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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
209/281

仲間を手にかける

自室へ戻った沖田は、赤く染まった千夜を布団に寝かせ、手拭いで綺麗にしていく。


寝間着を着せながら、沖田は言葉を漏らした?


「————幕臣」

どうでもいい。喜ばしい事だろうが、身分や立場、そんなモノに沖田は興味が無かった。


千夜の斬った中に、新入隊士も居た。半数が下関戦争を知らない者達が、死を望んでしまったのだ。そして、泣きながら、隊士の名を呼び、斬りつけた千夜の顔が頭から離れない。


隊士を一番大事にしてた千夜は、入隊したばかりの隊士の名まで呼んだ。


「どうして君は、いつも辛い道を選ぶの?」


死にたい隊士は、切腹したらいいのに……。彼女が傷つかないならその方がいい。だけど、彼女は、傷付く道を選んでしまう。


わかってるんだ。切腹させたく無い彼女の気持ちは、切腹を初めて見たとき、ゴロンと転がった人形のようになった人間。人を刺し殺すよりもおぞましい光景に、ただただ、息を飲んだ……。


罪状は、何だったか?


新選組を守るための局中法度は、鉄の法となり、羽目を外し過ぎた隊士にも適用される。


切腹をさせない様に千夜は動いているのは沖田は、知っていた。どんな隊士でも、彼女は全力で守ろうとする。しかし、守れるのも限りがあるのだ。事件を起こしてしまえば、千夜の行動は無駄となる。


切腹は、確かに減った。零番組が出来て切腹するものは、————居なかった。


零番組が、未然に防いで居たのだ。


「君は、本当に凄いよ。」


芹沢を殺した時の彼女の覚悟。今日、改めて実感した。死んだ者達の為に新たな世を……。


「君は、僕が守ってみせる。

だから、そんなに強くならなくて大丈夫。

————だって、強かったら、僕の出番がなくなっちゃうでしょ?


君を守りたい。こんな辛い事は、もう起きないで————。これ以上、千夜を苦しめないで。どうか、お願いします。」


何に願っているのか?神か?仏か?それすら分からず、ただ、願わずに居られなかった。




夜中に目を覚ました千夜は、声を押し殺す様に布団に潜り込む。


「…つ……くぅ……ふぅ…ヒクッ」


声を押し殺し泣く千夜。泣いても、殺してしまった仲間が戻って来るわけじゃない。


だけど、刀を突き刺した感覚が、仲間の最後の顔が、離れない。


————千夜さん、ありがとうございます。


————すいません。こんな事をさせて。


そう言って死んでいった仲間達。それは、まるで、梅姐の様であった。


感謝される事なんかして無いのに、命を奪ったのに————。


「…ちぃちゃん……。」


抱きしめてくれる、横に寝ていた彼。


「君は、間違ってたかも知れない。でも、彼らは、わかってて刀を抜いた。武士として、戦って死んだんだ。君のおかげで、————武士として死ねた。」


武士として


「泣くな。君は泣いたらダメだ。」

散っていった彼らの為に————。


キュッと唇を噛みしめる。


「彼らは、自分の信念を貫いた。だから、泣くのは違う。辛くとも、受け入れて?辛すぎるなら、僕も背負うから………。」



ぎゅっと、抱きしめる腕に力が入る。


辛いのは、私だけじゃ無い。仲間が死んだんだ。総ちゃんだって辛い筈……。他の隊士たちだって…


なのに、誰も私を責めなかった。


彼らの死を忘れてはならない。

己の意思を貫いた、彼ら自身も————。


私は、泣いたらいけない。トドメを刺したのは、私なのだから。


「ありがとう。……総ちゃん。」


次の日、

新選組が幕臣となった初日である。局長と副長が将軍と謁見する事になっていた。


千夜は、勤務の為、二条城にやって来た。


「ちぃ、大丈夫か?お前顔色悪りぃぞ?」

「ん?大丈夫だよ……。平ちゃん。」


今頃、近藤さんとよっちゃんは、家茂君と話をしているのだろう。


千夜が新選組隊士を凄惨に斬り殺したと噂は瞬く間に広がった————。


二条城でも、そんな事をコソコソと家臣達が話していた。それを聞いた藤堂。


「彼奴らっ!ぶん殴ってやる!」

「平ちゃん、大丈夫。大丈夫だから……。」

「…ちぃ……」


彼女が、痛々しくて見ていられない。

「本当だから。私が殺したのは、本当の事だから………。

どんな理由があっても、……私が過ちを起こした。


どっちが良かったんだろうね?腹を斬った方が良かったのかな?

結局死んじゃうのは、変わらない————。

ただ、生きて欲しかった。」


仕事なんか、放り出してしまえばいいのに、彼女は、それをしない。


彼らの死を受け入れ、新たな世を創ろうとする千夜。


「……さ、仕事しよう?」


無理矢理笑って仕事に没頭した。山積みだった書類も1日で片付けた。


……忘れてしまいたい。けど、忘れてはいけない現実。


その日は、帰り道、山南と帰ることになった。伊東が居なくなった今、山南も屯所へと帰れる様になったのだ。しかし、町中は危険。伊東派が、何処に潜んでるか分からない為、辺りを警戒しながら町中を歩く。


町中に入り、行き交う人の多さに、少し警戒心が薄れた時だった。キラッと屋根が光る。無論、屋根が光るなんて有り得ない。


「山南さんっ!」


ドンッと、山南を押した千夜は、クナイを放った。そして、それとほぼ同時に、バーンッと銃声が響いた。


そして、千夜と山南は、男達に囲まれてしまった。


サッと千夜が投げたクナイは、屋根の上の人物にグサッと刺さり、その人物は、ドサッと屋根の下に落ちた。


「新選組、山南に芹沢だな!」

「————っう。だったら?」

「身柄を捕獲させて貰う!」


これは伊東の命か?それとも岩倉か?


千夜の腹から流れる鮮血に、山南は気づいた。


「千夜さんっ!」

「掠っただけです……。」


腹を押さえる千夜。掠っただけの血の量では無い。


「山南さん…行ってください……助けを呼びに……」


ふわっと笑う彼女。


今の私は、足枷にしかならない————。


「ダメです。一緒にっ!」

「……コレを……私に何かあれば、使って!

行ってください!

私には、沢山の隊士の魂が付いてます!


まだ、生きていいのなら、きっと、助けてくれる……。山南さんっ!早く!」


山南に渡した紙。


「……クッ、わかりました……」


苦渋の決断だった。17、8人の男に傷を負った千夜と山南では、どう考えても敵うわけがない。


「道は、私が開きます。」


バンッバンッバンッ


「かたじけない。」


走る山南


「……どうか……ご無事で……」


自分が怪我してるのに、そんな事を言う千夜。山南は、千夜が道を作ってくれたおかげで、難なく、走り去った。


……バチが当たった…

大事な仲間を手にかけたから……


「…お前一人で何が出来る?」


「さぁ?何だろうね?


相手が何人でも、そんな簡単には捕まらないよっ!私、往生際が悪いんでねっ!」


シュッと振り下ろされる刀それを受け止める千夜。


撃たれた腹が痛む。そう、顔を歪めた時だった。


「何だ?このガキ!」

「————お兄さんを虐めるな!」


零番組の初めての巡査の時、私の前で、派手に転んだ男の子が、柄の悪い男の前に立ちはだかる。


————ダメ。


ガツンッ


突然、椅子が飛んできて柄の悪い男に激突した。

























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