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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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間違いだらけの世の中を変える時

「それ、いつまでに調べるん?」


不意に聞こえた山崎の声に、千夜は、反射的に答えた。


「二、三日後まで。」


そして、歩み寄って来た山崎に、薬莢を取り上げられる。


「俺が、やっとく。」

「でも、非番なんじゃないの?」


「コレは、俺のが早いからな。」


勝ち誇った様な顔をする山崎。別に競ったりしないのに。ありがたいが……。



「……。じゃあ、お願い。」


「おう。因みにこの中に犯人は?」


「居ないだろうね、いるとしたら……。」


ジッと部屋の奥を見た千夜に、山崎の眉は、ピクリと動いた。


「ああ、あっちも見とくわ。」


コクンと頷いた千夜。


終始二人の会話を聞いていた土方と沖田は、全く内容が理解できないで居た。


そして、山崎だけ残し、副長室へと帰った。


「今日は、二条城にいくから。」


「あぁ。今日はお偉方が集まるんだろ?

護衛を任されたが、屯所も開けられねぇ。

————だから、今日なのか?龍馬を狙ったのは?」


元々、今日は、二条城に行く予定だった。その早朝に、計ったかの様に龍馬は、狙われた。土方は、ソレを阻止したくての実行なのか?と、千夜に聞いたのだ。


「わからない。お偉方って言っても大人数じゃないよ?とりあえず、まだ正式に町人と藩に公表してないからね。

————開国になったって。これからだよ。」


だから、幕府派の藩と話し合いを持つ事に決まったのだ。


朝廷では、朝廷派の藩と。


一度、話し合いを設けたらしいが、大混乱だったみたいだ。


そりゃそうだよね。今迄、幕府は幕府。朝廷は朝廷で別々のモノだったんだから。


今から気が重いのは確かだ。


「ちぃちゃん大丈夫?顔色悪いよ?ごはんココでたべよ?」


「……その方がいいかもな。」



わざわざ、朝餉を副長室に運び入れてもらって食べた。


そして、日が高く上がる前、二条城に入った。


お偉方。藩の藩主や旗本などが集まったが、その数は、10人程だ。それに各藩の家臣がつけば、数は倍となる。


ひそひそと、話す声が聞こえる。


————何故、徳川椿が居るのか?

————あれは、本物なのか?


ひそひそと話す事は、千夜に関することばかりだ。


会津藩に行って

芹沢鴨を釈放する時に思ったが、何故、徳川椿の名が広まっているのか?


今頃、疑問に思った。


丁度その時、家茂が部屋に入ってきて、皆が一斉に頭を下げる。

さっきとは違い、静まりかえった部屋には、緊張感までもが立ち込めた。


上座に腰を下ろし、家茂が周りを見た後、口を開く。


「幕府は、朝廷と手を組み、攘夷では無く

————開国を宣言する。」



ザワッとなる室内。

当たり前だ。朝廷を嫌う者達だっている。それに、佐幕派が多いだろう。


それなのに、朝廷と手を組むと言うのだから

嫌に決まっている。反発する藩も少なからず出てくる。


「家茂公、気は確かですか?開国して日本を異国の植民地にしたいのですか?」


「異国は、貿易をしたいだけだ。植民地にはならない。椿、こちらに…」


そして、私に向けられた視線は、鋭いものばかりだった。


「家茂公!何故、オナゴが此処にっ!」


家茂の近くに腰を下ろした千夜は、気にする様子は無い。


「黙れっ!椿は、下関戦争で戦い、異国と交渉をしたのだっ!植民地も殺戮も、異国の目的では無い!」


「……しかし。」


声を荒げてくれる、いえもち君。だが、藩の人達がすぐに納得してくれる訳はない。


200年以上続いた徳川幕府。その中を変えてしまうと言うのは、己の生活すら変えてしまうかも知れないと思うのは当たり前の事。


千夜の横にケイキも居てくれるが、千夜に突き刺さる視線は、とても、冷たく、ヤイバの様であった。しかし、それに屈する事なく、彼女は口を開いた。


「…………。怖いですか?自分達の立場がどうなるかわからない。朝廷と手を組むという事は、恐ろしい事ですか?」


千夜は、怯む様子もなく、お偉方に向かって言葉を放つ。


「怖くなど……」


無いとは言えないお偉方達。


「世を変えなければ、幕府は没落します。」



目を見開くお偉方


「————っ!何を言うかっ!」


「幕府は、衰退しています。

徳川家康の様な時代は、

————もはや、幕府には訪れないっ!


貴方方は分かってるはずです。

政は、己の生活だけを保証するだけのモノでは無いっ!町人にも過ごしやすい世を作らねば、暴徒化します。


自分の目で見て耳で聞き、頭で考え答えを出す。間違ったことを間違ったまま、何にも逆らわず生きるのですか?貴方方の子孫は、そんな世で、————幸せでしょうか?」


クッと、言葉が出てこないお偉方達。


幕府が弱ってる事など、わかっているのだ。

そして、子の話しを出されたら、先なんて見えないご時世なのは藩主達もわかっている。


「私は、確かに水戸徳川家の血筋です。

ですが、私は、尊王です。」


徳川家の人間が尊王だと言う目を見開くお偉方達。


「貴方方の中にも尊王の方も居るはずです。

………隠しているとは思いますが。


思想だけで殺しあうのは、終わりにしませんか?誰を支持しようといいじゃないですか?


より良い世を、私達で創り上げたいんです。


徳川家康が創った世は、もう古い。


200年もたったんです!考えだって違う。


異国を受け入れ、良いものだけを取り入れ、日本の良き文化は残していきませんか?


異国は、連合国の同盟も考えてくれています」


「………今でなくとも。」


「今やらず、いつやるのですか?


三年しか猶予がありません。

今、機会を失ったら、大きな戦になるかもしれません。もう、誰も死んで欲しくないんです。

直ぐにとは言いません。

どうか……力を貸して頂きたい……。

お願い致します。」


頭を下げた千夜に突き刺さる視線は、もう無かった……。



「何故、徳川家の人間が下関戦争に……?」


そんな声が聞こえた。


「攘夷の無意味を————知らせる為に。」



「負けるとわかっていて、行ったのか?

……戦地に……」


「………そうなります。」



「何故っ!一橋公も行ったと!何故ですか?長州は敵では————。」


「同じ日本人でしょ?同じ日本の中で起きた戦です!敵地だから関係ない訳無いっ!

何も見ず、異国を知らず、攘夷は正しいと言うのは可笑しい!


下関に行った者たちは、異国の脅威を知りました。攘夷の無意味を知りました。

開国したら日本は、全て変わってしまう訳じゃないっ!!


当たり前の様に、——日は、上ります。

幕府が滅べば、貴方方の生活すら危うくなるのはわかるでしょ?


異国は貿易をしたいだけです。


植民地にしたいなら、三年の猶予なんかくれません。話なんか聞いてくれなかった筈です。


殺戮が目当てなら、私も殺されてた筈……。

けど、彼らはしなかった!

開国の為に力を貸してくれると言ってくれました。今、変えるべきなんです。————間違いだらけの世の中を……。」



真剣な千夜の顔。

その後は、植民地という言葉は誰も言わなかった。


これからどうするのか……?


そんな話しをしてその日のお偉方を集めた会合は、終わりを告げたのだった。



































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