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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
215/281

御所到着と治療

千夜に弾はしっかり当たっていた。右脚に————。

普通胴を狙うのに、脚に当てるってどんだけ下手なんだ………。


クナイで刺された場所に近い。


馬に揺られながら、不自然に光る場所を千夜は狙う。しかし、彼女は、手元しか狙わない。


パンッパンッ


懐から出した紙に向かって話す千夜。それは、不思議な光景。その紙は、千夜が術を施した、電話の様に会話できる、不思議な紙だ。


「烝、聞こえる?」

「————どないした?」


繋がった先は、山崎であった。


「二条城から御所迄の間に銃を持った奴らが倒れて居るから、捕縛……お願い。」


「了解や。……ちぃ?お前どないした?声が震えとる気するけど?」


その声は、沖田にもハッキリ聞こえていた。


流石。天才観察方だわ。誤魔化せない————


右に振り返ろうとする沖田。

千夜は、見えないが点々と馬の後に血痕が見えた。


「————っ!ちぃちゃんっ!山崎君、場所はわからないけど、ちぃちゃんが撃たれた!」


「すぐ、御所向かう!」


御所の門をくぐると、グラッと傾く千夜の身体。

「ちぃちゃんっっ!!」

「大丈夫だって……。」

なんとか持ち堪える千夜だが、腰に回した縄が無ければ、落下していただろう。


「大丈夫じゃないでしょ?」

「撃たれたの脚だし。」

「そういう問題じゃない!もう、御所だから、

掴まってて!」


おとなしく沖田に捕まる千夜。


本当は辛いくせに、息だって荒くなってるのに、辛いって言わない彼女。


やっと止まった馬、沖田は、刀で縄を解き千夜を支えながら降りて、抱きとめた。



到着した御所は平和なもので、孝明天皇が沖田を見て外に出てきた。手には千夜を抱え右脚を赤く染めた千夜の姿に、


「……医者を…。」


そう言葉を漏らした。


「いい……。そんな事のために来たんじゃない 。岩倉は、将軍暗殺を実行しようとし、失敗した。————岩倉派の人間を御所に置くのは危険です。」


はぁはぁと、息を切らす千夜。


「……岩倉が……?わかった。すぐに対処する。だから、椿、お前は休め————。」


「いいえ。外に、岩倉派の人間がいたんです。

忍び込むのは容易い。………今、倒れてる場合じゃない。」


「…椿……。」


「孝明天皇、貴方が本当に信頼出来る人間を護衛に付けるべきです!」


「……おらん……」




「…え?」


「岩倉を信じていた。だが、誰を信じたらいいか、誰が味方なのか……、そんな者は居るのかすら、わからない。お前が、身分が嫌いだと言った意味は、理解して居た。

まさか、自分の命を家茂の命を狙うなど考えなかった。まさか、自分直属の部下が……。」


「私は、自分の組の人間を部下だと思った事は一度もない!仲間だと思って共に戦ってきた。」


ぎゅっと手を握りしめる千夜。沖田は、口を開いた。


「ちぃちゃんの組にも、直接、彼女を誘拐に関与した人が居たんです?でも、ちぃちゃんは、またその人を仲間として受け入れました。


その人が、目を覚ましてくれたから、間違ってたと気付いたから、彼女は、”罪を憎んで人を憎まず”そう言ったんです。

その人が、また、ちぃちゃんを裏切っても彼女はまた信じますよ。きっと……。信じられないでしょう?————でも、それが、芹沢千夜なんです。」



「…椿が…?」


「信用なんか、自分がしなきゃ相手だって、信用なんかできないでしょ?誰も信用できないなら、新選組を護衛につけます。————それでよろしいですか?」


「…………」


「一度裏切られたら、ダメになる様な人じゃないでしょ?貴方はっ! !


どれだけの町人が貴方を支持してると思ってるんですか?


日本の顔になるんです。天皇は……。

貴方の子孫は、ニコニコして、威張ることもしない。災害があれば、現地に行き、皆を励ます

素晴らしい人ですよ?先祖の貴方が、皆を疑ってどうするんですか?」


「…椿……お前は……」

何故、未来を知っているのか……?


「私は、150年以上先の未来迄生き、また、この時代に戻ってきました。全ての間違いを正し、戦を止める為に……。新選組を守る為に……。私は、そう、思っています…」


また、彼女は、決めたからという顔をする。

右脚の痛さを堪えて。


「岩倉が全てじゃないだろ?貴方は、岩倉の操り人形なのか?そうじゃないだろ?違うでしょ?ヒロくん!」


全てが敵に見えた。全ての者が自分に優しく接する。それが当たり前で、天皇だから偉くて

天皇だから凄くて……。

……毎日つまらない事ばかり……


だが、彼女は、いつも、普通に接してくれた。

幼い時も……今も…… 。


間違ったら間違ってると言うし、感情をあらわにする彼女が、許嫁だと思ったら、楽しいと思った。


だが、消えてしまって、縋り付いたのが岩倉だ。


いつの間にか俺は、岩倉の操り人形に成り下がっていたのかも知れない————。


日本を良くしたいと思った。椿に力を貸すと言う事は自ら決めれたんだ。彼女に力を貸したいと、本気で思ったからこそ、血判状に署名した。


「…俺は、家臣を信じる。」

「…それでこそ、ヒロくんだね。」


そう言って笑った彼女。


千夜は、入り口の少しの段差に腰を下ろし、足を強く縛る。薬を取り出せば、沖田が竹筒を手渡した。


「…ちぃちゃん、銃弾は?」

「抜けてないね。」


傷口に、行灯を持ってく沖田。銃弾を取り出さなければならないのだ。


「椿、本当に休め!」

「ヤダですよ。こんなんで、大人しくなる私じゃないんで……。総ちゃん、照らしててね?」


山崎の到着が遅い。なら、自分で治療するしかない。


懐からメスなどの治療道具を取り出した千夜

注射器を見て、

あまり使いたくないんだけど。貴重だから……。

千夜が手にしたのは、麻酔である。しかし、これを使わなければ、自ら治療は出来ない。


自分の脚に注射する千夜。

痛みを耐えるために、手ぬぐいを噛み締め、手を動かしていく。そして、しばらくして、傷口を少しメスで開いていく————。


御所の外でやる事じゃないが、家臣らが信じられないと言った表情で見守る中、治療は着々と進んでいく。


ピンセットで弾を取り除き、沖田が、弾を手ぬぐいに受け取った。そして、千夜は自分の脚を縫う。

「山崎君、なんかあったのかな?」


到着が遅い山崎の心配をしながら、晒しを差し出す沖田。それを受け取り、ぎゅっと晒しを巻いて千夜は立ち上がった。


「椿、大丈夫なのか?」

「あぁ、うん。大丈夫。」

「麻酔が切れたら、暴れ回りますよ……。」


言わなくていい————。









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