飲み込んだ土方。


「なんだ?お前ら。驚いた顔して・・・」


「なんで、ちぃってわかんだよ!」



いきなりの藤堂の言葉に、土方の眉間のシワがニョキニョキと増える。


だが直ぐに、


「なんだ?お前ら、わかんなかったのか?クククッ」


なんだか嬉しいらしい土方は、上機嫌でそう言葉にした。


「お茶持ってくるよ。」


空になった、湯のみを見て千夜が土方に言う。


「ああ。頼む。」

「二人は飲む?」


コクンと頷く二人

それを確認して、サッサと千夜は部屋を出て行ってしまった。



「なぁ、土方さん。ちぃ、怒ってるよな?」

「あぁ?怒ってねぇよ。」


何言ってんだ?って顔をする土方。


藤堂が報告を交え、ちぃが怒ってると思った理由を話した。


「・・・ちぃは、町人を捕まえられて

動けなかったお前らを見て、思うところがあったんだろ?


総司が面倒クセェっつたのもだろうが、町人を大事にしてほしいんだろうよ。


最近は、人斬り集団とも言われなくなったし、ちぃは、町人に助けられたしな。まぁ。そんな事で、あいつは怒ってねぇよ。」


「目、合わせてくれないんですけど・・」


口を尖らせて言った沖田


「たまたまだろ?怒ってんなら部屋戻るだろう?茶なんか入れてくれねぇよ。」


気にし過ぎだと土方は文机に向かった。



報告も終わったし、しばし、副長室でくつろぐ藤堂と沖田。


しばらくして、着替えた千夜がお茶を持って戻ってきた・・・。


「どうぞ。」と言って置かれたお茶・・


千夜はお湯が沸く間に着替えたらしく、いつもの袴姿・・


「ちぃちゃん。」

「なに?」

「いや、ありがとう。」

お茶を持ちながら、ぎこちなく沖田は言った。


ニコッと笑った千夜。怒って無いんだよね?と

確認したくなる・・・


「よっちゃん、会ってきたけど。

心配する事、無いんじゃないかな?」


「そうか。わかった。」


そっと、紙を土方の手に渡す。


「ご苦労だったな。」


それを受け取りながら

言葉を発した土方


二人でやりとりする土方と千夜


藤堂と沖田は、さっぱりわからないと、顔を見合わせるしか無かった。



手にした紙を懐に入れた土方。もう一つ小さく折られた紙が、お茶の近くにあるのに気づく。


千夜に視線を向ければ、小さく頷いた・・・。


これは、斎藤からだと土方は、直ぐに気づく。


中を直ぐに確認したいが、グッと堪え懐にしまった。


「じゃ、私用事があるから。」


そう言って退室した千夜。


「・・・ちぃちゃん。本当に怒ってなかっなのかな?」


まだ言ってる沖田


「女ゴコロは、わからねぇ。」


藤堂と共に、お茶を飲みながら、ため息を吐いた。


お茶を飲み干し、しばらくして二人は副長室から出て行った。


ストンッ


「ったく、怒ってないのに」


屋根裏から突然現れた千夜に、土方の心臓が驚きで跳ね上がった・・・


「ちぃ、なんか言ってから現れてくれねぇか?」


「えっ?もしかして、ビックリした?」

「んな訳あるか!」


驚いたなんて言えない・・・


そんなの格好悪すぎる。なんとか誤魔化し、斎藤からの文を読む。


「・・・ちぃ。コレは、他言無用だ。」

「御意。」


ニコッと笑った千夜。


「俺は、意外に、人を見る目がねぇのかもな。」



「違うよ。人は、些細なきっかけで変わるんだよ。

近藤さんに話してみたら?土方歳三が支えたいのは、踏ん反った近藤勇じゃない。

みんなを食客にした、————近藤勝太だって。」


頭をガシガシ掻いた土方


「俺がか?」


「いいんじゃない?私が言うより、よっちゃん副長なんだからさ、隊士の想いを伝えてあげなよ。」

「はぁ。」


気が重い仕事だな。っと土方は、ため息を漏らした。


「草莽の野人。身分も所属も関係なく、在野の一人として国に尽くしたい。


私は、朝廷も幕府も関係なく、国を守りたいって言った近藤さんが好きだよ?

幕府より新選組が好きだと言った近藤さんがね。」


ニッコリ笑った千夜


「ああ。話してみるよ。今のかっちゃんは

俺は、好きじゃねぇ。」


たまには、腹を割って話してみるか。


間違ったままにしとけねぇ。大事な友であり

支えたいと思った男なのだから。


「はい。」


酒ビンを渡す千夜。


「たまにはいいんじゃない?酒を呑みながら話すのもさ。」


本当、いい女を逃しちまったな・・・


そう思いながら、そっと、酒を受け取った。







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