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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
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欠落した記憶と芹沢

「山南さん、仕事順調ですか?」


そう、部屋の主人である人物に声をかけた千夜。そこは、広く増築した前川邸であった。


山南は、増築した屯所の部屋へと移動していた。新たな屯所には、隠し扉があり、必要なら外に出られる様に改造した部屋となっている。

隠れられる場所もあり、まるで、忍者屋敷みたいな構造だ。


だが、山南は死んだ事になっているため、伊東よりも遠くの部屋で、千夜との部屋とも離れた部屋となっている。


理由なんて簡単で、伊東が千夜の部屋に来るからだ。


「順調ですよ。何も、屋根裏から来なくても…」


と、屋根裏から現れた千夜に呆れた表情をした山南。


「元観察方なんで、コッチのが気づかれないんですよ。屋根裏っていっても、ちゃんと掃除してますから綺麗なんですよ?」


そういう問題じゃないと思いますが……と、モゴモゴと口を動かした山南だが、諦めた様に話題を変えた。


「今日も、本ですか?」


と、手にしていた本を閉じながら問いかけた山南は、仕方ないですね。と言わん限りに微笑んだ。


「はい。山南さんの部屋暖かくて、つい、長居しちゃうんですけど、邪魔じゃないですか?」


「大丈夫ですよ。」

「よかったです。」


そう言って笑う彼女。

多忙な筈なのに、山南の部屋には、1日1回は姿を見せる。初めの頃は、不慣れな自分に配慮してくれていると思った。しかし、それは、二週間も続いている。だから、ふと、疑問に思ったのだ。


「千夜さん、私は、————死んでしまうんですか?」


「え?何言ってるんです?山南さんが死ぬのは、もっと先です。……どうかしましたか?」


「いえ、貴方は多忙なのに、私に会いに来てくれるから…」


「安らぐんですよ。山南さんと居ると。

ほら、よっちゃんはガミガミ姑みたいだし…」


「あはは。土方君に怒られますよ。」


「それは、内緒にしといて下さいよ~。」


嘘をついた。今日、二月二十三日、山南さんは、死ぬ————。その筈だったのだ。笑顔は、崩さないままに、千夜は、本を選ぶフリをする。


この数日、時間を縫っては、山南に会いに来ていた千夜。


————気づかれちゃったかな……。流石に……。


そんな事を思った時、


「————実はね、千夜。明里を身請けしようと考えてるんですよ。」


その言葉に、千夜は、振り返り、山南を見た。


「え?そうなんですか?明里、喜びますよ。」


「だから、千夜の充電も出来なくなりますね。」


そう言って、抱き寄せられる。

その温もりに、安堵したのは言うまでもない。



……山南さんは大丈夫……死んだりしない。ちゃんと、今、ここで、こうして心臓が動いてる————。


「ありがとうございます。貴方が私を支えてくれたから手の震えもなくなり、必要だと言ってくれたから、私は、此処に居られる。銃も上達したんですよ?」


そんな嬉しい事言われたら涙が出てくる。


「お礼を言うのは私です。

あの時、助けてくれなかったら、私は、死んでたかもしれません。

ありがとうございます。山南さん


充電出来なくても、これからも私を助けてください。

力を貸してください……怖いんです……

自分が間違ってるか、本当は、分からない……」



「千夜さんは、間違ってませんよ。

私で良ければ、力を貸します。

……泣かせてしまいましたか……?総司に怒られますね。」


そう言って、千夜の涙を拭う山南の手は、とても優しいものであった。

「大丈夫です。これは、嬉し泣きですから。

明里と幸せになった山南さんをまた見れるのは

嬉しいですから……。」


また。ではない。幸せになって欲しい。

山南さんにも……新選組の隊士達も……みんな……幸せな世で……




山南さんは、その後、明里を身請けした。世帯を持ち、屯所の近くに家を持った。


ちょうどその頃、伊東が江戸に隊士募集に行くと言いだした。同胞が少ない新選組に自分の同胞が欲しかったのだろう。


隊士募集ならと、土方と永倉、斎藤、島田が伊東と江戸に立った。


千夜は、二条城へ政の為に行く回数が増えていった。


二条城に行った、ある日の事

「……ねぇ、ケイキ。私は何で捨てられたの?」


ずっと聞けなかった事を口にした千夜。それを見据えていたのは、慶喜であった。


「椿、君は勘違いをしている。君は捨てられてなんてない。君は、誘拐されたんだ。」


……どういう事?


「…だって、

”お前なんか生まれなければよかった!”

”死んでしまえばいい”って……」


頭にたまに響く言葉達……。その正体は、一体なんだと言うのか?


「誰がそんな事……。」


慶喜は、本当に知らない様子で、噓を吐いている様には見えなかった。


わからない。親だと思ってた。その言葉を投げかけた人物は————。


「私は、水戸の山に捨てられて、芹沢に多摩に連れていってもらった。だから、新選組に出会えた………誘拐ってどういう事?私は……捨てられたんじゃ……ないの?」


「椿。君が捨てられたのなら、俺は、ずっと君を探してなんてない。ちゃんと、徳川椿の戸籍は残ってる。

芹沢が椿を多摩に連れて行ったの?」


その記憶はあるんだ。誰に山に連れて行かれた?


「………。椿、よく聞いて。君は、俺たちと山で遊んでいて行方不明になったんだ。」


……なに……言ってるの?


「……違う……違うよ……芹沢は、私を庇って怪我をした……芹沢は……、芹沢は……!!」


……誘拐なんてしていない……っ!!


カタカタと震えだす身体。そんな事、有るはずない。


絶対的な芹沢鴨の存在が、千夜の中で崩れだす。


「…椿……無理に、思い出さなくていい。


誘拐したのは、芹沢鴨じゃない。君が信じた芹沢鴨を信じろ。」


「ケイキ……」


芹沢は、私の目を心配してくれた。

そうだよ…私は芹沢鴨を信じてればいい……


あいつは、そんな事しない。

忘れよう……私の記憶が欠落しているだけだ…


だから、忘れてしまおう————。


















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