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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
220/281

斎藤と間者

沖田の視線が、足元に置いた竹筒へと向けられた。ずっと、頭から離れない。彼女が死にゆく姿————。


それを思い返しながら、沖田は、意を決した様に口を開いた。


「————僕、ちぃちゃんのあんな姿見たくない。戦って欲しくない。

………本当は、そう言いたい。苦しかった。君が、死んだと思った時。」


ぎゅっと胸を押さえた沖田に、千夜の胸も傷んだ。


イヤでも思い出す。”化け物”という言葉……。


「生きてくれて、

………ありがとう。ちぃちゃん。」


ガバッと効果音がつくぐらいに、沖田に抱きしめられる。


「気持ち悪くないの?化け物って思わない?

————私は、自分が気持ち悪い。」


その言葉に、沖田は立ち上がり、千夜の肩を持ち、彼と視線が合う。目を合わせられたと言った方がいい。


「そんな事、言わないでよ……。

気持ち悪くないし、化け物なんて思ってない。それに、僕がちぃちゃんが好きなのも変わらない。」


「………」

「ずっと、そう思ってたんだね?」


コクンと頷く千夜。


「何で、言わなかったの?千夜が、辛かったでしょ?ビックリしたよ。そりゃ……。

でも、君が僕の性格良く知ってるんじゃない?————嫌いな人には?」


「————冷たい?」

「正解です。」


ニコッと笑った沖田。

あんまり、当たっても嬉しくないクイズに、正解してしまった————。


「…………。ちぃちゃん?新しい世は幸せなんだよ?だったら、君も幸せじなきゃいけない。

君にも、幸せになる資格は、あるはずでしょ?


戦って欲しくないと思った。死んでしまう恐怖を知ったから————。


君も同じでしょ?僕の死んだ姿を見て、病にかかっても生きて欲しいと。死んで欲しくないと


君は、必死に言ってくれた。


……僕は、嬉しかった。ねぇ、千夜?」


「何?」


正直、こういう話しは苦手で、竹筒を傾けながら答えた千夜。


「————僕と、祝言上げてくれないかな?」


そんな沖田の真剣な声に、ビックリし過ぎて咳き込む千夜。


「ちょ、ちぃちゃん、大丈夫?」


しばらく、ゴホゴホと咳が止まらない千夜を見かねて、背中をさする沖田。


苦しくて、顔が真っ赤な千夜は、はーはーと呼吸を整える。


「……死ぬかと思った……。」

「ごめん、ごめん。で?ちぃちゃん、返事は?」


「…………」


考える時間をくれないか?咳き込んでたんだからさ。


「総ちゃんは好きだよ?でも………。」


————子供が授かれない。


きゅっと、唇を結ぶ千夜に沖田は気付いていた。


「わかった上で言ってる。

僕はちぃちゃんとの子じゃなきゃイヤだし、いくら子供が好きでもね。ちぃちゃん以外の人と夫婦になるつもりも無い。」


イヤって……。言われても困るんだけど?嬉しいけど……。


「総ちゃん…私……。」

「返事は今じゃなくて大丈夫だよ。さっきのは冗談。居なくなる恐怖を知ったから、失いたくない。————焦ってるのかもしれない僕。


でもね、何より君と一緒に居たい。


ちぃちゃんが悩む理由も知ってるけど、僕は、本気だからって事を知ってて欲しかった。

よく考えて、答えをだして?」


嬉しい返事だといいんだけど。と、ニコッと笑った沖田に、胸は跳ね上がってしまう。


「————まぁ、恋仲としても、離す気はないけどね。」


サラッとそんな事を言う沖田に、千夜の顔は、真っ赤に染め上がる。


そんな千夜を沖田は、見つめ、再度笑うのだ。

こいつは、絶対わかってて、言ってるよね?


はぁ、悩みが増えた。幸せな悩みが————。


嬉しい悩み事が増えたが、千夜には、まだ悩みがあった。————嬉しくない悩み事が。


沖田に告白された日の夜。


「寝てなくていいのか?千夜。」


そう言って部屋を訪ねて来たのは、千夜の夕餉を持った斎藤であった。


「あぁ、はじめ。ごはん持ってきてくれたの?」


「………。はぁ。寝てなくていいのか?と、

尋ねたんだがな。」


あはは。っと、笑って誤魔化す千夜。彼女のごはんは、相変わらずお粥である。


「私、別に普通にごはん食べれるよ?

お粥嫌いじゃ無いけども。」


「そうなのか?明日は、雑炊にしてやる。」


「明日もはじめが当番なんだ?

お粥でいいよ。後、一週間で復帰出来るんだって。」


ニコニコと嬉しそうな千夜を見て、キョロキョロと周りを見渡す斎藤。

「一週間か。」


お粥に手をつけようとすると、斎藤は、ジッと千夜を見ている。

「??」

膝の上で、拳を握り締める彼に千夜は、気付いていた。

————伊東も岩倉も動きがない。


もしかしたら……。と、最悪な事態を想像し、きゅっと千夜は、唇を噛み締めた。


「………。はじめ、お水頼んでもいい?喉渇いちゃってさ?」


スッと、斎藤が立ち上がり、部屋を出た後、黒い塊りが、千夜の前に降り立った。


「ちぃ?斎藤さんは、————間者か?」


千夜の横には、斎藤が運んで来たお粥が手付かずのまま置いてあった。サッと、山崎がお粥のお膳をすり替えた。


「よっちゃんから、許可貰えた?」

「あぁ、斎藤さんを伊東の間者に送ってええ。言うとったわ。」


「そう……。」


下を向いてしまう千夜。山崎は、お粥からのにおいに(さじ)ですくってにおいを確かめた。


「これ、やっぱり媚薬入っとる。斎藤さんは、もう……。」

「烝っ!はじめは、裏切ってないよ!」


自分が媚薬を盛られたのに、彼女は、いつも仲間を庇うのだ。


「土方さんには————?」

「他言無用っ!」


キッと、山崎を見る千夜。彼は、騙されてるだけだから戻れる場所を奪いたくないのだろう。


「………。御意。」


そう言うしかない。


土方は、斎藤に絶対の信頼を寄せている。その人を、奪いたくない————。


伊東派に殴られていた時、あの時感じた視線。

あれは、はじめのモノ。伊東が去った後にも感じた視線————。


野口だと思っていた。だが、既に伊東派でもない野口。彼が千夜を監視する必要は無いのだ。


そして、千夜が倒れてから、はじめが千夜に近づく回数が増えた。そして、微量ではあるが、盛られた媚薬————。


スッと、山崎が部屋から消える。襖に映った人影。そして、その部屋の襖が開かれる。


「どうした?」


手付かずのお粥をみて、斎藤が言葉を放つ。


「………。あぁ、ごめんね。」


すっかり冷えてしまったお粥に、千夜は、手をつけた。


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