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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
214/281

将軍狙われる。

静寂な夜。千夜と山崎は、誰にも見つかる事もなく、西本願寺に到着した。


西本願寺には、見張りが居て、それを確認しながらも、二人は、中庭へと忍び込んだ。


「にしても、広いなぁ~。こりゃ、手分けせんと夜のうちに終わらんな。」


脱力しそうになるのは私だけだろうか?


「烝、言っとくけど、欲しいのは情報だけだからね?戦おうとしないでね?」


「お前に言われたかないわ!ややこしい事に巻き込まれんのは、いつも、ちぃやろが!」

「シィ~! !声大きい!」


千夜の言葉に、自らの口元を抑える山崎。


「……すまん。とにかくや、別行動するけど、随時報告!ええな?」


「連絡が途絶えたら。此処で合流ね。」

「わかった。」

「烝、私に何があったら、一旦屯所に……。」


ゴツンッと、千夜の頭に落とされた拳骨。


「縁起悪いわ!」


何も、叩かなくても……。


「絶対、無事に、帰るんや!ええな?」

「わかった。」


そして、闇に紛れて二人は、別々に西本願寺に潜入した。口元に沖田がくれた桜色の手ぬぐいを巻きつけた千夜。屋根裏の埃で、咳なんか出たらすぐに見つかる。手拭いは、マスクがわりである。


屋根裏から岩倉と伊東。他にも情報を話してる人物を探すが広過ぎるのか、なかなか見つからない。


そして、物音に気をつけながら進む千夜が、ある部屋を覗き込んだ時、目的の人物を見つけたのだった。


「見つけた……。」


岩倉と伊東の姿。逃げ道がある事を確認し、千夜は、耳をすませた————。


「昨日、お前が欲しがってた女に会ったよ。」


お酒を呑みながら岩倉が口を開いた。


「……。そうですか。」


あまり聞きたくないらしい伊東は、酒を片手に、盃の酒を見つめ、盃を傾けた。


「どうした?」


「いや。岩倉さんが機嫌がいいのは、その女が気に入ったということか、気になりまして……。」


伊東の口調が、いつもと違う気がした。

「あはは。俺の好みじゃないがな。

お前が、気に入った女なら手は出さない。」


まるで、安心しろと言わん限りの岩倉


「なら、いいのですが………。仲間が数人、新選組に捕まったとか。」


「ああ、あいつらか。浪人の寄せ集めだったからな。」


居てもいなくても構わない様な発言に、イラッとしたのは、千夜だけではなかった。


「此処が本拠地とバレてしまうんじゃないですか?」


伊東もまた、酒を手に取り、手酌して酒を盃に流し込む。

「ばれたとて、奴らに何ができる?奴らも殺してしまえば、証拠などなくなる。大体、将軍暗殺を何処から嗅ぎつけたんだ?

俺の企んでいる事は全て知っていると、あの女は言った。新選組は、会津藩お預かりだろう?」


「ええ。その通りですよ?

何処から嗅ぎつけたか?私には分かり兼ねますが……。」


「本当に知らないのか?一橋公の妹は、孝明天皇の許嫁だった女。4歳か5歳の時に行方不明になった筈だ。なのに、新選組に居るなんておかしいだろ?」


「偽物だと言いたいのですか?」

「水戸徳川家の女が刀を持つ意味はないだろう?女は、黙って子を産んでればいいんだ。」


「彼女は、人を惹きつける、魅力があるんですよ。」


伊東甲子太郎が、そう言って笑ったんだ。あの、伊東が————。


やはり彼は、騙されているのではないか?


岩倉派の人間は、沢山いる。薩摩の大久保利通

他にもいるが……。


突然立ち上がった岩倉に、千夜は、身体を強張らせた。


「岩倉さん、どちらへ?」

「厠だ。」


岩倉は、そう言うと、部屋から出て行った。

これ以上の深追いは、必要無いだろう。千夜はそう思い、その場を去った。


『暗殺を何処から嗅ぎつけたか……』


この言葉だけでも、企んでいたのは明白だ。

もっとハッキリした証拠が欲しいが、深追いするなと、言われている。だからこそ、もっと情報が欲しかったが、後ろ髪を引かれる思いでその場を離れたのだ。


そして、山崎と屋根裏で合流した千夜。その時、ザシュッっと物騒な音が聞こえ、山崎と共に、下を覗き見た。


厠に行った筈の岩倉の姿と、男が三人。しかし、1人は斬られ倒れて、ピクリとも動かない。腰を抜かした一人の男の姿に、千夜と山崎は、顔を見合わせた。


「失敗した。だと?」

「ヒッ!すいません岩倉さん、まさか、将軍が居る二条城に坂本と中岡がいるとは思わず……!!」


「で、将軍を暗殺せず、逃げてきたと?」


振り上げられた刀を見て、千夜は反射的にシュッとクナイを投げて山崎と逃げ出した。


「ど阿呆!」

「うるさい。三、二、一。」


ドカ————ン!!ガヤガヤと騒がしくなる西本願寺。

二人は、そこから抜け出し、


はぁはぁと、何とか屯所迄、走って逃げた千夜と山崎。


「お前、なにしとんねん!」

「もしもの為に、爆弾仕掛けたんだよ。録画したしね、激怒する岩倉を。

後、色々と文やら回収したから岩倉の部屋を燃やしときたかったんだよね。」


千夜の手には無数の文。そして携帯。証拠な十分なほどに集まった————。


わからないのは、伊東と岩倉の関係。


————あいつは、何かを企んでいる。



すぐさま、土方らに報告をした二人。

将軍が襲われた事は、すぐに屯所へと知らせが入った。


そして、新選組は、直ぐに出動となった。隊士半分以上の出動である。二条城の前にたどり着き、警戒態勢の中、坂本と中岡の姿に安堵する。


「二人共、怪我は?」

「大丈夫じゃき。」


再度、ホッと胸を撫で下ろした。将軍に謁見も出来た。

————携帯を見せるべきだよね?

坂本らにも犯人は、見てるだろうし………。


「いえもち君、見て欲しい物がある」


近くまで歩み寄り、先ほど携帯に収めた、岩倉の姿、斬られた人。佇み怯えた二人の男の姿を映し出した。


「確かに、この男達で間違いない。……岩倉が……」


ショックを隠せない、家茂 。和宮を降嫁し、幕府にも顔が通った岩倉————。


和宮を愛している、いえもち君にとって、岩倉は、出会わせてくれた人物になる。裏切られた。と言う気持ちで一杯の様な表情を見せた。


「私は、御所に行きます。

将軍の命を狙ったのが岩倉だとわかった以上、天皇の側室である紀子さんは、近くに置いておけません!」


「紀子さんって?」

「岩倉の妹だ……。」

「岩倉派の人間はまだ居るはずです。」


「待て、椿。お前、一人で動くのは危険だ。」

「僕が一緒に行きます。」


名乗り出た沖田。


「すぐそこなのに……。」

「用心に越したことはない…」


笑った家茂に、抗議する事など出来ず、沖田と共に御所に行く事となった。

「じゃあ、いってきます。」


二人で馬に乗るのは初めてであったが、前に沖田が、後ろに千夜が乗り、御所を目指した。門を出て、700m先に御所がある。闇夜に隠れる場所は、沢山ある。つまり、敵は、何処にでも潜める事が出来る訳だ。


「ちょっ、ちぃちゃん?何してるの?」


ゴソゴソと、沖田の後ろから、千夜の腕が行ったり来たり……。


「落ちないように、総ちゃんと私を縄で縛ってるのっ!」


当たり前の様に言う千夜に、

————役に立って欲しくないよ。その縄…

沖田は、そう思った。


だって、どっちかが負傷して落ちない様にする為の縄だから————。


二条城の門から出る。


「ちぃちゃん、しっかり掴まっててよっ!」

「無理みたい~」


パンッパンッと、近くで銃声が聞こえた。


「…つっ……」


そして、直ぐに千夜の呻き声が聞こえた。

「ちぃちゃん!撃たれた?」

沖田は、後ろを振り返る事は出来ない。


「…違う。傷口に縄当たっただけっ!」


ビックリさせないでよ————。


沖田は、気づかなかった。ポタポタと、地面に赤が落ちている事を————。








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