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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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千夜の過去と伊東の真意

伊東派なのか、岩倉派なのか、わからないまま、捕縛した五名。


急所は外した為、皆無事である事は、折り紙付きだ。応急処置は、その場で施した。しかし、千夜は、屯所に帰ってすぐ治療をする。


縛られた彼らを手当てするのは、簡単じゃない。

「……何で……治療なんかする?」


撃ったのに。って事?

「死んで欲しくないから。」


治療の意味はそれだけだ。他に理由なんてない。彼らがどんな人間であったとしても、少し道を外れてしまった彼らが、どうして、あの二人のどちらかについているか。そんな事は、知らないし、わからない。でも、ただ、————生きて居て欲しかった。


「ちぃちゃん。また、襲われたって————っ!」


突然現れた沖田は、千夜の頬の傷に気づき、顔色を変えた。


「土方さん!貴方が付いていながら、何でちぃちゃんの顔に傷つけられてるんですか!」


「総ちゃん、今日は、私が死番な訳ね?一番前にいたから斬られただけ。」

「跡残ったらどうするんですか!」


「………」

ムシかよ!

「潔く、貰ってやるから安心しろ!」

「いえ、結構です!僕の恋仲ですからね?

何でもかんでも、隙を狙って自分のにしようとするの、いい加減止めて下さいよ!」


あの……。一応、捕縛者の前だよ?


「はいはい、二人暇そうだから汲んできてねー。」


「ちぃちゃんの治療がまだじゃないですか!」

「かすり傷だってば。」

「ダメです!」


千夜の頬を固く絞った手拭いで赤くこびりついたモノを取ってくれる総ちゃん。大丈夫なのにな……。


絆創膏なんてこの時代ないからね、頬の傷なんて治療って言ったら、清潔にするぐらいしか出来ない。


「千夜さん、治療は終わりました。見張りは、交代で良いですか?」


「中村、ご苦労様。見張りはそうだね、交代にしようか?休めるうちに休んで。」


「わかりました。」

「…見張りって……」

「ほら、熱出ちゃうかもだから、零番組が引き受けますよ。」


「それは、ありがたいが……。お前も…か?」

「私?もちろん、そのつもりだよ。」

「お前怪我人なんだぞ?」

「彼らも怪我人ね。」

「………」


「はぁ、まぁいい。治療は終わったなら、お前らに聞きたい事が山の様にあるんだよ。」


ニヤリ笑った土方。取り調べの始まり。

軽い拷問とも言える————。



「言っとくけど、殴る蹴るはやめてね。今、治療したばっかりだからね?」


………どうやって拷問すんだよ。


二刻程、土方の怒鳴り声が屯所に響く。しかし、手を出したらいけないなんて、拷問では無い。

千夜の様に、頭がいいわけではない。だから、結局、怒鳴る、脅すぐらいしかできない土方は、既に喉がガラガラになりそうだ。


やっと、聞き出せたのが、敵陣の本拠地だけ。


幹部を副長室に集めた土方は、疲れ切った顔のままだ。近藤、山南までもが招集された。


伊東派が減り、武田と鈴木がいなくなり幹部の数が減った。


「敵陣は、————西本願寺。」



————西本願寺?なんで?不逞浪士の隠れ蓑と言われる西本願寺に、わざわざ、本陣を置く意味は?


「ねぇ、よっちゃん。伊東甲子太郎は、騙されてるんじゃない?」


「はぁ?お前を襲った奴だぞ?」


……わかってますが?


「いや、だってさ、御陵衛士の事も、伊東は知らなかった訳でしょ?孝明天皇から命が出たって言ってたし。伊藤さんと井伊さんは、多分、伊東に殺されたと思うけども……。


岩倉具視は、開国を望んでない。けど、伊東は異国の珍しい物は好きだったはず。

新選組でも攘夷を掲げてる様に言ってたけどさ、可笑しくない?」


「……矛盾していますね?」


「……伊東甲子太郎がもし、開国派なら岩倉に近づく理由も無いんじゃないかなって、新選組の中に、伊東派は、まだ居る。

彼らは何故あの時、一緒に逃げ無かったのかな?」


「伊東がわざと間者になったとでも言いたいのか?」


「頭が回る伊東なら、無きにしもあらず……」

「いや、無いだろ…」


「伊東は、何故、芹沢鴨の死が私の所為だと思ったのか?

神道無念流。彼は習ってた。だけど、彼は知られたくなかった様子でしたし、水戸藩の関係を知られたくなかったんじゃないかなって……。芹沢鴨となんらかの接点があったとしたら、新選組入隊も頷けるんですが、何の証拠も確証もありません。」


「新選組入隊の理由は、ちぃちゃんなんじゃ?」


「私は死んだ事になってますよ?

江戸では、勧誘に行った時に私の話なんかしなかった筈ですし…」


江戸に居た伊東甲子太郎が、千夜の存在を知る術は無い。新選組入隊の理由が、別にあるなら……それは一体何なのか?芹沢鴨……伊東甲子太郎……それを繋ぐのは水戸藩


「水戸藩に行ってみます?」

「いや……ちぃ、それは……お前、捨てられたと……」



「徳川椿は、水戸の山で遊んでいた所を誘拐されたんや。」


いつ帰ってきたのか、そこに現れた黒装束に、皆が驚いた。


「山崎!」

「今、帰ったでぇ。」


呑気な声で応える山崎。


「ちぃが誘拐?それ、本当なの?」


山崎に詰め寄る藤堂と土方。


「あぁ、ホンマや。俺は、土方さんが誘拐した思ったんや。初めはな————。

だけど、ちぃの記憶が無い。覚えてたのは川で土方歳三に助けられた。それだけやった……。

だけど、水戸から多摩まで連れて行った人物がおったんよ。」


「誰が……?」

「壬生浪士組局長……芹沢鴨や。」


皆、驚いて目を見開く。

芹沢の為に壬生浪士組を助けてきた千夜。

それが、芹沢鴨の所為で、人生の歯車が掛け違えたとしたら……。そんなに辛い事は無い。


「まぁ、ちぃが襲われた時に芹沢鴨は、助けに入り重症。金目当てなら、そんな事せえへん。

芹沢は、ちぃの正体を知らんかったって事や。

ちぃも、芹沢を信じとる。水戸の山から、誰かが千夜を誘拐したのは間違いない。着物も金目のモンは取られたみたいやしな。身分なん、わからんやろ。」


「はぁ。私の話しはいいよ。」

「よくねぇよ!」

「最近知ったんだって、私だって。芹沢が水戸から多摩まで連れて行ったのは覚えてたけども……、なんか、記憶が曖昧なんだよね。」


あっけらかんと答える千夜。

本人の中では、どうでもいい事らしい。


「他人事みたいに言ってんじゃねぇよ。俺は、誘拐犯になっちまうっ!」


「なら、そう言う事にしとこう。」


ゴツンッ


「お前はバカか?孝明天皇の許嫁を連れさらったら罪人だぞ!」


「新選組だって、極悪非道だったじゃん。」


「ちげぇ!」


「土方くん、千夜さんは……、孝明天皇の許嫁だったんですか?」


「あー、過去だよ。過去。元許嫁ね。」

「………」


開いた口が塞がらないとは、この事かと幹部一同は唖然とした。









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