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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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狙う者と狙われる者

伊東の側から千夜が去っていく。その背を見送りながら、斎藤は、さっきの二人の会話が気になり伊東に話しかけた。


「伊東さん、千夜はなんと?」


ククッ


「言わないよ。本当、あの子は面白い。

150年後……日本はどう変わるのか……。

————見てみたいな…」


千夜が見えなくなるまで、伊東は、彼女の背中を見つめていた。


「…………」


なんと言ったか教えてもくれない伊東が発したのは、未来を見たいと言った事だけ。

見られるはずがないのに————。彼は、そう言った。


「伊東さん、どうします?沖田と近藤を襲撃するって————。」


キッと、声を発した男を睨む伊東。


「声が大きいです!中止に決まってるでしょ?

新選組に、知られてしまいましたからね。」


近藤の暗殺を企てた伊東。それで、千夜が手に入るなら、沖田も近藤も、最早、必要ない。新選組で一番怖いのは土方だと思っていたが、どうやら、そうではないみたいだ。


「あの女が一番恐ろしいよ……」


そう言って笑った伊東。悔しさなんか微塵も感じない。寧ろ、嬉しそうな伊東の表情に、伊東派の人間は顔を見合わせた。



千夜は、屯所に帰り、持ち帰った書簡と書物に目を通す。ツラツラと書き連ねてあるのは、陰陽道やらでかけられた術師の名前らしい 。


書物にさっき持ち帰った札の絵と紙人形の絵が書かれてるのを見て、そのまま読み進めていく千夜は、声を漏らした。



「なるほどね……。だから私は、人形って事か。」


感情や想いを共有しない小さな千夜。悪いけど、邪魔はさせない。例え、それが、自分自身であっても————。


————この術は解ける。


手に入れた、札と紙人形があれば……。



歴史は変える。だけど、小さな千夜の思い通りにはさせやしない。絶対に————。


「操られる人形なんかに、なってたまるか。」


芹沢の魂が、きっと私を守ってくれる。


だから、何も怖くない。そっと己の懐に、札と紙人形を大事そうにしまった。


千夜は、手に入れた書物と書簡を人目に触れない場所に隠した。


————記憶が無くなってしまえばいいのに……。


そう思っても、記憶なんて簡単には無くなってくれない。



辛い、苦しい。そう思えば、誰でも一度は思う事。千夜もたった今、そう思った。


知らなければよかった。その方が楽————。



だけど、何も知らず生き続けるより、辛さを苦しみを抱えた人程、————人間らしい。



何を知っても、私のやる事は変わらない。



「……明治まで……生きられるかな?」


キュッと胸元を押さえた。


幸せを知ってしまった。大事な仲間が増えた

人を愛する事を知った……。


諦めたら、そこでお終いだ。最後まで足掻き続ける。


不意に開かれた襖。そして、部屋に入ってきた人物が千夜に声をかけた。


「ちぃちゃん。」


彼の声に笑顔を向ける。


私は、彼から離れられない。地獄に堕ちても

彼と共に、足掻き続ける。


二人なら怖くないと言ってくれた。

————まだ、私は、頑張らなきゃいけない。



歴史をぶち壊し、平和な世の中で、……生きたい。総ちゃんと……新選組のみんなと、


血判をくれた人達と、私に力を貸してくれた

人達も一緒に————



3日後、坂本龍馬を撃ったのは、岩倉具視と確定した。


千夜が採取した指紋が、岩倉具視のものと一致したのだ。


御所に残っていた岩倉の所持品から、千夜は指紋を採取していたのが役に立った。


捕縛した千夜を撃った奴も岩倉の取り巻きと口を割ったため、これにより、岩倉は、幕府、朝廷の敵として扱われていく事になる。


しかしながら、朝廷、幕府の中に岩倉派の人間もいるのは事実。なんの確証もなく、岩倉派だと決め付けることができない。


そして、奉行所、所司代が西本願寺に向かったが、そこはもぬけの殻で、岩倉具視は、何処かに逃げてしまった後だった————。



年が明け、一月六日の事。


中村は、門番に当たった為に、門の前で見張りをしていた。しかし、ずっと門の上を気にしていた。


ユラユラと視界に入ってくる影に、ついに中村は、口を開いた。


「————千夜さんっ!何で、短い着物で門の上に座ってるんですか! 」


気が散って仕方ない。

注意する中村にヒョコっと、顔を覗かせる千夜は、全く気にしてない様子で中村を見る。


「今日、非番な上に、御所も二条城も仕事はないんだよね~」


ようは、暇な訳だ……。


「…………」

「…………」


もう一人の門番も呆れ顏で千夜を見る。


門番も死番と同様に命の危険があるのだ。普段は、立ってるだけだが、屯所を襲撃されれば、一番初めに斬られるのが門番である。


なのに、その上で足をブラブラ遊ばれたらたまったもんじゃない。



「千夜さん、暇ならどっか他所で————。」


中村が話してる途中で


パンパンッと響いた音。それはまさしく、銃声であった。


「中村っ!!平隊士連れて中に入って!」


門の柱に銃弾がめり込んでいた。狙いは、屯所で間違いない。


「千夜さんもっ!」


パンッパンッ


フワッと、地に飛び降りた桜色の髪は、迷う事なく、門番たちの前に立ちはだかった。そして、おもむろに刀を抜き、そのまま刀を振るう。


キィンッ


中村は平隊士の腕を掴んだまま、ただ、目を見開いた。


「…銃弾を……斬った?」


落ちた弾頭を信じられないまま、見つめていた。


「中村、さっさと門を閉じて!屯所は、襲わせない!」

「は、はいっ!」


あまりの出来事に、言う事を聞くしかない中村は、門を閉め、報告に走った。



門が閉まれば、ワラワラと出てきた男達へと千夜の鋭くなった視線が向けられる。


「屯所に、何か用事ですか?」


この場で平然と言う千夜に男達は顔を見合わせる。


「用事と言ったら用事だわな……。」


ニタニタ笑う男達。千夜が右手に刀を持っていても動じる様子はない。数は、5人程だ。

見たこと無い男達に、おそらくは、雇われたんだろうな……。と、結論づけた。


「用事。ねぇ…。その割に、随分物騒な物をお持ちで————。」


銃を見ながらそう言った千夜


「うるせぇっ!テメェみたいな女に用事はねぇ

新選組の組長を出せ!」


……組長を出せって。誰でも良いということ?

ってか、バカなの?組長は、8人居るんだけども……?


「誰でも良いなら……。私も、組長ですが?」


ニヤリ笑った千夜。男達は、少し驚いたがすぐに刀や銃を構えた。


先に地を蹴ったのは千夜であった。何しに、屯所に来たのかわからない連中だが、屯所に銃を向けたのは事実。


ドスッドンッドカッと、千夜が一人づつ沈めていく————。



男達は倒れ、意識の無くなった四人を確かめる千夜だが、


……一人居ない……


それに気づくのが少しばかり遅くなった。背後から銃声がしたのは、その後であった。


キィンッ


「ヒィッ!銃弾を斬ったっ!」


刀を男に向けた千夜。


「————目的は?」


腰を抜かしてしまった男が懐から紙を取り出した。


「コレ、これ見てっ!」


紙を受け取って、男の鳩尾を殴って気絶させた。ズルッと地に体をつけた男をそのままに、受け取った紙を見る千夜。



「……何これ…?まるで賞金首だね。これじゃ。」


その紙を見て、千夜は、脱力した。












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