幸せとは?
部屋に戻ったら、千夜は、背後から沖田の腕に捕まった。
そのまま、ズルッと畳に腰を下ろしてしまう。
「・・・許さない。
僕を置いて逝くのは許さない・・」
「わかってるよ。私は死なない」
沖田を見て笑う千夜
「なんで、笑えるの?辛いのに・・・苦しいのに・・」
「私ね、ずっと死にたかった。自ら傷つけた時もあった。でも、死ねなくて、この世界に来た時に決めたの。
私はこの世界で死ぬ。
だから、それまで、大好きな仲間と笑っていようって。
そしたらさ、私が死んだ時、みんな、私が笑った顔を思い出してくれるかなって
くだらない、理由だけど・・ね。」
「ちぃちゃん。死なないで?
君は、僕と祝言あげるんだよ?」
目を逸らすしかない。彼と約束した。
私が死ぬ時、彼は死に、彼が死ぬ時、私は死ぬと————。
祝言は、挙げたい。
今、目の前に居る、沖田総司を愛したのは嘘じゃない。
子が身籠れない悔しさ。そして、自分が人間かわからない現状。
「総ちゃんには、幸せになって貰いたい。」
それが本音だった。
「ちぃちゃん、僕は、悲劇の天才騎士。そう呼ばれるんだよね?」
「うん。」
「でもね、長く生きるだけが幸せじゃない 。
僕は、今も刀を握れる。それは、君が生きる意味を教えてくれたからだよ。
僕は、一度は、死を覚悟した。病名を聞いただけでね。
君にも、幸せになって欲しい。
でもきっと、千夜は子供がとか、考える。
だから、言い方を変えるよ。
僕を幸せにして?君と一緒に居たいのは変わらない。生半可な気持ちで言ってるんじゃない。
僕は、————君無しで生きられない。例え、いつ死ぬかわからなくても、側に居たい。」
「総ちゃん」
「男が幸せにしてって言うの、かなり恥ずかしいもんだね。
でも、君はそう言わないと、僕と一緒に居てくれないでしょ?千夜は、違うの?」
その聞き方はズルい。
「好きだよ。総ちゃんが、大好き。側に居たい。」
何も考えなければ、すぐに答えなんて出た。
ニコッと笑う沖田
「やっと、言ってくれた。
ちょっと無理矢理だったけどね。僕は、君を離さない。
千夜は、————僕のお嫁さんだからね。」
ぎゅっと、腕の中の女を抱きしめる。
「うん。」
素直にそう言った千夜に、沖田は嬉しくて、千夜を押し倒した。
二人の想いは同じ。この動乱の時代に、死は誰にでもやって来る
だからって怖がるだけでは、前に進めない。
いつ死ぬかわからない。だけど、それでも、一緒に居たいのなら、迷う必要など無い。
だったら一緒にいればいい。
死んでしまっても、ずっと離れてなんてあげない。
愛を確かめあいながら、沖田は、呪文の様に
彼女に言い続けた————。
「祝言っっ! ! ?」
屯所に響いた声は、驚きに満ちていた。
ケイキが屯所に訪れたその日、沖田が祝言の許しを貰おうと話し始めたのがキッカケであった。
幹部隊士も、土方も山南も近藤も目を丸くする。
頭を下げた沖田。ケイキは、千夜に視線を向けた。
「椿、お前、この非常時に・・・」
「だからだよ。ケイキが屯所に来たということは、連合国から連絡があったんだよね?
祝言は、同盟が終わってからで構わない。」
「沖田、頭を上げろ。お前らの仲は反対はしてない。ものすごく、複雑な心境だが……。」
おずおずと頭を上げた沖田
「同盟って・・・」
そんな話は、聞いていない新選組の者達 。
「連合国と同盟を結ぶ事になった。
10日後に横浜港に向かう。新選組も同行願いたい。」
「それは構いませんが…随分、急な話しですね。」
「椿がずっと連合国と文でやり取りはしていたんだ。もう、同盟の内容は決まっている。
後は、署名を貰うだけだが、向こうの条件でな、椿が居なければ嫌だと言ってきてな。それで、新選組を連れて行く事が決まった。
今日は、その報告に来たんだが、まさか、
祝言と言われるとは思わなかった」
それは、確かに非常時・・・。連合国になれば
開国派と攘夷派で戦になるのは、間違いない。
開国とは違うのだから・・・ 。
「連合国と同盟を結んでから、答えをだす。
それで構わないか?沖田。」
「はいっ!」
「すまないな、まだ仕事が山でな。今日は失礼する。」
「一橋公、岩倉は…?」
「まだ見つからん、天狗党の話も聞いている。
椿、お前も気をつけろ。」
コクンッと頷いた千夜。
ケイキは千夜の頭を撫で、微笑んだ。
「ケイキ、ありがとう。気をつけて」
「ああ。」
そう言ってケイキは帰って行った————。
「総司、テメェ。なんで俺らには一言もねぇんだよ!」
「別に土方さんの許可なんかいらないですし、たまたま、一橋公が見えたから、話しただけですよ?」
「俺のちぃがっ! !」
叫ぶ藤堂
「魁先生、玉砕だな。」
ポンッと藤堂の肩をたたいた原田。
慰めじゃない…。
「まぁ、めでてぇじゃねぇか!よかったな、総司っ!」
「こういう時って、ちぃちゃんに言うんじゃないんですか?普通・・・」
「・・・お前が女とか、考えられ無かったから、ついな。」
あははっと笑って誤魔化す永倉
「本当に、総司のモンになっちまう・・」
「あのさ、私モノじゃないよ?祝言上げても、
私は変わらないから」
「変わって貰いたいんですけど…」
沖田の切実な願いも
「嫌ですよ。」
一言で千夜は切り捨てた
「千夜、嫁は旦那の三歩後ろを歩くもんだ。」
「・・・嫌です。そんなの誰が決めたんですか?」
キョトンとした顔になる千夜
「まさか、僕に刃向かうの?」
「ダメなの?」
問いを問いで返す千夜に男達はため息である
「ちぃ、旦那には茶を淹れてやってだな 」
藤堂は、語り出す
「お茶ぐらい、自分で入れたらいいじゃない?」
ばっさりと切り捨てられた・・。
「千夜、総司が可哀想だ。」
「え?なんで?」
土方に視線で助けを請うが
「俺はお前なら、そのままで構わねぇがな。」
そっと千夜の手を引き抱きしめる。まだ口説き落とそうとする土方
「土方さんっ!ちぃちゃんに触らないで下さい!貴方は、何時になったら諦めるんですか!」
ベリッと引き離される…
「うるせぇよ。そんな、簡単に諦めれる訳ねえだろうが!」
「さっさと諦めて下さい!」
「また始まったよ・・・一番潔かったの山崎君じゃん」
「そう言うお前も、未練タラタラじゃねぇか、平助。」
「当たり前じゃねぇか!
腹黒総司だぞ?ちぃが心配でなんねぇ…」
ピクッと沖田が反応する
「平助、死にたいの?」
ニコッと笑う男は、藤堂の言う通り腹黒で間違いない。
ちぃに助けを求めようとしたが近藤、山南、井上に囲まれ、お祝いを言われている。
ギギギっと、沖田を再度見る藤堂。
殺される…
「ぎゃあああぁぁああっっっ!」
藤堂の叫び声が、屯所に響き渡ったのであった。




