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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
205/281

伊東と伊藤

でも、どう考えても、おかしい。

何故、沖田の前で話しをする必要がある?


聞かれたらマズイ筈なのに、ボイスレコーダーに録音出来ると言うことは、近くで話していると言うことになる。


まるで、

聞いて欲しいと言わん限りに————。


聞いて欲しい?

長州の羽織りが手に入ったが、野口が集めたのは不逞浪士だった。

伊東派として動いていた筈なのに、長州の志士は出てきていない。


長州の伊藤と言ったのは、何故だろうか?

別に、伊藤と呼ぶだけで、二人の男達の間では

通用するはずだ。


だけど、あえて、”長州の”と言った男は、たぶん長州藩の者だろう。


伊藤は、関与したく無いが、関与しなければならない何かがあると考えれば、必然的に、首謀者は岩倉具視————。

そう、考えるのが妥当だろう。


千夜は、何度も、その二人の会話を再生し続けた。何故なら、男の声に聞き覚えがあったからだ。

————誰?


でも懐かしい感覚。話し方が違うだけで、声は、聞いたことがある。


「————っ。楠だ。」


間違いない。あの場に居た者達は、長州が新選組に間者として潜り込ませた、


御倉伊勢武、荒木田左馬之助 、越後三郎、松井龍次郎、楠小十郎、松永主計


新選組に、長州の間者だと言われ、裁かれた彼らの声だと、千夜は、気づいた。

気を失ってるだろう、沖田に声をかける男達。


気づかれない様にか、小さな声で沖田を気遣う声までもが、録音されていた。



間者には違いないが、伊東に手を貸したいと言う意思はないらしい。


どうやら、千夜の休みは、お預けらしい。何故なら、長州藩邸に出向く必要がありそうだ。


伊藤の正体を明かすために————。





…で?

この人はなんで付いてくるのか?


長州藩邸に来たものの、隣でお茶を啜る沖田の姿に千夜は、脱力する。


「総ちゃん、寝てなきゃでしょ?」

「ヤダよ。」


即答だし……。


そんなやりとりをしていれば、スッと開いた襖に、二人は、背筋を伸ばした。

藩主、毛利の姿が現れ、後に、高杉、桂、吉田の姿が続いた。


毛利は、牢に入れられていた事もあったからか、すこし痩せた様に見える。


「久しいな千夜。……して、今日は?」



「新選組、一番組組長が襲われまして……。」


沖田を見てから、隣に居るじゃんという顔をされる。


「伊藤俊輔に会いたいのですが?」


目が泳ぐ長州藩主。これは、明らかに、何かを隠している。それは、千夜には、初めから分かっていた。


「あ、伊藤か、伊藤は、今、長州に————。」


「居ませんよね?京にも居ない。

彼は、もう、死んでこの世に居ない。————違いますか?」


「千夜、何を言ってるんだ。

伊藤は、本当に長州に……。」


「今、伊藤を名乗っているのは、吉田稔麿。貴方ですよね?」


「どうしてそう思うの?

伊藤俊輔が死んで、俺が伊藤を名乗ると思う理由を教えてよ。」


「まず、伊藤俊輔は、実在していた。

エゲレスに行き、下関戦争を止めようとしていた。彼は、異国の脅威を知っていた。長州藩の中にそれを知る者は伊藤の他に井伊聞多しか居ない。


二人は、下関以降名を聞きません。多分、殺されたのでしょう。


そして昨日、伊東甲子太郎と長州藩の者だろう声を聞きました。

長州の伊藤は新選組を潰す手助けをするだろうと……。しかし、これは全くの嘘。

あの場に居た長州藩士は、捕まった沖田を気にかけていました。潰すなら、弱ってる沖田を殺してしまう事は、可能なはず。

でも、しなかった。

新選組一番と言っても過言ではない、沖田総司の首を取らなかった。


だから私は、その場に居た者達は、長州の間者であると、そう思いました。

そして、利用された酒井の部屋にあった文、この文字は、吉田稔麿のもので間違いない。

だけど署名は、伊藤となっている。


これは、どういう意味でしょうか?


そして伊藤俊輔が書いた文。どう見ても、別人の文字です。」


二つの文を広げて見せる千夜。


全く違う文字なのにも関わらず、署名は伊藤俊輔と、同じ名前になっている文を見て、藩主は、桂に助けを求めるかの様に、視線を向けた。


「長州藩は伊東甲子太郎に弱みを握られている。違いますか?藩主。」


マトを得た様な千夜の言葉に、高杉はため息を吐いた。


「だから、千夜は騙せねぇって言ったんだよ!」


と、高杉が声を上げた。


「はぁ、本当、感が良すぎるよ。千夜。」


「千夜の言う通り伊藤俊輔と井伊聞多は

殺された。横浜に行く途中にね。」


「誰にやられたか、わかってねぇ。」


横浜?


「それは、慶応元年五月ではないですか?」

「その通りだ。」


それって………。


江戸に隊士を増やしに行くんですよ。


「伊東だ。あいつが、二人を……。」


そう言った千夜に、沖田もハッとする。

「隊士募集の為に、江戸に行った時期だ…」


そう。丁度、伊東が隊士募集に江戸に発った、その時期と重なるのだ。

「なんだと! !」


「高杉、千夜に怒鳴っても仕方ないでしょうが……」


桂が、高杉を黙らせる。



「伊藤俊輔は、異国に行き学んだ。どうしても、攘夷は無意味と知らしめるのには必要でね。

高杉も桂も顔がわれてる。

俺しか居なくて伊藤を名乗る事になった。


少ししてからだよ。伊東が接触してきたのは……。


どうしても手に入れたいモノがある。長州藩には、長州のヒメがいると聞いた。幕府と朝廷も頭が上がらないと、藩主が牢に入ってた事実もあって、まだ表向きは倒幕派で長州藩は通ってるからね。手っ取り早く、奴に間者を送り込んだ。」


伊東に力を貸してるように、見せかける為に————。




















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