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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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千夜の起点と襲撃阻止

会合が終わり


屯所に帰宅した千夜は、畳の上に寝転んだ。

疲れた訳ではない


小さな千夜の存在が、どうにも頭から離れてはくれなかった。力を持ったもう一人の自分。


小さな千夜は、私を殺す為に、歴史を変える。

でも、歴史を変えようと、千夜の中にある魂は一向になくならない。むしろ、この世界に来てから増え続けている。何か、他に理由があるのか?


「………わかんない。」


ゴロンと寝返りをうつ千夜。


……私には、誰も居なかった……


彼女は、確かにそう言った。


…………ケイキ、ケイちゃん、ヒロ君、烝

彼女には、大事な人は居たはずなのに————。


何故、誰も居ない?どうして?


そう思った瞬間、頭が割れてしまうのではないか?と思うほどの頭痛が千夜を襲う。


頭を抱え、痛みに耐える千夜。


……何故?


あの時、モノクロ世界で感じた頭の痛みと、まるで同じであった。


…私は……何を……拒絶している?


考えようとすればする程、痛みが増すだけで、自然と涙が流れ落ちた。


「……くっ……う……」


痛い……いたい……イタイ……



千夜は、痛みに負け意識が遠のいていった。



(思い出さなくてもいいんだよ。……貴女は……


まだ、死なれたら困る。大事な私のお人形)



口角を上げた少女は、そんな言葉を残し、フワッと消えた。


そして、倒れた筈の桜色の髪が、ゆっくりと動きだす。


ぎゅっと、握りしめたマキビシを手から落とす。赤くなったソレは、畳の上を転がった。


「………人形…ねぇ。」


ズキズキ痛む頭。コメカミを押さえ、千夜は、立ち上がった。


————全て可笑しいと思った。


こちらの世界に来て、


試衛館のみんなの記憶を消した小さな千夜

芹沢鴨が松本良順が千夜を知っていた事実。


そして、会津藩の不自然な襲撃事件


きゅっと、唇を噛み締める。



桜色の手拭いを手に巻きつけ、千夜は、外に出た。


右目が見えるようになった時、芹沢と一緒に行ったボロボロの小さな寺を思い出したのだ。


きっと、そこに何かあると感じ、誰にも気付かれない様に屋根をつたい、屯所を抜け出した。


オンボロの寺に着けば、鳥居をくぐり、賽銭箱にも目もくれず、建物に足を踏み入れた。


人一人いない、静かなその場所。

埃まみれのその場所に不自然に置かれた木箱に、吸い寄せられる様に近づいた。

その木箱は、千夜の腰ぐらいの高さはあった。

大きな木箱をそっと開ける。


中には、小さな子が身に纏う着物が入っていた。


「………これ……私の…?」


見覚えがあるその着物には、葵の御紋が刻まれていた。何故、水戸で行方不明になったのに

京のこのボロボロの寺に、自分の着物があるのか?


中身を広げていくと、他にも書物や、書簡。小さな木箱が入っていた。小さな木箱が気になり、それをぱかっと開けると、


「……お札?……紙人形?」


お札と、紙人形が入っていた。


とりあえず、何かわからないから、袖口に入れ、書簡と書物を懐に忍ばせた。


着物をどうしようか迷ったが、持って帰ることにした。


空になった木箱には、たいして物は入ってなかった。大きな木箱のわりに……。


「人、入れるよね?これ……。」


木箱に蓋をしながらそう言った千夜。その大きな木箱は、千夜の体もすっぽりと収まりそうな物。

木箱も気になったが、こんな大きな物は持ち帰る事など出来ない。とりあえず、抜け出した屯所に引き返さなければと、外に出た。


鳥居を潜った所で、千夜の足が止まった。


「……伊東……」


「おやおや。こんな、人が寄り付かない場所で

————襲われたいんですか?」


ザッザッっと、伊東の後ろには、取巻きの人間。千夜は、一人……。

手には、着物を風呂敷包みに包み手にしている。書簡も書物も落とすわけにはいかない。


つまり、戦うのは、避けたい訳だ。


「……。あいにく、貴方に構ってる暇は無いんですよ。」


千夜は、視線だけで逃げ道を探す。だが、伊東の言う通り人が寄り付かない場所。道など沢山ある訳ではなく一本道で、周りは木々があるだけ……。


「久しぶりに会っても、その態度は変わらないんですか?死にそうになったと聞いたんで、心配していたのに。………ねぇ、斎藤……。」


ザッザッっと小石を鳴らし、現れた、はじめの姿。


「久しいな。————千夜。」


「えぇ。久しぶり………。所で、どちらへお出かけで?」


斎藤から視線を逸らし、伊東を見ながら

呑気な事を聞く千夜。


「……。言うわけないでしょ?バカなんですか?」


小首を傾げる彼女


「そうですか?私は、この寺に用事がありましてね。……芹沢局長と……。最後に来た場所なんですよ。此処は————。」


懐かしそうに、そう言った千夜。


「……そうですか。

珍しいですね。貴女が、自分の事を話すなんて……。」


「そうですか?彼は、死ななきゃいけなかったんでしょうか?どう思います?」


「………何なんですか?今日は、可笑しいですよ?」


凄く、疑った様子の伊東。しかし、千夜は普通に話しているだけだ。他意はない。


「そうですか?

ねぇ。伊東さん。同志に異国語を習わせているんですよね?

あなたは、

————開国を願ってますよね?武明さん?」


自分の諱を呼ばれ怯む伊東。


「……何故、諱を知って…?」


「簡単です。私は、化け物なんですよ。

150年以上生きた……。ね。


クスッ


だから、未来を知ってるし、貴方方が何をするか知っている。————これから、何処へ行こうとしてるのかもね。」


ニヤリ笑った千夜。

そんな事を知ってるわけない。なぜなら、歴史は、大きく変わっていたから……。


「何なんですか?今日は! 調子が狂いますっ!」


……そんな事を言われても困る。だが、彼は、化け物に反応しなかった。


「公家中心の新政府を作り、一和同心を目標に広く天下から人材を求め、畿内5ヶ国を新政府の直轄領とする。国民皆兵を提唱したいと考えている。神戸開港大開国、大強国を唱え、積極的開国による富国強兵策に近い考え方を示している……」


目を見開いた伊東。

今、自分の頭の中にある事を口にされたのだ。驚くのは当たり前。


「………。本当に、先を知っていると言うんですか?」


認めざるを得なかった。誰にも話してない伊東の考えを千夜は知っているのだから————。


「そうですよ?私、貴方は嫌いですけど、この考え方は凄いと思います。」


サラッと、嫌いと言われた伊東が顔を歪め、すぐに戻した。


「どうして、岩倉なんかに付いてるんです?勿体無い。」

「貴方に関係ないでしょ?」

「————殺されますよ?貴方。」


真顔で言われる物騒な言葉に、伊東も顔をヒクつかせた。


「伊東さん、そんなに死にたいんですか?」

「死にたい訳ないでしょ?バカなんですか?貴方は!」


「…だったら……」


グイッと、伊東の肩を自分の方に引き寄せる千夜。二人の距離は一気に近づき、伊東ですら驚きの声を上げた。


斎藤の位置から、千夜の口は動いているのはわかったが何を話しているかわからない。


「…………はぁ? !」


声を出したのは伊東であった。


「……うるさっ。」


耳元で大きな声を出されて、耳を摩る千夜。


「何考えてるんですか?貴方は!私は敵でしょ?」


「あらあら。伊東さん。覚えておいて下さい。


私には敵は、………居ないんですよ。


私が刀を振るうのは、仲間を守る為です。

まぁ。許せない奴も斬りますがね。

では、私は帰りますが、この先に行くのは、オススメしません。————命が欲しければ。ですがね。」


この先は竹田街道へと繋がっている。

京(京都市中心部)と伏見(京都市伏見区)を

つなぐ街道の一つ。


竹田街道は、近藤勇が肩を撃たれた場所だ。


近藤は、二条城にも用事があると言っていた。

この道は利用するかもわからないが、時間的には今ぐらい。太陽が真上に上がる少し前、近藤は、撃たれた。それが過去の事であっても、もしかしたら、近藤を暗殺しに来たのかもしれない。


銃は、持ってない伊東達。

用心に越したことはないと発言しただけ。


大体、なんで此処にいるか知らない。



「……本当に知ってるんですね。」


なんだか納得した伊東には悪いけど、全くもってわからない。


「まぁ、そうなります。

先ほどの件、考えといてくださいね。では…。」


そう言って千夜は、屯所へと歩き出した。















































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