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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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生と死と

現れた小さな千夜。姿形も幼い頃のままの彼女を信じていいかは、わからない。だが、沖田は、疑問に感じている事を聞くいい機会だと思った。


「君は、知ってるんだよね?ちぃちゃんが、誘拐されたって。」


(千夜は、誘拐されて無いよ。自ら逃げ出した。そして、その記憶を————私が消した。)


「なんやて!なんで、そんな事!」


(幸せだと思う?親が思ってる事が直接伝わってきて、術師をかけられ、終いには、大奥みたいな所に入れられ、直接伝わってくるんだよ?

相手の思ってる事が!


案の定、二週間で、千夜は絶望した。


自ら傷つけた千夜は、一命はとりとめた。


その時に、私が生まれたの。

力を持ち、四歳で止まったままの千夜としてね……,

これも、術師の所為なのかわからない。着物を捨て、たまたま江戸に向かう芹沢に出会い、助けられた。その後、千夜は襲われてしまい、


千夜の記憶を消し、自分の記憶も消した。

私は、千夜に忘れられたと思い込み、千夜は土方に出会った。


それが、私達の過去。

だけど千夜は、 覚えてた…しっかりと……芹沢に助けられた事実を…


千夜の中にも力が残ってる。

生き返った今、彼女の中の力が強まった可能性がある。厄介なのが芹沢)


「芹沢さんが?なんでだ?」


土方が、小さな千夜に向かって言葉を放つ。


(芹沢の思いで千夜の目が見えるようになった。そんな事あり得ない。筈なのに。

もし、幼い時にかけられた術師が、何かに反応したなら、千夜は、新たな力を受け入れてしまったのかもしれない。)


「新たな力って……」


(何かは、わからない。私は、千夜であって違う。)


「なぁ、伊東と芹沢さんの関係とかわかるのか?」


「おいおい、平助いくら何でも……。」


(二人を繋ぐなら、神道無念流。

神道無念流は岡田吉利の「撃剣館」系になるんだよ。あの二人は……。

芹沢鴨、金子健四郎は、戸賀崎という人に教えてもらった。

その、金子という人に、伊東甲子太郎が習ったはずだけど?交流してれば知り合いじゃない?

平間も戸賀崎の門人だったよ?)


……平間……


もし彼が、伊東と接触をしていたら、千夜を知ることは可能。しかも、君菊の事も知っている。


二人の接点を、まさか、小さな千夜が知っているとは思わなかった————。


「でも、ちぃちゃんも無事だし良かった!」


笑う沖田。


(千夜は、確かに生き返った。


でもね、この先、必ず助かるとは限らない。

不死身だと思わないで。何時まで術師が効いてるのかわからない。

この時代は、術師をかけた人間が生きてるから、すぐに息を吹き返した。

————けど、色んな術師をかけられたから

なんの術師なのか、どの人にかけられた術師なのか分からない)


「もし、術師が解けたら?」


(平成なら間違いなく死んでるだろうね

今は、千夜が生きた時代。生きるか、死ぬか……わからない…全くね……)


術師が解けたら、どうなってしまうのか。そんな事は考えたく無かった————。


しかし、小さな千夜が嘘をついている事など、誰一人として気づかなかったのだ。千夜が目を覚ましたのは、それから10日後の事であった。


見た目の変化もなく、目を覚ました後、ゆっくり起き上がった千夜。


「……痛っ……」


左腕に体重をかけた為、痛みが襲ったのだろう。


「ちぃちゃん……。良かった……本当に……。

心配したんだから。」


「…ごめん……総ちゃん……」


抱きしめる体


「しばらく、安静だからね?」

「……うん。」


脚は、銃を左腕には、刀を受けた。脇腹も最近撃たれた千夜。記憶の欠落は無い。


ただ、自分が死んでしまう記憶まで千夜は覚えていた。


————自分を化け物だと言った千夜


その言葉が頭の中で響く。


「お腹減ったよね?お粥作ってくるよ。みんなに、ちぃちゃんが目を覚ましたって伝えなきゃっ!」


「…ありがとう……」


パタンッ


1人になった部屋。生き返った恐怖。自分の中にある光————。


…………。怖い。千夜を襲う感情をどうすることも出来ない。ただ、自分の体を抱きしめた。



今更……だね。


150年以上生きていた事実。その時点で化け物に変わりは無い。正直気持ち悪い。蘇生をした訳じゃないのに生き返った。


たまに聞こえた、小さな千夜の声。



人の気持ちが伝わる。そんな力は、千夜には無い。


治癒能力なら、中村が持っていた。自分で逃げ出したと言った。しかし、幼子が何も考えずに見知った場所を離れるだろうか?


ハッキリ言って、腹を刺した事すら、本当は曖昧だ。


……わからない。やめよう。考えるのを————。


誰しも死ぬ時は、知らない。私がやらなきゃいけない事。それは、自分の過去を知ることじゃない。


幕府を新選組を守って、新たな世を創り上げる事だ————。


三年で、開国しなければ、日本は、どうなるのかわからない。今は、身体を休ませよう。





千夜の見舞いに、血判を結んだ者達がお見舞いにやってきた。


いつもなら抜け出して、皆を困らせる常習犯であるが、一週間たっても、おとなしく部屋に入ったまま、治療に専念していた。


見舞いは、日替わりで、毎日、誰かしら来てくれた。


みんな忙しいのに————。

それでも千夜は嬉しかった。ただ、新選組からの脱走者は後を絶たず、阻止をする千夜が動けない。

幹部達も説得を試みるが、上手くいかない場合もあった。


隊士たちを切腹させたくないと、千夜が斬った隊士たち。そして泣きながら斬り隊士の名を呼んだ千夜の顔がイヤでも離れないのは、皆同じであった。



慶応元年8月。柴田彦三郎が脱走し捕まった。


鉄の掟を破らせる事はならないと、切腹が決まり、千夜に知らせることなく実行された————。


約一年、彼の死は、早まってしまった。



「ちぃちゃん。部屋に閉じこもってばっかりだと体に良くないから、庭に行こう?」


布団の上に座ったままの千夜を見て、沖田がニコニコ声をかける。


「————柴田は死んだんだね?」


その言葉で、沖田の目は、見開かれた。千夜には知らせなかった筈だ。しかも、切腹は今さっき、したばかり……。


新選組隊士の魂は、千夜の元に集まる。その事を忘れていた————。



「…………ごめん。止められなかった……」


申し訳無さそうに沖田が言うが、誰も悪くない。厳しくしなきゃ隊じゃない。


新選組は、其れ程まで強い組みになったのだ。

強い組みだからこその掟————。



「そっか。…………外、行く?」


それでも、切腹をして欲しくなかった。隊士が少しずつ減ってるのも千夜にはわかってた。


縁側に、千夜は、腰を下ろす。


夏、ミンミンと蝉が鳴き生暖かい風が吹き抜けていく。


青い空を見上げれば、彼女の自然と口角が上がった。


そんな千夜を見て、沖田は竹筒を渡した。


「喉、乾いたでしょ?ちぃちゃんは、空見るの好きだよね?」


竹筒を受け取りながら


「…ありがと……好きだよ…空……」


そう答えた。


「今、笑ってたよ?」


ツンツンと、頬を指で突く沖田は、ニコニコとしながら千夜の隣に腰を下ろした。


「総ちゃんも、ニコニコしてるよ?」


んー

「僕はちぃちゃんと一緒だったら、嬉しいからね。

松本先生も、もう一週間もすれば、町に出ても大丈夫だって言ってたよ?」


「そっか。一週間か。」


長い様な、短い様な……。


「隊務にも復帰するんだよね?」

「うん、一か月以上も休んじゃったからね。二条城の書類はここでも出来るのあるけど、基本持ち出さないからね。部屋に書類の山がない事を祈るよ。」


そう言って、千夜は苦笑いした。



























































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