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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
207/281

思想の違いと伊東分離

次の日の早朝の事であった————。


「分離?」


早朝に響いた土方の声。土方の隣には、近藤が座っていて、目の前には伊東の姿があった。そして、彼は、あろう事か、分離したい。そう、申し出たのだ。


「えぇ。孝明天皇の命で————。」


サッと、懐から取り出し、御陵衛士の参加願い書を近藤、土方の前に広げて見せる。


それを見た途端、土方の表情は、一変した。


「面倒くせぇ、話はいい!袖を分かち合おうってんだろ?伊東さんよ!」


「意は決したと、そう言う事でしょうか? 」


土方の怒鳴り声に、意気消沈した様な近藤の声が続く。


「ええ。新選組には、知られてはいけない事が山の様にあるみたいですし。ねぇ?」


まるで、自分は、何もかも知っているかの様な伊東に、クッと唇を噛み締める土方。


その時、襖越しに女の声が聞こえてきた。


「薩摩に相手にされないから、次は、朝廷ですか?お忙しいですね。伊東さんは。」


スッと開かれた襖。そこに居たのは、千夜であった。許可ももらう事なく、部屋に入ってきた彼女。土方は、頭を抱えため息を吐き出しながら呆れた様な声を出す。


「ちぃ。今は、伊東さんの————。」


「御陵衛士でしょ?離隊は切腹ですよね?」


本人を前に、そう言って退ける千夜は、伊東を睨みつけたまま、そう言葉にした。


「私は、知ってるんですよ!!山南さんが————!」


「山南敬助は、生きてますが、それが、何か?

……ああ。死んだと思ってたんですか?伊東さん、貴方、勘違いをしている。


山南さんは、死んだように見せかけたんです。よ。間者になって頂くには、一番手っ取り早いじゃないですか?」


山南さんは、間者なんてやってない————

何故、彼が生きてる事実を話すのか?


何を考えてやがる?ちぃ……。


土方は、しばし、口を閉じることにした。近藤も、土方を見てから、口を一文字に結び直す。


「間者?」


「そうですよ?長州に間者として潜伏してたんです。そしたら、面白い事がわかりまして……。」


そう言って笑う女に、伊東は、顔を強張らせた。敵対してる長州に、新選組が潜り込んでもおかしくはない。しかし、伊東は、長州。その言葉に、次の言葉がうまく出てこなくなってしまった。


「将軍の暗殺を考えているらしいんですよ?その、御陵衛士という新たな組。」


土方と近藤は顔を見合わせた。

わざとらしく、まだ畳の上に広げられている文を持ち上げた千夜。


「御陵衛士。まさか、伊東さんこれに参加なさるつもりで?」


ヒラヒラと文を揺らす千夜を伊東が、ギロッと女を睨みつけた。


「将軍様の暗殺など、考えているわけないじゃないですか!何を言っているんですか?孝明天皇が作った組ですよ?日本を一つにするんです……。千夜さん、貴女と考えは同じでしょう? 」


「えぇ、そうですね。

しかしながら、その御陵衛士。どうやら、孝明天皇の考えでは無いようで、彼は何も知らないと言ってるんですよね。おかしいですね?」


彼と言った千夜。


「彼?」


「えぇ、彼。孝明天皇です。

昨日、直接会い、話をして来ました。」


「は?貴女、何を言って……?」


ただの女が、天皇に会うなんて出来るはずない。見え透いた嘘だと伊東は、結論付けた。


しかし、


「岩倉具視が御陵衛士を作ったんですよね?」


この言葉に、目を見開いた伊東。これは、明らかな肯定である。


「長州の伊藤と井伊を殺したのは、貴方ですね?」


「………長州の事など…」


「関係あるんですよ。貴方が欲しがった長州のヒメは、————私ですから。」


伊東の前に立ち、そう言った千夜に、伊東は、目を見開いたまま視線を彼女へと動かした。


「————ち、長州は幕府の敵ですよ!」


「いいえ。長州、薩摩、坂本龍馬、天皇、将軍、会津、一橋公は、私に力を貸してくれると手を組みました。」


その証明となる、血判状を伊東の前に置いた。それを、慌てた様子で拾い上げ、読み進める伊東。


「朝廷の為の政治なんか、誰も望んでないんですよ。


そして、酒井を死に追いやり、沖田を痛めつけた事実。新選組が、知らないと思ってるんですか?」


「御陵衛士は……」


それでも尚、言い訳を考える伊東。御陵衛士が将軍や天皇の暗殺を企んでいるのなら、新選組からの離脱も分離も出来ない。


そして、なにより、伊東を見つめる彼女は、怒りのオーラを纏って居た。


「伊東さん、これ以上、私を怒らせない方が賢明です。私以上に怒りやすい方々が、屯所に来てましてね……。

岩倉具視は、逃げましたよ?将軍の暗殺計画を追求したら。」



追い詰められた伊東。千夜が、和解を望んで居たのにも関わらず、彼は、刀を抜き千夜に突きつけた。


突きつけられた刀。

ヒンヤリと冷たい感覚が首に伝わってきた。


その様子に、近藤も土方も腰を上げる。


「伊東、テメェ!!ちぃをこれ以上傷つけて見やがれっ!切腹なんかじゃ、すまさねぇからなっ!」


「おやおや、まだ話し合いの段階で、新選組から出て行ってはないのに、総長に、酷い事を言いますね?」


いやいや、私に刀突きつけてるお前のが酷い事をしてると思う。



「ケッ!もう、意は決したと言った奴が、総長だとぬかすのか?そりゃ、都合が良すぎるだろ?————伊東さんよ。」


ニヤリ笑った土方


「お前らっ!」


スパーンッと襖が左右共に開け放たれた。そこに現れたのは、長州藩の面々、会津藩主、一橋公、西郷、坂本、中岡の姿、そして、新選組幹部、山南。


流石に天皇と将軍は、来なかったが、家臣らと共に、一部屋を囲んだ。


「本当に……」


家臣「…椿様っ!伊東、其のお方を徳川斉昭様のご息女と知っての無礼かっ!」


「…椿…徳川…」


何が、何だかわからない伊東。


刀を突きつけられても、クスッと笑う千夜に、伊東は、追い詰められていくばかり。


「幕府は、攘夷では無く、開国を宣言した!

朝廷と共にね。御陵衛士は、中止せよと孝明天皇、直々の御達しだ!」


そう声を荒げたのは、容保だった。


「…そんな……」


ユルユルと刀が、千夜の首から離れていく。


「伊東甲子太郎は、将軍、天皇の暗殺を企てたと情報が入っている!捕縛せよっ!」


その言葉に、伊東は千夜を盾に中庭まで逃げきった。


「新選組は、尊王攘夷の筈!平隊士達、聞いたか?お前らは何のために戦う?尊王攘夷の為に

新選組にいる奴らは、殺すのか?

局中法度に縛り付け、騙したのは、この女だ!」


千夜の腕をひねり上げ、そう叫ぶ伊東。何事かと、平隊士達があっという間に辺りに溢れてしまった。


「伊東、新選組は、いや、壬生浪士組は、確かに尊王攘夷だ。だがな、時代は変わる。

新選組は、佐幕を掲げた。


だけどな、平隊士も、幹部もそんな思想の為に生きてるんじゃない!

今、腹を斬りたいなら新たな世を見てからでも遅くない!」


「…俺は……何を信じて戦ってたんだ…」

「日本は終わりだ!」


平隊士の声が次々と聞こえ、局長に詰め寄る平隊士達の波に、伊東は、難無く逃げ去ってしまった。伊東派と思われる隊士達と共に————。



そして、腹を斬ろうとする隊士が続出する。

止めようと幹部達が小刀を奪うが、幹部隊士達のが少ないのが現状だ。


「新たな世を見るのが怖いか?何故だ!

連合国を見ただろ!奴らは日本に力を貸すと言ってくれたんだぞ!」


「それでも、俺は、攘夷こそ全て!」


……止められないのか……


「死にたい奴は、前に出ろっ!」


千夜の低い声が屯所に響いた————。



























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