酔っ払い副長
「副長いい飲みっぷりですね!」
と、土方を煽る平隊士。
「俺は下戸じゃねぇっ!ほら、ちぃお前も呑め!」
顔を真っ赤にした副長。そんな顔して、下戸じゃないってよく言えたね?
そう、思いながらも
「…私は……」
断りを入れた。なのに————。
「副長命令だ!」
そう言われてしまえば、平隊士の手前、呑むしかない。千夜は、手に持たされた盃をグイッと傾け飲み干した。
ガタンッ突然、土方が立ち上がる。
隊士達の目はそちらへと向けられ、幹部達、いや、試衛館の仲間達は、そそくさと部屋の隅に避難した。酒とツマミを持って……。
あーあ……始まっちゃうよ。
土方の酒乱が。
「ちぃ!テメェは、何で休まねぇんだ? !おかげで松本先生に怒られたじゃねぇか!」
そんな事言われても、私、忙しいんだから仕方ないじゃないか。
「あー、左様ですか……。すいません。」
棒読みで返す千夜に、反省などという言葉は、存在しない。
「しかもだ、よりによって総司と恋仲ってどうなってんだよ!」
仕事の事ならまだしも、恋仲の事を言われる筋合いはない。
「なにが?何が不服なの?負けたじゃん、よっちゃん。」
突然、グイッと胸ぐらを掴む土方だが、千夜の表情に変化は見られなかった。
「あれは、手加減したんだよ!」
「ふーん。土方副長、呑みすぎです。」
「俺はまだ呑める!」
「じゃあ、呑みましょう。」
胸ぐらを掴んだままの手をバシッと叩く
「俺は、副長だ!」
だからなんだ…
「土方君、千夜さんが可哀想じゃないですか……」
伊東が止めには入るが、目が座った土方は、彼を映し、
「テメェみたいな男女は大っ嫌いなんだよ!」
あーあ……いっちゃったよ。
キッと、伊東に睨まれるが、千夜は、何も悪くない。
掴まれた胸倉は、そのままで、周りを見渡す土方。どうやら、怒鳴り足りないらしい。
はぁ……
「あいつらどこ行きやがった!」
幹部達なら平隊士達の後ろに隠れたんだよ。よっちゃんが酔うと文句言いまくるから……。
「近藤さんも近藤さんだ!なんで、すぐ人を信じちまうんだよ!」
胸ぐらを掴んでいた手が離れたと思ったら、怒りの矛先は近藤さんに……。
近藤は、そんな土方を見て、ガハハハと笑う。
笑ってる場合じゃないです。切実に。
いつもなら、殴り倒してのばすけども、
平隊士の前で、伊東の前だし、どうしようかなぁ……。
魚の煮付けに箸をつけ、つまみながら考える。
怒鳴る土方を見て、みんな驚いて固まってるしね。目に入った沢庵をヒョイっと箸でつまむ千夜。
「よっちゃん?沢庵全部食べちゃうよ?」
まだ、近藤さんに文句を言ってた土方は、沢庵が好物である。
ジッと、千夜を見る土方。
箸には沢庵。
「はい、座って!」
おずおずと、沢庵に釣られる結構安上がりな男…土方。
「………」
犬が待てしてるみたいに見えるんですが?
「食べる?」
「食う。」
あーん。って、食べさせたら、ポリポリとご満悦な土方。
「酒。」
「……よっちゃんは水。」
「……ヤダ。」
大きな子供か!
「じゃあ、沢庵はもうあげない。」
「ヤダ!!」
「暴れない?」
こくこく頷く土方。可愛いんですが……?
その後、酔いつぶれて、私の膝に倒れ混んで寝てしまった。
腕が腰に回ったまま剥がれない。
「島田さん、副長運んでください。この人あんまり寝て無いのに、呑むから潰れちゃった……」
「御意。」
島田に運ばれていく土方を見て、
「やっと普通に呑めるぜ!」
隠れて居た試衛館の仲間達が自分の席に戻る。
その声にジロッと、幹部達を見る千夜。
薄情者たちめ……
「ま、まあ、千夜怒るなよ!呑もうぜ!なっ?」
杯にお酒を注がれたら飲み干すしか選択肢がない。……疲れた…
バタバタと、平隊士達が潰れても、幹部達は元気で、勧められるがまま千夜は酒を呑んでいた。
「……暑くない?」
いたって適温な室温で、そう言いながら着物に手をかけようとした千夜を沖田は、押さえた。
「ちぃちゃん、酔ってるよね?」
「酔ってないよ?」
コテンっと頭を横に倒した千夜
「本当に?僕は?」
「総ちゃん。」
「あっちに座ってるのは?」
「新八さん…って、なに?」
あっちと指差した場所には、確かに永倉の姿。
酔ってないらしい。疑わしいが……
「千夜もっと呑め!」
と原田と藤堂、永倉が千夜を囲む。
近藤は、伊東と話をしながらチビチビ呑んでる様子。
大丈夫かな。と、視線を永倉らに戻した。
「ちぃちゃんは、もうお酒はおしまいです!」
え……、私はどうすれば……?なんか変な空気……手には酒が注がれたままのお酒を見て、
とりあえず、飲み干し、杯を置いた。
「ちぃ?」
「ちょっと、厠行ってくる。」
「僕も————」
ついていくと言いたかった沖田だが、三馬鹿に拘束されてしまった。沖田が酔っても面白いことを思い出したらしい、酔っ払い達。
その間に、千夜は厠に行ってしまった。
ブスッと不貞腐れの沖田は、からかう男もいないし好いた女もいない。自分がおもちゃにされてる気分で、ただ、面白くなく、ぐびぐびとお酒を呑むしかない。
「お、総司、いい飲みっぷり!千夜の春画やっと見つけたんだよ!」
「は?」
隠してあったモノを見つけたと打ち明ける三人
「————っ!返してくださいよ!」
見せたくない。他の男には。なのに春画は四冊もある。
「まぁ、呑め。…な?話はそれからだ。」
ニヤリ笑った原田。
別にそっちの気がある訳ではないが、強い沖田が、ちょっと抜けてる所は見ると面白い。
でし。でし……言う沖田……
空になる度に継ぎ足されてくお酒に沖田は嫌になってくる。
「返してくれますよね?」
「返すよ?……多分な。」
わざと聞こえない様に言った原田
絶対、返す気ないよね…この人達……
そう思った沖田は杯を置いた。
「どうした?」
「僕も厠ですよ。」
そう言って立ち上がった。




