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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
224/281

龍馬暗殺未遂事件

次の日から千夜は復帰した。


新選組も慌ただしくなる。なにせ、千夜の護衛、近藤の護衛。斎藤の間者としての見守りもあるからだ。しかも、今迄通り、通常の隊務は無くなった訳ではない。


無くなったモノはあった。

新選組からの脱走者だ。千夜が泣きながら隊士を斬っていく姿に、心を打たれ、彼女や幹部隊士について行こうと、心を決めた隊士が続出したのだ。


何事も無く、日が過ぎていった————。

不自然な程、平和で、穏やかな時が、1日また1日と過ぎていく。


まるで、嵐の前の静けさかの様に————。


そして、11月15日。事件は起こる。


9月から平和だったからか、皆、気が抜けて居たのかもしれない。


まだ、日が登りかけた早朝の事。

バンッという、けたたましい音が御所に響いた。

まだ、辺りは薄暗い中、男は冷たい地面に倒れ、辺りは、再び静けさが戻る。


そして、しばらくして、音を聞きつけ人が集まってきた。音の正体は、銃声だ。そして、撃たれたのは、坂本龍馬であった。


その知らせは。すぐに新選組屯所へと伝わった。


千夜は、寝起きのまま、襦袢の上に浅葱色の羽織を着て、すぐさま御所に馬を走らせた。後を追った土方と沖田だったが、屯所を出た時には、千夜の姿は、見えなくなっていた。



御所に着き、馬を乗り捨てた千夜は、門の近くにいた男に歩み寄る。


「龍馬はっ?」


声を荒げた千夜。


家茂暗殺未遂があって、天皇も危うい立場となってしまった。坂本と中岡は、二条城に勤務し

御所で生活していた。


「千夜、 その格好でここ迄来たかえ?

龍馬なら無事やき、ほたえな。

(龍馬なら無事だから、騒ぐな。)」


「へ?」

後ろから、沖田と土方が馬に乗ってやって来る。そして、沖田が着替えを手渡しながら、自分の羽織を彼女の肩に掛けた。


「ちぃちゃんっ!着替えてっ!」

「そのまま出てく奴があるか!冬だぞっ!」


怒られたけど、今の千夜は、他の男で頭が一杯だ。


「龍馬は?」


自分の事は、本当に、二の次。


はぁ


「こっちだ。」

中岡にため息をつかれ、部屋に入る。


「大騒ぎくじゅうてしもうたな。無事だ無事。

(大騒ぎになってしまったな。無事だ無事。)」



布団に寝転んだ龍馬の姿に、力が抜けて畳に座り込む千夜。


「……撃たれたって……。」


「弾、当たったがな、おんしがくれた

コレのおかげで助かったわ。」


サッと取り出した懐中時計。

昨日、龍馬の誕生日に気がつき、千夜が首から下げてあげた、誕生日プレゼントが龍馬の首にぶら下がっていた。


長州藩にいた時に、何個か後払いで購入した物だ。それに、弾がめり込んでいた。



「……すまん……。使えんくなってしもうた。」


「よかった……。生きててくれた方が嬉しいっ。」


そのままの格好で、龍馬に抱きつく千夜。

龍馬も流石に顔を赤くする。


寝起きのまま襦袢の上に羽織を羽織っただけの千夜。沖田の羽織は、地に落ちる。


「………総司、今は耐えろ……」


プルプルと震える沖田を宥める土方。


「……………」


沖田は、しばし、耐えた。


「……………。はい、もういいですよね?着替えて下さい。晒し巻いてない状態で男に抱きつかないっ!」


……そこ?


龍馬は、千夜の懐中時計のおかげで、心臓を撃ち抜かれずにすんだ。懐中時計が厚めだったからか途中で弾が止まってくれたのだ。


懐中時計を手に、それを見つめたまま動かない千夜。


龍馬の首にかけた時、高さは、丁度、心臓ぐらいだった。

つまり犯人は、心臓を狙ったって事だ。しかも、犯人は、銃の腕も確かって事になる。


「龍馬、犯人は見た?」

「………嫌、見とらん。」


暗い中、心臓を狙える。龍馬に気配を感じさせない。

少し離れた場所から、撃たれた可能性が高い。


真面目な顔をしていた千夜だが、龍馬と目が合うと、ニコッと笑う。


「今日は、ゆっくり休んで。中岡も、護衛よろしくね。」


「あ、あぁ…」


自分の命を狙われたんだ。龍馬だって怖いはず。しかし、千夜は、気になっていた。龍馬の態度だ。周りの家臣らを見る彼の顔は、怯えた様な感じでは無い。しかし、犯人を見たか?そう聞いた時、明らかに怯えた表情を見せたのだ。


千夜は、家臣に一声かけ、別の部屋で着替えを済ました。


懐中時計に食い込んだ弾

そして、以前、千夜が撃たれた時、足から取り出した弾を羽織の袖から取り出す。


————同じだ。


二つの銃弾は、全く同じ形。

だから犯人が同じって訳じゃない。こんなの、どこにだってある弾だ。特徴なんてない。


いえもち君、龍馬が狙われた。

将軍を狙ったのは、岩倉で間違いない。


龍馬も多分そうだろう。しかし、確証が無い。


————確証?


弾頭は同じ、ゲーベル銃————。


ゲーベル銃?


戦に備え、新しいミニエー銃に、幕府、朝廷も切り替えた。


薩摩、長州も、新選組もミニエー銃を導入した。


まぁ、何処にでもあるのには、変わらないか。


バタバタと早朝にも関わらず御所で龍馬が撃たれた場所を行ったり来たりする千夜。何かを探してる様だ。


「…見つけた。」


手拭いに巻き、拾い上げた薬莢。


「————撃った後の弾?」


と、沖田が覗き込む。


「何するの?」


「へ?指紋を取るんだよ?」

…………


「しもんって……何?」


「指の先にある模様だよ?人それぞれ違うんだよね。コレ。」


「………それをとってどうするの?」


「これだけで、誰が撃ったかわかるの。銃弾を手拭いに巻いて入れるバカはいないでしょ?」


頷く、土方と沖田。


「ここに、薬莢が飛んでる。これ、まだ微かに暖かい。こんな早朝に銃の訓練なんてしないでしょ?つまりは、コレは龍馬を撃った時に落ちたモノって事になる。」


「でも、手の模様ってそんなモノわからねぇだろ?誰のか……」



「ふふーん。わかるんだな。

まぁ、2、3日。私が持ってる中に犯人が居たらの話しだけどね~。」


「……持ってるって……何を?」




そして、薬莢を手に、屯所に帰った3人。


「烝っ!部屋入るよ?」

「………う……」


スパーンッと開け放つ襖。その部屋は、観察方山崎烝の部屋である。


寝起きの山崎が目を丸くして、ため息を吐いた。


「……俺、今日非番やのに……」


「寝ててもいいけど、部屋借りるよ。」


「————寝れんやろがっ!」


「龍馬が撃たれたの。あの本持ってきて。」


寝てていいと言ったくせに、人使いの荒い千夜。


「……………企業秘密やのに…」

「何の企業なわけ?」

「観察方の企業秘密やねんてっ!」


あー左様か。

山崎が渋々持ってきた少し大きめの本。



「指紋って何にでも残る訳よ。」


ペラっと本を開く。

何人もの指紋が本いっぱいに現れる。

「何これ?全部人の指の模様?」


興味深々の沖田。


「まぁ、観察方で役に立つだろうって作ったんだけどね。意外に役に立ってるから、烝が、企業秘密って言うんだよね。」


「でも、こんなに沢山……。」


100以上の指紋は軽く超えるだろうソレにただただ驚いた。


「ここ迄行くと趣味だよね。隊士の指紋は全部あるよ。入隊時に各指の指紋を貰ってるからね。」


「知らなかった……。」

「後、他にもあるけどね。」


血判結んだ人のとかね。


薬莢に紙を巻きつけスッと指を滑らせる千夜。

ペラッと紙を剥がすと、指紋がシッカリと墨で写されている。


「………それ……。ちぃの力か?」

「へ?あぁ、そうだよ。」


人の前で使うのは、気味悪がられるよね。



薬莢に着いた指紋に墨を覆わせ、紙に移動させたんだけどね。





































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