伊東の勉強会
伊東に接触……
ならば、勉強会に参加すれば、襲われる事もない。そう思い、伊東主催の勉強会に参加してみた。
「珍しいですね、千夜さんが、勉強会に参加するなんて……。」
ニコニコと、仮面を被った伊東の顔に、千夜は、冷ややかな視線を向ける。
「いつまで、化けの皮を被ってられるか気になりまして。」
ニヤリと笑う千夜に、伊東の眉間にシワが寄った。
「と、とにかく始めましょうか。」
焦った様な伊東を尻目に、席に腰を下ろした千夜は、参加する隊士達をぐるりと見渡し、伊東へと視線を向けた。
「徳川幕府が出来て200年以上、大きな戦など起きず、武士も、弱くなっています。
幕府の時代はもはや終わったと言っても過言じゃない!
私は天皇こそがこの国を治めるべきと考えます。」
「では、幕府で働く者達は、無職になれと?
伊東さんの考えは最もですが、天皇を掲げるだけで、世は平和になるんでしょうか?
大きな戦……
下関戦争はご存知ですか?
平隊士の中にも、下関戦争に行った者達がいます。
異国の力をマジマジと見てきた者達がこの中にも……。
なのに、何故でしょうか?
貴方が開国を望まないのは、おかしくありませんか?
まるで、考え方が薩長と同じの様に思うのは、私だけでしょうか?」
「…たまたまでしょう…」
「では、徳川幕府が倒れたら、新選組はどうなるか、ご存知で、話をされているんですよね?
会津藩は幕府についてますよ?
新選組隊士達の生活の保護は、何処がしてくれるのですか?」
ざわざわしだした部屋の中。生活がかかってれば一大事だ。
「………それは、天皇が…」
「世の中、景気が悪いのはご存知でしょう?
だから、追い剥ぎ、辻斬りが横行してるんです。
天皇は、倒幕した者達の面倒を見れるのですか?
答えは不可。できやしません。
だからあなたは、天皇の下につこうと、
————離脱を考えてるのではありませんか?同胞を引き連れて……。ねぇ、伊東さん?」
見開いた伊東の目、コレは、肯定だ。
「————っ。なにを言い出すのかと思えば……そ、そんなの、デタラメです。」
「そうですか……。なら、いいのですが。」
「新選組は、女人禁制の筈!なのに貴方は何故、此処に居るのですか!皆を騙しているのは千夜さんでしょ!」
「確かに私は女ですが、平隊士達は知っています。別に隠すことも無いし、なんなら、手合わせでもしますか?
私は、実力だけで組長の地位までのし上がってきたんです。
芹沢鴨を継ぐものとして、新選組を守る義務がある。」
「何が義務です。芹沢鴨を殺したのは
————貴方じゃないですか!」
「伊東さん、芹沢局長は、病に苦しみ自害なさったのです。」
「千夜さんがどんなに辛かったか…」
「…あの時の千夜さんは、見ていられないほどでした…」
平隊士達が口々にそう言った。伊東の立場は悪くなるばかり
「幹部達を誘惑して、のし上がったのでしょう?」
「確かに、沖田組長と恋仲ではありますが
組長になってからですので、誘惑しても意味がないんじゃないですか?
あまり、噂話しを信じることはおすすめしません。
なにせ、新選組は、————人斬り集団と呼ばれるぐらいですからね。」
キッと睨みつけられる。だが、そんな事は、気にもならなかった。
勉強会は、終わりを告げる。もう、出ることもないだろう。
キーッと言わん限りの真っ赤な顔をした伊東。
千夜が強いのを平隊士達は知っている。
誘惑しのし上がってなんてないし、幕府が必要だと再度思い知らせる事になってしまった勉強会。
幸いな事に、芹沢鴨の遺書もあったため、芹沢殺しについては平隊士に助けられた。
騙してるのには変わりは無いが、それは芹沢の意志だ。平隊士達に知らせることはない。
薩長の考え方とは言ったが、今のではなく昔の薩長の考え方だ。
内密に薩摩に接触を重ねる伊東だが、西郷は、最近では、彼には会わない。
すでに、新たな世にしようと薩長共に歩み出している。伊東の考え方は、もはや古いものとなったのだ。
千夜が全てを変えた。同じ日本人。思想ごときで、殺し合いをするのは馬鹿げていると……。
攘夷の無意味を薩長は、思い知ったのだ。異国の脅威を————
新たな世が怖いわけが無い。
だが、 連合国が千夜に力を貸すと言った。
植民地はないと殺戮が目的ではないと、薩長共に広まったのだ。
三年の猶予。
世を変えるなら今しかないなら、それに賭けてみようと薩長共に色んな藩の呼びかけ
そして、幕府がようやく動いた。新たな世に向かい、千夜の力が欲しいと言ってきたのは、
年が明けた二月に近い時期だった————。
そして、千夜は、また、天皇の謁見をする事になる。
「また、十二単着なきゃダメなの?」
「文句を言うな椿、正式な格好だから仕方ないだろう。」
だからって…
「あれ、重いんだよ?」
近藤、土方、沖田まで正式な格好をしている
薩長も坂本もだが……。
「文句を言いよらんとはよぅ着替えろ。」
「そんな格好でうろちょろしないで?」
そんな格好とは、キャミに短パン姿だ。
「天皇陛下を待たせてるんだぞ!」
「はぁ……」
皆「ため息つきたいのはコッチだ!」
「ケイちゃん、着なきゃダメ?」
「お前、いつになったら俺を容保と呼ぶんだ?ケイキのが立場が上なのに俺にふるな!」
「いえもち君……」
どうしても嫌らしい。将軍に泣きつく千夜。
「ダメだね。」
ばっさり切り捨てられ、渋々着替えさせられる千夜は、ずっと、不満げな表情であった。




