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浅葱色を求めて…  作者: 結月澪
下関戦争
193/281

芹沢派、野口


夜の巡察に、本当についてきた沖田


「愛次郎、狭い路地や角に注意してね。 」

「はいっ!」


「安藤、新田、奥沢周りを警戒して。」

「わかってます!」



横を歩くのは沖田

「いいよね~零番組は…」


今、巡察中だからね?


「沖田組長、やる気ないなら帰って構いませんが?」


「ヤダよ。」

「………」


愛次郎が刀を抜いた瞬間、一気に笠を被った浪士達に囲まれた。


「やっと、お出ましだ。」


と、刀を抜く沖田は、楽しんでる様にしか見えない。

男達の着物には、長州の家紋がしっかりと見える。


そして、笠も被らずに千夜の前に立ちはだかるのは、零番組の

「…野口……」


間違いない。長州の羽織は羽織ってるが

こいつらは長州なんかじゃない。


不逞浪士の寄せ集めといったところか。

千夜が、刀を抜く。怪しく月光を浴び、煌めく刀


「…何で……千夜さんが……」


千夜が来るとは思ってなかったのだろう。野口の声がしっかりと、耳に入ってきた。


ザシュッっと聞こえた零番組隊士が不逞浪士を切り倒す音が開始の合図となった。散り散りに浪士達を捕縛しようと零番組の隊士達が斬りかかる。


千夜を目の前にして、後退する野口

「仲間を見捨てて逃げるか?」

「仲間なんかじゃ……ない……」


野口は刀を抜かない。

「俺は、千夜さんを守るために!」


沖田も千夜が気になるが、不逞浪士の対応におわれ二人の近くに行けないでいた。


零番組は、ただでさえ数がすくないのが原因だ。


「私の為?」


スッと、千夜は、刀を収めた。


その瞬間に、野口に拘束されてしまう。

「甘いんですよ!千夜さんは!!」


ふっと笑う千夜


「甘いのは、どちらだ?野口。」


カチャッと音をした方を見れば、足に突きつけられた銃。


素手で捕縛した野口と、足に銃を突きつけた千夜。勝つのはどちらかか、誰が見ても分かるだろう。


「千夜さん、俺は、本当はこんな事したくない

だけど……伊東が……」


そこまで話した野口。

屋根からの殺気に、野口を押し倒した千夜だったが、ザシュッっと鈍い音がして、足に刺さったクナイに、すぐさま、銃を撃てば屋根から攻撃してきた奴が落ちた。


赤く染め上げる地面。


「千夜さん!なんで、俺なんか!庇うんですか?」


彼女の足に突き刺さったクナイが痛々しい。

ぎゅっと手ぬぐいを縛り付け、千夜は、クナイを引き抜いた。


「……庇ってない。邪魔だったから押し倒しただけ。あのね、野口。あんたは私に伝えたいことがあったんでしょ?

途中で死なれてみなよ。気になってしょうがないでしょうが…」


「…千夜さん……」


「ちぃちゃん!刺されたの?」

「復帰早々、本当ついてない。帰るよ。屯所に……

野口、お前もだ。足が痛いの、支えて?」


本当は、一人で歩けるのに、この人は、屯所に向ける理由を作ってくれる。


不逞浪士も捕縛し屯所へと、帰ったのだった。







「野口……テメェ、よくも、のこのこと————!」


「はいはい、今は黙って?よっちゃん…」

「俺は副長だっ! 」

「連れ帰ったのは私!」


「裏切った奴だぞ!お前をひどい目に合わせた奴だっ!」


「————罪を憎んで人を憎まず。」


さすがに目を見開いた。酷いことをした男を許すということだ。


「……許すって言うのか?」

「そうだよ。」


それが何か?と言わん限りの千夜


「……なぜ?」


自分が一番辛かった筈なのに、苦しかった筈なのに……。


野口を許すという千夜。


「仲間だから。何度裏切られても、 私は野口を信じるよ。それでまた、裏切られても、何度でも、信じる…」


「…千夜さん……すいませんでした……」


頭を下げた野口、畳に擦り付けるほど、


野口のすすり泣く声が部屋に響いた————


「とんだバカですね。ちぃちゃんは……

まぁ、そこもいいところ何ですけど~。」


総司、ノロケるならどっか行け!

と、心底思う土方。


「わかったから、頭を上げて話せ。何故、ちぃを裏切ったか……」



頭を上げた野口。そして、ゆっくり口を開いた


「俺は、芹沢さんが死んだ日、前川邸に居たんです。

八木さんが寝てた部屋に八木さん宅の男の子と遊んで一緒に寝とったら、声が聞こえてきて……。


ただ事じゃないと一旦飛び出して、芹沢さんを守ろうとしたんです。

だけど……怖くなって隣の部屋に入ったら、

芹沢さんの日記が置いてあって、最後のとこに、千夜さんに殺して欲しいと


書かれてました


他は暗くて、よく見えなかったんですけど…。

そして、千夜さんが芹沢さんを刺した場所を見たんです……」



まさか、見られていたとは思わなかった。

思い出したくない過去……


「俺は、千夜さんが言う、日本を一つにとか、開国とか夢物語で、甘っちょろい考えだと思ってました。

でも、千夜さんの覚悟は、重く、そして辛い選択だったと今でも思ってます。


芹沢さんを自害に見せるために、次の朝千夜さんが前川邸に来た時は、冷酷な人だと思った……」


グイッと野口の胸ぐらを掴む沖田


「ちぃちゃんが、どんな思いで……

そうしたか、お前にわかるか!


芹沢派の人間を殺さないようにだ!

野口、お前も他の芹沢派の人間も芹沢殺しの疑いをかけ、暗殺されるところだったんだ!

それを、ちぃちゃんと芹沢さんが止めたんだよ! !


自害に見せかけ、犯人は居ないと!芹沢さんは

死に装束まで着てたんだ…」


野口の目が見開いた。そんな事は知らなかったから。


「総ちゃん、野口を離して。いいんだよ。私がしたのは人殺し……それは変わらない…」


「でもっ!ちぃちゃんは!」


「どんな理由でも、綺麗事になんてならない!

殺した事は、一生変わらない……」


ドサッと野口の胸ぐらを離す沖田…


「冷酷な人と思ったのは確かです。


その後、千夜さんは、毎日毎日芹沢さんの墓参りをしてるのを見て芹沢さんの手紙をずっと持っているのを知って、俺は、零番組隊士になりました…


救護、特攻を習い、女なのに、まるで歯が立たない…悔しくて投げ出してしまおうとも思った


だけど、その度に千夜さんは、俺らは、自分の希望だと言ってくれるんです。

人の命の尊さを教えてくれて、本当に尊敬できる人だと思った。


だけど、伊東さんが現れて千夜さんの話を聞いてきたんです。

初めは断ったんです。だけど、酒を呑まされた時に、何か薬を盛られて、全部話してしまったんです。


そして、役人を殺してしまい、伊東に、脅され……知られたら、獄舎だと…

家族も皆、皆殺しだと言われて…千夜さん誘拐の手助けをしてしまいました。」

「…役人?」


「内山 彦次郎という人らしいです。」

「…らしいって……」


「覚えて無いんです。確かに大阪には行ったんです。だけど、血がついた着物に刀しか……」


「…それは……騙されたんだね伊東に……」

「何故、言い切れるんだ?ちぃ?」

「内山 彦次郎は大坂西町奉行組与力

そいつを暗殺したのは、————私だからね。」


「は?」


「力士問題で揉めて、近藤さんの依頼でね~」


頭を抱えるしかない土方


「野口は何にもしてないよ。」


散切り頭にしてしまった野口の頭を撫でる


「…千夜さん!」


感極まったのか抱きしめられる…


ベリベリ


「はい、おしまい。離れて!」

「…総司、お前本当居なくていいぞ。」

「なんでですか!」


「野口だって辛かったんだ。抱きしめるぐらいさせてやれ。どんだけ、小せえ男なんだよ!」


「う……」


「そのうち、ちぃに愛想尽かされるぞ。

そしたら、いただくからな。ありがたく……」


「なんで、老いぼれにやらなきゃならないんですか!嫌ですよ!あげません。」


私、ものじゃないんだけども?

はぁ……


「老いぼれじゃねぇ!まだ現役だ!」

「どっかの遊女抱いてればいいじゃないですか!手当たり次第なんですから!ちぃちゃん可哀想です!」


「ちぃが手に入るなら他はいらねぇな。」

「口だけですよ!土方さんは!ってか、僕の恋仲ですからね!唾つけないでください!」



どうでもいい会話に、野口と共にため息をついた


















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