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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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山崎の過去

「ここからは、聞こえんのか?いつも使ってる、紙みたいに……。」


御守りをクルクルと回してみる山崎。それは、携帯の様に使える紙とは違う。


「これは、こっち側からしか聞こえない。

西本願寺近くまで行かなきゃ、ただの御守り。


後、これでしか聞こえないから、無くさないでよ?」


「わかった。中の様子が聞こえるのは

ありがたいけど……。

ええんか?もし、斎藤さんが————。」


「”もし”は考えない。私は、斎藤一を信じてる。

ただ、観察方として、便利な物を提供してるだけ。

だから、ここからは、はじめを嗅ぎ回る事はしたく無かっただけだよ?」


だから、あえて、西本願寺近くに行かなきゃ聞こえない、盗聴器を斎藤に持たせた。


観察方の為に………。


「ちぃ……?」

「私は、コレを使う気はない。斎藤の周りの動向が気になるぐらいだよ。天狗党も京に入って何やってんだか……。」


そう言って笑う千夜。自分が、天皇、将軍と並ぶぐらい。いや、それ以上に狙われているのに

彼女は笑っている。


不安な筈なのに————。


「ちぃ、俺は、お前の為なら………」

「死なないでね。烝。

貴方は、私の、義理の兄だと、そう言ったよね?血が繋がって無くても、ケイキが居ない間は、そう思ってって。」


「……覚えとったんか?」


千夜の幼い頃の記憶はずっと、曖昧なままだ。だからこそ、山崎は、そう尋ねた。


「思い出したんだよ。

毎日毎日、お寺や神社を駆けずり回って訳がわからない呪文をずっと聞いてた……。」


クッと唇を噛み締める山崎。


小さな千夜が震えながら、呪文を唱えられ、

少しでも、手や足を切られたり、傷をつけられた事もあった。薬みたいなモノを飲まされる姿を山崎は、見ていることしか出来なかった。


何度、止めて助けたいと思ったかわからない————。


「烝は、いつも、私を褒めてくれた。


偉かったって、よお、頑張った。そう言って……。


髪の色が変わってしまった時、みんなが、白い目で見たのに、”桜の色みたいで綺麗やな”

そう言ってくれた。目も、空みたいやって。

だから私は、今の姿の私は、嫌いじゃない。

烝が居たからだよ。」


「………。嘘なん、言ってへん。ちぃの髪も目も、綺麗なのは嘘やない。」


「みんなが白い目で見る中、言えないよ……。

私は、嬉しかった。」


そう言って笑う千夜。


黒く綺麗な髪。少し茶色がかった瞳。


それが、千夜の本来の姿だった。山崎は、その姿の千夜も知っている。可愛らしい子。

それが山崎が、初めて会った時に思った事。


千夜の母親は、京都の御所で暮らしていた。千夜は、 力の事を知られたくない家臣らの意向で、京都で過ごす時が多かった。


だからと言って、子守を買って出る人間なんか居ない。彼女は、気味が悪いとそう言われて居たから。


父母は、水戸藩に居なければならなくて、悩んだ挙句、


幕府の役人とする。という、仕事内容もかかれない怪しい募集をかけた。

丁度、その頃、山崎は、家の仕事を継ぐ気がなく、仕事を探して居た。役人。その文字に釣られて行ったら、仕事内容が、千夜の子守だったのだ。


別に、子守ぐらいで役人になれるなら、そんな美味しい話はない。

何度か足を運んだ時、小さな椿が出てきたのだ。

役人になりたいと、志願した者達が集められ、その部屋の中には、50人ほどの志願者。その人の多さに小さな椿は、首を傾げた。


訳がわからないだろう。

部屋の中に集まる男達は何をしてるのかなんて………。


あどけない顔で、右へ左へと視線を彷徨わせた彼女。つい、可愛らしい仕草に、ふっと笑った山崎。しまったと思った時、小さな椿と目が合った。


こりゃ、役人になんて程遠い。ダメだと思った山崎は、諦めた様に苦笑いした。しかし、小さな椿は、ズンズン、山崎の方にやって来て、彼の顔を覗き込んで笑ったのだ。


「お兄さんは、私、怖くない?」


小さな子がそんな事を聞く。身分が違うが、山崎は、正直に、敬語など使わずに答えた。


「怖ない。なんでや?」


普通に話した山崎。たった、それだけ。


「遊ぼ、お兄さん。」

「山崎烝や。」


「すすむ!遊ぼ。」


いたく山崎が気に入ったらしい千夜を見て山崎は採用される運びになった————。



この時、山崎は知らなかった。千夜が、不思議な力を持って居たなんて事は————。


しばらくして、うち明かされた、事実に、山崎は、驚きはしたが、千夜に愛着を感じていた彼。兄だと言ったのも確か。今更、離れるつもりもなかった。


身分が違っても普通に話すし、一緒に遊ぶ。

山崎に、苦痛なんかなかった。ただ、千夜を神社や寺に連れて行くのは、嫌で、嫌で、仕方なかった————。


千夜を守る為に、剣術を学び、観察、忍びの様な事も学んだ。そして、突然いなくなった千夜を探す日々。


見つけた時は、本当に嬉しかった。だが、思い切って接触したが、千夜には記憶がなく、土方という男の家で暮らしていた。


幕府に知らせれば、また、神社や寺を巡る事になる。


誘拐ではないのか……?


と、山崎が一番初めに疑ったのは、土方であった。しかし、身代金などという要求は無く、笑顔で過ごす、椿の姿に、山崎は、幕府に彼女は見つからないと嘘をつき、山崎は、千夜を見守る。幕府から仕事があれば、受けるようになった。


忍び、観察ができる山崎。生活の為に出来る仕事はした。


千夜は、自分と同じ背丈の木刀を振り回す日々。転けても泣かない。必死に打ち込む彼女。そして、よく笑う様になった……。


千夜とも何度か接触するが、記憶は戻らない。


千夜の幸せはココなんやと、山崎は、幕府から離れる事を決意した。そして、それは、浪士組結成の年であった————。


そして、千夜は、近藤を土方を支えて欲しいと言った。山崎は、一足先に京都に入り、浪士組結成を待った。


千夜の願いを叶える為に。


そして、再び出会う。千夜の記憶のない山崎と————。





















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