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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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帰還と新たな疑惑

沖田の腹の傷は、えぐられ、酷い有り様であったが、抗生物質を飲ませたからか、傷からの熱もなかった。千夜が見守る部屋で、今は、スヤスヤと寝息を立てて眠っている。


部屋に光が差し込んで来た早朝に、千夜は、寝ることもなく、馬に飛び乗った。酒井と山崎が気になったのだ。沖田の身の心配は、無くなった訳では無いが、深い眠りについている今、見守るぐらいしか出来ない現状。その中、千夜は、酒井の故郷、摂津住吉へとむかったのだった————。



酒井の家へ入った千夜は、顔を歪めた。部屋の中は、赤く染まり上がり、壁に飛び散る赤は、何を意味するか、簡単に理解できた。


伊東の姿はもう無く、突入時に居た男達も、すでに逃げて居ない。————山崎の姿すらない。空っぽの部屋を後にした千夜は、引きずった跡を見つけ、それを辿り着いた先は、小さなお墓があって、その前に、山崎は座り静かに

墓を見ていた。


力なく、墓を見つめる山崎。その肩にポンっと手を置いた。


「……ちぃ ……。何で、死ななあかんかったんかな?」


なんて、声をかけてあげたらいい?

枯れた声の山崎。腫れた目で自分を映す彼の姿は、痛々しい。


「意味なんてないよ。酒井は、この時代の被害者だ。


倒幕派の人間は、処罰されるのが当たり前。幕府は偉い。


新選組の中も徳川幕府と同じ。近藤さんは偉い。組長は偉い。

それを傷つけたら、殺すか、切腹。

————何のための局中法度なんだろうね。」


千夜は、そう言いながら、山崎の横に膝をつき、墓を見つめた。そして、再び口を開いたのだ。


「烝、忘れないで————。

死は、死で償えやしない。

この時代の生き方、生き様は、確かに凄いと思う。だけど、死んだらそこでお終いだ。


酒井の身は、潔白だ。

それを伝えるのは————、山崎烝の仕事だよ。」


「————身の、潔白?」


「より多くの隊士に伝えよう。死に追いやってしまった酒井の為に、私達が出来ることは……

間違った世を直し、酒井の身の潔白を証明させる事。

酒井の魂は、私の中。

新たな世に、魂だけは連れて行く。」


「ちぃ…」


墓に手を合わせた千夜


「酒井は、史実通りに死んだんか?」


そんな山崎の声に、手を合わせるのをやめた千夜。


「新選組から逃げだし、故郷で沖田総司に斬られ、まだ命はあったが傷を見て卒倒し絶命。

それが史実。時期は、丁度今頃だね。」


死ぬ経緯が違うだけ。立ち上がった千夜。それに釣られる形で、山崎も腰を上げた。


止められなかった悲しみは、彼女とて、同じ事。悔しそうに手を握り締めた千夜を山崎は抱きしめた。


震える体を抱き締めかえしてやる事しか出来ない千夜。

山崎は、辛い選択をしなければならなかった。

友の介錯なんか、やりたくなかった筈だ。


「…どアホや……あいつは……」


そう、悲しげな声が、千夜の耳に届いた。


どれぐらい、抱き合っていただろうか?

しばらくして、松本良順の診療所に戻った二人であったが、重症の沖田の安静を考え、彼を置いて屯所に戻ろうとしたが、


「僕も帰る!ちぃちゃん、僕を置き去りになんかしないよね?」


————置き去りって…。

そんな、捨てられた犬みたいに見られたら、連れ帰らねばならなくなる。


はぁっと、ため息を吐いた山崎。


こう言い出せば、沖田は、あー言えばこー言う。大きなワガママ子供になる始末で、安全面を考えて話しても、聞く耳持たず……。


千夜もついには、ため息を吐き出した。

要は、連れ帰らねばならなくなってしまったのであった。


沖田も一緒に屯所に帰還し、報告をする、山崎、千夜。そして沖田の姿に、土方は、視線を怪我をした張本人へと向けた。


「————お前、傷は?」


「痛いですよ?」

決まってるじゃないですか。


「………。じゃあ、何で帰ってくるんだよ。」


キョトンとした沖田。そして、さも当たり前かの様に、惚気の一言を言い放った。

「ちぃちゃんから離れたくないからですよ?」

「…………」


もう、なんか、全てがどうでもよくなった土方

「ちぃ、とりあえず、総司を……。」

どうにかしろ。なのか、早く休ませろ。なのか

言いかけた土方であったが、そんな彼の言葉を遮る様に、沖田が口を開いたのであった。


「長州に、間者がいますよ。伊東派が。ね。」


ニヤリ笑った男。

沖田は、ただ痛みに耐えていた訳では無かった。袖口から取り出したのは、千夜の携帯。


画像は真っ暗だが、携帯から声がした。


『長州の伊藤さんと岩倉さんは、伊東さんに力を貸してもいいと言ってましたよ?

この男、かなり腕が立つとききましたが、よかったんですか?』


『新選組は、邪魔ですからね。

私は、欲しいモノがあるんですよ。こんな、男よりも。もっと欲しいモノがね…。』


どうやら、沖田は、携帯のボイスレコーダー機能を使ったらしい。再生された声に、土方も山崎も、千夜ですら驚いた。


「岩倉?岩倉具視?伊藤って、伊藤博文?」

「知ってんのか?」


知ってるもなにも、伊藤博文は、明治、内閣総理大臣だ。

岩倉具視は、朝廷に仕える公家の生まれ。


どうして、その二人の名前が出て来たのか?

それに、伊東派の人間が何故、わざわざ、長州の伊藤さん。などと言う必要があったのだろうか?


————沖田に聞かれる恐れがあるにも関わらず————。


孝明天皇の暗殺説があったが、まさか、その二人が、将軍と孝明天皇の暗殺を企ててたとしたら?伊東と繋がってたら————


『徳川幕府は今終わった……』


家茂の死で、家臣らは、そう言った。

まだ、幼い明治天皇を操るのは、容易い事だ。


それに、一番気になるのは、岩倉具視の罪状だ。

一、孝明天皇を暗殺した。

二、京都で京都市民に対して殺人、火付け、強盗、強姦を繰り返し、「倒幕の密勅」を偽造。

三、坂本龍馬を暗殺した。

四、錦の御旗を偽造した。

五、日本を滅ぼす現在の官僚専政の基礎(明治政府)をつくった。


明治天皇のすり替えという説もある。


あいつが、新選組も幕府も壊そうとしているのでは無いか?


千夜の中に湧き上がった疑惑は、全てが憶測であった————。















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