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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
228/281

人形と呼ばれた恐怖



「新選組組長以上を捕獲した者に3両。

首を取れば1両。副長、局長、総長は5両与える。————何だ?これ…。」


五人の男達を捕縛しながら、鬼副長が紙を片手に千夜に問う。


「知らないよ……。いつから新選組は、賞金首になった訳?」


「知らねぇよ!問いを問いで返すんじゃねぇよ!これ見て来たって言うなら…町人って事だよな……。」


「世も末だね。あー。面倒くさい。」

「幹部会議だな。こりゃ……。」


だから、面倒くさいって言ったんだよ。



結局、副長室で、幹部会議が行われた。


紙を皆に見せた土方。


「……何これ……?こんなのが出回ってるの?」


藤堂が、紙を見ながら驚いた様に口を開いた。


「おいおい。洒落にならねぇよ…。」


原田が後に続く。


「捕まったのは、本当に町人なのかよ?」


永倉が土方を見て確認すれば、土方が口を開いた。


「山崎に調べて貰ったが、町人で間違いないとよ。」


「……誰がこんな物を!」


井上が紙を持ち上げながらそう言った。


「…岩倉でしょ……?こんな事するのは奴しか居ない。」


「捕まった人、銃持ってんでしょ?巡察の時に狙われたら、怪我ですみますかねぇ?」


ゴツンッ


「他人事みたいに言ってんじゃねぇよ!

テメェも組長だって、忘れてんじゃねぇよな?総司っ!」


「いやだなぁー。土方さん。わかってますよ。

っていうか、土方さんを酔わせて襲った方が金になりますけどね。」


微かに、土方暗殺を目論む沖田。組長より上である副長のが高い事が気に食わなかったらしい。二両も違う土方を酔わせるのは簡単だ。


「テメェが、襲おうとしてんじゃねぇ!仲間だろうが!」


「…………辛うじて……」



心底嫌そうな顔をする沖田に、ワナワナと怒りが込み上げてくる土方。


「まぁまぁ、よっちゃんも島原で、気をつけて欲しいって事だよ。」


絶対ぇ違う!



これからの巡察は二組で行う事に決まった。


組長ぐらいの強さが二人いれば、何とかなるという土方の考えだ。


「じゃあ、僕、ちぃちゃんと————。」


「テメェらを一緒にする訳ねぇだろうがっ!」


ブスッと機嫌が悪くなる沖田


「何でですかぁ?」


「ちぃは、ともかく、テメェが仕事しなくなるからだよ!少しは察しろっ!」


「えー。じゃあ、ちぃちゃんは誰と組むんですか?」


口を尖らせて、土方にたずねる沖田。しかし、土方は、黙り込んだ。考えてなかったのだ。


「明日までに考えとく。お前じゃない事は確かだっ!」


チェッっと沖田の声が聞こえたが、みんな、その事には、触れなかった。後が怖いからだ。


「ちぃ、ちょっと残れ。」

「別にいいけど?」



なんかしたっけ?

そう思っていたら、皆が部屋から出て行った。


「で、何で、テメェ迄残ってんだ!お前に用はねぇ!」


と、残る様に言われていなかった沖田に土方は、怒りを露わにする。


「嫌です。別に聞かれたらマズイ訳じゃないでしょ?

なんです?

まさか、ちぃちゃんを口説こうとしてたんじゃ無いですよね?」


頭が痛くなってきた土方。


こめかみを押さえて、深いため息を吐いた。

そして、千夜に向き直る土方は、神妙な面持ちで口を開いた。


「ちぃ、伊東と接触したと、何故、報告をしなかった?」


えっ?という顔で沖田は、千夜を見る。


「どうやら、総司にも言って無かったみたいだな。伊東は、お前を誘拐した奴だぞ?

総司も伊東には、酷い目に合わされたんだ。何故、接触した事を黙ってた?」


「伊東は、確かに酷いことをしたのは自覚してる。だけど、偶然会っただけで故意に接触した訳じゃない。」


嘘は言ってない。



小さな寺の事はあまり話したくなかった。

伊東と会った事を話せば、その事を話さねばならなくなる。


だから千夜は、報告しなかったのだ。


沈黙が痛い。

しかし、バレてしまった以上、話さねばならない。


「はぁ。わかった。確かに、11月龍馬が襲われた日に伊東甲子太郎に会った。小さな寺の前で。」


「小さな寺?」


「芹沢鴨と最後に一緒に行ったその小さな寺に、どうしても行きたくなったから一人で行った。そしたら、伊東に会った。それだけだよ。」


「芹沢?」


土方の顔が強張る。


「芹沢さん、最後に何を願ったの?」


土方が話さないので沖田が問う



「私の右目が見えるように……。」


「………」

「………」



もっと、気まずくしてしまったらしい。


少しの沈黙の後


「でも、どうして急に行きたくなったの?」


と、気まずい空気を払拭するかの様に千夜に尋ねた。疑問に思うよね。だって、一年以上経ってるのに、今頃、何で行きたくなったのか。


「ごめん。小さな千夜。あの子の事を考えてたの。そしたら、頭が痛くなって、気を失いそうになった。なんとか、マキビシを手に意識は保ったのに 、小さな千夜が出てきて言った。”私の人形”だと………。」


「え?小さなちぃちゃんは、ちぃちゃんが気絶した間だけ出て来れるんじゃ……?」



「それに、人形って……。ちぃが自分の人形だって事か?」


「そうなるね。」

「他人事じゃねぇだろうが!」


「わかってるよ。だから、小さな寺に行ったの。芹沢が最後に願った場所


私が右目が見えるようになった事実。何かあるんじゃないかって……。」


「なんかあったのか?」


大きな木箱の話しをし、その中にあった着物、書簡、書物の写しを見せた。




「こんなに、術をかけられたって事?しかも、色んな場所で…」


「ちぃ、もしこれが本当なら。————お前は……」



「私は、椿の本体じゃない。って事になるね。

だから私は、彼女にとっては、人形でしかない。そういう事……だよ…。」



何でもない様に言い放つ千夜。だが、目には涙が溜まり今にも流れ落ちてしまいそうな程・・・


本当は、辛いし、自分が何なのかわからない恐怖に怯えてるのは、その涙が物語っている。


「黙ってて、ごめんなさい。」


千夜がそう、口にした。


「ちぃ・・・」

「ちぃちゃん・・・」


何もしてあげられないのが何よりも辛い。

千夜は、でもね、と続ける。


「私は、日本を一つにするから。新選組を幕府を新しい時代に必ず連れて行くから。


私のやる事は変わらない。


いつ死んでしまうかなんて、みんなわからないでしょ?」


目に溜まった涙を沖田から貰った桜色の手拭いで涙を拭う。


沖田に祝言を申し込まれたが、彼を縛り付ける事は……


そこまで思ってやめた。人は、いつ死ぬかわからないと言ったばかり。私は、返事が出来ない。



一緒に居たいと思う。けど、辛い想いはして欲しくない・・・




「なんで、いつもお前は、生意気ばっか言うんだよっ!辛いなら辛いって言えっ!

俺らだけか?お前に消えて欲しくないって思うのは!ちぃ!千夜っ!」


千夜の肩を揺する土方。


「・・・辛いよ。苦しいよ。自分が何なのかわかんないっ!


銃弾が止まって見えた。刀で斬れる程にゆっくり動いた。


でも、それが無かったら、中村も平隊士も危なかった。


怖いよっ!!私だってっ!


だけど、仲間を守る為なら、

————私は、力を使う。


みんなが死んでいくのを、また、見なきゃならないのは、嫌だっっ!」



「ちぃ、仲間が死ぬのを見たいと思う人間なんか居ねぇ。

俺たちは武士だ。明日、命があるかわからねぇ。お前だけが特別じゃねぇ。

だけど、・・・死ぬな。絶対に。」


ふいっと文机に向かってしまった土方


話はそれだけだと、こちらを見ずに言われた。


パタンっと、襖の音がして二人が出て行ったのがわかる。


「ちぃを連れてかないでくれ・・・芹沢さん。」


死者に縋るしか出来ない。


土方の声は、虚しく響き、誰にも聞かれる事は無かった。

















































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