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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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約束と鬼の涙

二人が思い返して居たのは、出会った頃の記憶だ。ずっと、見守ってくれた山崎。


例え、それが仕事であっても、千夜を幕府に無理矢理返さなかった。見つかれば、自らが危険に晒される。下手をすれば、山崎が誘拐犯となったかもしれない。しかし、山崎は、全て分かっていながら、彼女を守り続けてくれたのだ。


「烝、ありがとう。」


千夜から突然、礼を言われ、目を丸くする山崎。そして、彼は、顔を赤に染めて、惚けた声をあげた。


「な、なんや?急に……熱出たんか?」


熱など出て無いのに、 千夜の額に手を当てる山崎。お礼を言っただけなのに。


「熱無いから。————ずっと、言いたかったから、今、言っただけ。明日、気をつけてね。烝。」


お礼の理由なんか、教えない。だって、今更、照れ臭いし。


「……おう。任しときぃ。」


彼は、少し頬を染め、ニカッと笑った。




一方その頃、副長室にて。


「なんなんですか?

土方さん。もう、報告も終わったし、帰っても良いですよね?」


報告して部屋を出ようとしたら、呼び止められた沖田は、不機嫌丸出しで土方を見る。


「ダメだから、呼び止めたんだ!座れ!」


仕方なく、土方の前に座る沖田。しかも、珍しく真剣な面持ちの彼に、口を尖らせた。


「本当、何なんですか?」


「お前、あの時……。ちぃが、死にそうになった時、刀に手をかけたよな?————それは、何故だ?」


いつもみたいに、ヘラっと笑って、見間違いだと言えばいいのに、言葉が出て来ない。


真剣な眼差しの土方を見たら嘘をつく事ができず、ただ視線を逸らし口を開いた。


「————約束したんですよ。」

「約束?」

「ちぃちゃんを一人にしないと………。

僕は、あの時、

————死のうとしてました。」


そう言って、土方に視線を向けようとした時だった。

バシッと部屋の中に響いた音。


沖田は、鈍い音と頬に感じる痛みにただ、目を見開いた。


そして、目の前に、涙を流す男の姿。


「……土方…さん…」


殴られたのは、理解できた。何故、土方が泣くのか、理解できず、なんて声をかけたらいいか?そんな事が頭の中を埋め尽くす。


「————ふざけんじゃねぇっっ!

ちぃを失って、お前迄、失わなきゃならねぇのかよ!……俺はっ……」


「……まだ死んでませんけど?」

「んな事たぁ、わかってんだよっ!————あんな思いはもうゴメンだ……。」


僕の前には、鬼副長では無く、


ただの、土方歳三の姿があった。大粒の涙を流す彼を誰が鬼と呼ぶだろか?

芹沢鴨を撃つと決めた時、彼を初めて鬼だと思った。少なくとも土方は、沖田よりも芹沢鴨を尊敬し、憧れすらしていた。その男を手にかけると言った土方の顔は、今でも、忘れはしない。アレは、紛れも無い、本物の鬼であった。


その、鬼が、涙を流す………。彼を変えたのは、千夜だ。それが分かっている沖田は、彼女の為に、頭の中で出来上がった言葉を土方に投げかけた。


「その思いを、ちぃちゃんは、ずっと、持っていたんです。

貴方が辛いと思った事を、何度も見て来たんです。

……僕は、確かに彼女と約束しました。


でも、土方さん。僕が死んだら……

————ちぃちゃんを殺さないで下さい。

貴方が、土方歳三が、また、千夜を救って下さい。————お願いします。」


「……何を…言ってんだ……?」



「ちぃちゃんは、この国に、居なければならない人間です。もし、僕が新たな世を見る前に死————」


「死なせねぇっ!何が、この国の為だっ!ふざけんなっ!

千夜は、隊士が居なければ、組じゃねぇ。

隊士、一人一人大事だと言った!


国も同じだ!人が居なければ、国じゃねぇ!

お前も、ちぃも、死んだらいけねぇんだよ!」


「……無茶苦茶言いますね。」


少し呆れた表情を見せた沖田。だが、嬉しかったのも確かであった。


「無茶苦茶でも、貫きゃ、誠になるんだろうが……。」


そう言った土方に、沖田は、ため息を漏らした。


「僕は、必要ないと思いましたよ。近藤さんが養子を迎えた時に————。


わかってますよ。周平を養子にしたのは身分、金だって事ぐらい。でも、一言。言って欲しかったですよ。……本当は……」


寂しそうに、そう言った沖田。土方は、頭をボリボリと掻いた。


養子にした谷昌武を近藤周平と名乗らせた近藤。沖田からすれば、それは羨ましく、妬ましかった。


そして、その兄までもが七番組組長、槍術師範を務める。手厚い待遇に、嫌気を覚えていたのは本心だ。武士階級の出身者で、新選組にとっては貴重な存在————。


だけど沖田は、近藤が養子を迎えた事は、複雑な心境だった。

近藤の為に、頑張ってきた筈なのに、認められてないといやでも思ってしまったのだ。


そして、土方に、その不満を口走ってしまったのが現状だ。


「必要ねぇ訳ねぇだろうが。近藤さんの考えはわからねぇがな、武士への憧れだろうよ。

んなことで、悩むんじゃねぇ。なんなら、俺の養子に————。」


「丁重にお断り致します。」


頭を下げた沖田。土方は笑って、目の前に下がった頭を乱暴に撫でた。


出会った頃は、もっと小さかった宗次郎を思い出したのだ。


「…ちょっ、土方さん、髪、ぐしゃぐしゃになりますって!」

「俺の好意を踏みにじった罰だよ!」

「どんな、罰ですかっ!


嫌に決まってるでしょ?女ったらしの養子なんて。ヤダですよ~。」


沖田も笑っていた


「………そこなのかよ。」


案の定、沖田の髪はボサボサとなり、結い直さねばならなくなってしまった。


「……総司、いいか?死ぬんじゃねぇ。」



はぁ


「死を覚悟して戦うのが武士でしょ?」

「嫌なもんは、嫌なんだよ!」


無茶苦茶にも程がある。

沖田も、もう、二度と味わいたくない想い。土方がそう言うのもわかる。


「————明日から、ちぃちゃん復帰ですよね……。」


「あぁ。また、忙しくなるぞ。

なんたって、お転婆ヒメだからなっ!」


「貴方が育てたんでしょうが…」


ジトッと土方を見た沖田。


そして、その後、二人で笑い合う。お転婆姫を思い出して————。


死にたく無くても、人はいつか死ぬ。

それは、千夜とて同じ。誰も死んでほしくないし、死にたくない。


だけど、戦わなければ、新たな世は来ない。


思想という壁は、今まさに崩れる寸前まで来ていた。


そして、沖田は、思う。

生きていく中で、戦う相手は、自分の想いなのかもしれない。と。


より多くの命を新たな世に連れて行こう。それが彼女の望みなら、共に生きたい————。


それは、他ならぬ自分達の願いだ。




























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