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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
217/281

屯所襲撃事件—弐

ガキンッ!ギリギリ………。

交わる刀から聞こえる金属音。目の前の男が突然口を開く。


「お前が、千夜か?」

「だったら何?」


声は、投げやりだが、右足も左腕も痛い千夜は、余裕が無い。


「ふぅん。」


刀を交えているのに、品定めする様な視線が、気持ち悪くて、千夜は、足で蹴り、相手と距離を取る。


————痛っ……。


そのまま、体制を崩す千夜。だが、蹴った相手とは違う男が、背後から刀を振り下す。


千夜は、どうにか足を踏み込み、すぐさま体制を立て直した。そして、刀を振るう。


その刀は、相手の腕を斬りつけ、背後から襲って来た男は、倒れた。


「……う…っ…。」

「ちぃ!お前、撃たれたって!」


その確認、今じゃ無いとダメですか?烝さん。

まだ、目の前に品定めする様な男が居るんだけど……?


「自分で処置したって……。」

「麻酔は?」

「もう切れたよ。中村、被害の状況は?」


と、視界に映った中村に尋ねる千夜。


「切れたて……。」


痛いだろうに、立ち続ける彼女。

だからと言って、この状況の中、休ませてあげられない。


クソッ


「隊士3名死亡、松原さんと平隊士2名!

負傷者は37名っ!

岩倉一味は、約30名で屯所襲撃、半数倒れ、

10名は、死亡しました。7名が負傷…」


キュッと唇を噛み締めた千夜


「わかった。ありがと……。」

「…いえ……」

これは、歴史に無かった事。死ななくてもよかった隊士が人が死んだ。


————私の所為だ……。


岩倉一味と言っても、岩倉を知ってるのは半分居るか居ないかじゃないか?


あいつは、自分の足がつかない様にして、多分逃げ帰っても、屯所を潰しても、こいつらは、殺される。


繰り出される刀を避ける千夜と中村。山崎もクナイを投げながら応戦する。


「お前は、連れ帰る様に言われてるんだよ。なっ!」


シュンッ


刀を避けた瞬間、千夜の脇腹に鈍い痛みが走った。


鳩尾を狙ったらしいが、咄嗟に千夜が身体をくねらせたからだ。


「……つっ……」


男から離れ、屯所の壁にもたれかかる千夜。


山崎も千夜の姿は確認できたが、駆け寄れない。男達に気を取られ、千夜から離れてしまったのだ。


「ちぃっ!」


ヤバイ……。目が、霞む————。

も腕も悲鳴をあげている。これ以上、戦いが長引けば、自分は、ただの足手まといだ。


屯所襲撃をした男達は、予想以上に凄腕の人物達だ。


……倒れちゃダメだ……。


右手に巻いた桜色の手ぬぐいをぎゅっと握りしめる。


……総ちゃん……。



「ちぃっ!」


そう叫んだ山崎、その近くには、刀を振り上げた男の姿。その刀は、山崎に向かって振り下ろされた。


バンッ


仲間を守らなきゃいけない……。


ドサッと倒れた山崎を襲おうとした男、


目が霞む中、銃を使うという事は殺してしまう可能性がある。そういう事だ。


でも、これ以上仲間を、傷つけられたくない————。


本当なら、死ななくてもよかった命なのかもしれない。それでも、新選組を危険に晒したのは私。だったら私がやる事は、襲撃した奴らを倒す以外、出来ない————。


でも、千夜は目が霞む状態。残す手段は、ただ一つ。


————どうか、届きますように…。


千夜が懐から取り出したモノに火をつけ、それを空に投げ上げた。それは、爆弾であった。


バーンッ!バーンッ!バーンッ!


三回鳴ったそれは、千夜のSOS。

これに血判を結んだ者達が気づけば、いや。気づいてくれなきゃ困る……。


グッと、突然、首を締め上げられる。

「何をっ!」


焦った男は、品定めしていたあの男だ。

「……くっ…」


なんとか、その手を離すべく、千夜は男を蹴り上げた。地に膝をつく彼女に、立ち上がるだけの体力は、残っては居ない。


「ちぃっ!」


ガキンッ、山崎の目の前には、また、別の男が立ちはだかる。


藤堂も原田も一人の男に悪戦苦闘を強いられ、

千夜に向かって振り上げられる刀に、誰も対応できない。


総ちゃん……よっちゃん……


「ちぃっ!」

「千夜っ!」


……芹沢…ごめん……


『諦めるか?まだ、終わってないのに……。』


……まだ、終わってない?まだ、刺されて無い。


『最後迄、足掻き続けろ!千夜っ!』


足掻く。最後迄————


パンッ


ドサッと倒れた千夜に刀を向けた男。千夜の手には、発砲されたばかりの銃が握られて居た。


「諦めたら……そこで終わり……。」


そう言って、千夜は立ち上がる。ふらふらの身体で、再び銃を構えた。


バンッ


原田と藤堂が悪戦苦闘した男を銃で仕留める。

ズルズルと、壁にもたれかかり、地に尻をついてしまった千夜。


「ちぃっ!」


駆け寄る山崎

「…ちょっと……血、流し過ぎた。かな?」


ニコッと笑う千夜


慌てた様に、山崎は、薬を千夜の口に放り込む。応急処置にしかならない鉄剤を……。


「笑っとる場合、ちゃうやろが!」


「————トシマロ、高杉、桂。後は任せた。少し…休ませて?」


山崎は、千夜の言葉に、屯所の入り口を見た。

そこに現れた三人。千夜のSOSに気付いて馬で駆けつけた長州の志士は、屯所の惨状を見て言葉を失った。そして、傷ついた千夜の姿。


休ませてなんて、彼女は言った事がない。其れ程まで、千夜は局限状態であった。


「……千夜……。」


赤く染まった彼女を見て、三人が唇を噛み締めた。



「任されてやるよ。だから、死ぬんじゃないよ!」


「当たり前だ……。」


私が死んだら、日本は、一つじゃなくなる。

だから、死ねないよ。————何があっても。ね。




「我ら長州藩士、新選組に助太刀致す! !」


「…なんで……長州が……」


怯む男達。


「長州のヒメの怒りを買ったんだよ!お前らはなっ!」


ズシャッっと斬りつけていく長州藩士達。長州のヒメに手を出したつもりも無い男達は、標的でもない彼らの登場に、慌てふためいた。


長州のヒメに手を出した男達を斬り捨てていく長州志士達。


怪我をした新選組隊士を救護に当たる、後から到着した久坂と長州藩士の姿。隊士の元に運び、対応していく。


まさか、長州藩士が現れるなんて思ってもなかったのか、怯んでしまい、さっきまでの力が出ない襲撃して来た男達。


山崎は、千夜の治療にあたる。

さっきから一点を見つめる千夜。


……弱いな…私は……。さっき、死を覚悟してしまった。諦めた……一瞬でも……。


「ちぃ!しっかりしぃ!」


座り込んだら狙われる。救護に当たってる零番組の周りも隊士達が守っているんだ。


だから、いつまでも座ってるわけにはいかないのが現状である。


フラッっと立ち上がる千夜。岩倉一味である三人が、こちらにジリジリと近づいてくる。


千夜は、銃を構えた。ボロボロの身体で————。


バンッバンッバンッ


……ごめん…なさい……


私が変えなかったら、死ななかったかもしれない人達。


そして、やっと、屯所に静寂が戻る。


「生きてる、やつは、捕縛を……。」


ポタリ。ポタリと落ちる赤。


「ちぃ、もういいっ!後は、俺たちがやるから。

……腕、ごめん……痛えよな?本当ごめん。」


そっと、晒しを撫でる藤堂。


「大丈夫だよ?」


彼女は、いつも、俺を責めない。


辺りは少しずつ明るくなっていく。もうすぐで、夜明けだ。


屯所襲撃は、隊士三人の死者を出し負傷者は、千夜を合わせ45名。屯所は、長州藩士達に加勢してもらい、守る事が出来た。






























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