島原の情報網
本当渋々で着替えた千夜。
「ちぃちゃん綺麗……」
そう、言葉が漏れた沖田。
そりゃどうも。総ちゃん。全く嬉しく無いし、重いし……。
「私居なくても、話し進めれないの?」
天皇謁見をしぶる千夜。
「椿、嫌な気持ちもわかるがこればっかは我慢しろ。」
そして、孝明天皇の前に今、座って頭を下げている。面をあげよを三回言われてやっと、天皇の顔を見れる。面倒くさい……本当に。
「椿よく来たな。」
「世の為ですので。」
「冷たいな、相変わらず。元許嫁なのにな……?」
一同固まり、千夜を見た。
「それは、誠にございますか?」
と、土方が天皇に尋ねる。
「ああ、本当だ。本当なら椿は、俺の正室になる筈だった。だが、行方知れずになり、許嫁の話も流れたんだ。」
「此処に連れてくるのに、苦労しました。」
「あはは。椿らしいね。」
「うるさいです。幕府と、朝廷が手を組んで頂き、ありがとうございます。」
「椿、もうちょっと愛想よくしろ!天皇だぞ!」
「申し訳ありません……」
あまり、変わらない対応。
「構わないよ。椿だけだからね、俺を見て態度を変えないのは、昔からそうだ。
新たな世。薩長、坂本にも話しは聞いた。
新政府を幕府をそのままに作ると。
この前は、すまなかった。家臣らが間者疑惑をかけてしまい、疲労で倒れたと聞いたが?」
「体調は、大丈夫です。間者の事も気にはしておりません。出る杭は打たれるものですから。
ですが、打たれても、私は引きませぬ。」
「本当、もっと早く見つけてたら、正室に迎えたのに、惜しい事をした。」
ピクッと沖田が反応する。
「残念ですが、私にはこの堅苦しい所は合いません故、側室とて御遠慮頂きたい。」
「家茂も願い出たけど断られたって聞いたよ。恋仲がいるって、慶喜がなげいてたよ。」
ジロッと見つめた先には沖田の姿、
「……はぁ、堅苦しい……。
ヒロくんあのね、総ちゃんを睨むのやめて?
新たな世の話をしに来たの!恋仲とか許嫁とか今はいいから!」
ついには、普通に話し出してしまう千夜に、ケイキも容保もため息である。
後の者は唖然とするしかない。
「わかったよ。」
そしてそれすら気にしない寛大な孝明天皇。
「申し訳ありません……」
土方とケイキが謝る始末。
「幕府と朝廷が結びついたという証明が欲しいのですが?
他の方々からは既に頂いております故。何卒……。」
「そう言うと思って用意してあるよ。」
家臣が紙を千夜の前に置いた。
血判状。将軍と孝明天皇の……。
やっとだ……やっと……。日本を一つにする為の第一歩が踏み出せた。
こんなに嬉しい事はない……。
「有り難き幸せ……」
三つ指をついて、千夜は頭を下げた。
感極まって泣きだしてしまった千夜に、孝明天皇が上座から歩み寄り涙を拭った。
「……泣き虫は変わらぬな。」
ふわり抱き絞められる。
「…沖田、少し許せ……」
————お前が下関で頑張ったから、多くの者がお前を認めたのだ。
よく、やってくれた。感謝する。良き世を創り上げよう。椿。
そう、誰にも聞かれないように言った孝明天皇
そして、そっと離れた。
例え許嫁でも幼き時に共に遊んだ記憶は、消えはしない。
身分も何も考えず共にケイちゃんケイキ、ヒロくんと遊んだ。
あの頃に戻れはしない。
でも、共に良き世を創り上げれるなら、こんなに心強い事はない。
少しして、孝明天皇の謁見の時間は、終わってしまった————。
やっと、十二単から解放された。
「ちぃ、言いたいことが山ほどあるんだが、孝明天皇と許嫁って聞いてねぇぞ!」
「元ね、別に必要ないでしょ?」
「ちぃちゃんってどんだけ身分が、高い子なの?」
「ケイキと同等ぐらい?
別にいいじゃん、私、身分とか嫌いなんだよね。堅苦しいのも嫌いだしさ、政はやるけど、身分はいらないよ?」
「お前そう言って、新選組での給金すらうけとらねぇじゃねぇか!」
「……は?ちぃちゃん、無給で働いてんの?」
初めて知る事実。
「土方、椿は命懸けで下関でも式をとっていたのに、無給なのか?」
「ケイキ、私がいらないって言ったんだってば!」
「いえ、ちぃの給金は、貯めて、組に置いてありますが受け取らぬのです。」
「え?そうなの?
じゃあ、それ多摩のノブねえの所に送っちゃいなよ。」
「————お前の給金だ!」
「戦になるかもだからさ、少しでも助けになるじゃん?」
「……いや……だめだ。」
「私の給金なんでしょ?ノブねぇに…」
「だめだ…」
「椿らしいね。でも、今までどうしてたの?
欲しいモノとか。」
「え?欲しいモノはなかったし、着物とかは全部貰い物だよ?」
「長州にいた時も、何も欲しがらなかったな、流石に古着は買ってやったけど。」
着替えに困ったからだが………。
「……貰い物……古着…徳川家の者が……」
どうしても土方を見てしまうケイキ。
「申し訳ありません。」
近藤と共に頭を下げる。
「やめてよ!別に困ってないしさ、島原でも頂き物あったから……。」
「ちぃちゃん、島原で、ものもらったの?」
「え?ダメなの?」
「……島原って……」
「…………」
「…………」
まずい。言ってなかったっけ?
「…椿……島原って、まさか、働いてるんじゃないよね?」
「………えーーっと…」
視線を彷徨わせる千夜。助け舟は、どうやら来ないようだ。
「千夜はな、島原の太夫でな、君菊って名で、メチャクチャ綺麗なんだよ!」
少しは空気を読めないのか?高杉!
「君菊………」
「容保、知ってるのか?」
「会津の会合の時に、島原を利用した時に、見た。」
「は?」
「近藤、土方……」
「ケイキ、私が望んだ事だからね。
二人は反対したけど、私が押し切ったんだからね?」
「………」
「島原は、情報が飛び交う。酒も入って口も軽くなる。今、島原で会合なんて言ったら
すぐ私の耳に入る。
だから必要だった。
————島原という大きな情報網が。」
「肌は売っては————」
「売るわけないでしょ?舞に三味線、琴
あとは、話術でなんとか太夫までのし上がったんだから。」
「……まぁ、いい…よくはないが……」
どっちなんだよ!
「島原の情報網って……」
「え?新選組の隊士が誰と寝たかなんて、すぐわかるよ?」
その情報網が恐ろしい。




